早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
工学系研究科 都市工学専攻

花木 啓祐 教授

はなき・けいすけ
1952年兵庫県生まれ。80年東京大学大学院工学系研究科博士課程都市工学専門課程修了。80年東北大学工学部助手。83年東京大学工学部都市工学科助教授。92年同教授。この間85~87年バンコク・アジア工科大学院環境工学科助教授に派遣。91年米ピッツバーグ大学工学部土木工学客員教授。93年東京大学先端科学技術研究センター都市環境システム分野教授。98年より現職。02年東京大学大学院工学系研究科附属水環境制御研究センター長(併任)。05年東京大学サステイナビリティ学連研究機構教授(兼任)。05年日本水環境学会学術賞受賞。主な著作に『都市環境論』『都市のアメニティとエコロジー(分担執筆)』(ともに岩波書店)『都市を保全する(分担執筆)』(鹿島出版会)などがある
ちなみに「花木啓祐ホームページ」はコチラ ↓
http://env.t.u-tokyo.ac.jp/~hanaki/index-j.html

  • mixiチェック

この地球この国は持続可能なのか?

花木研究室のある工学部14号館
本郷キャンパス正門から安田講堂

世紀を跨いでより以上に喫緊の大問題として環境問題への認識が人々に共有されるようになってきた。そんななか地球温暖化対策研究における本邦最高権威とされるのが、今回ご紹介する東京大学大学院工学系研究科の花木啓祐教授その人だ。その事績の数々は順々に紹介するとして、専門分野とする「都市工学」という学問の内容から伺っていこう。

「都市工学という学問分野が日本で成立したのは東京オリンピックを控えた60年代初頭のことになります。高度経済成長まっ盛りのこの時期から大都市への人口流入が顕著になり、都市特有の環境破壊問題が浮上していきました。そうした都市問題の問題解決のための学問として始められたのが都市工学ということになります」

都市工学を担う研究者としては、土木工学と建築の研究者を中心としつつも他にも社会問題や法律など文理を超えた専門家がその当初から横断的に集められ、都市問題をトータルに見られる人材が必要とされてきた。21世紀のいまや当たり前となった学際的・複合的研究の先駆をなす学問分野でもあった。

そして日本における都市工学研究のメッカともいえるのが東京大学工学部都市工学科なのだ。そうした東大都市工学科の特徴について花木先生は演習と実験の重視をあげる。

「都市の諸問題を解決するためには机上で考えているだけでは駄目なんです。現実の場所に立ってデータを収集し、実際に手を動かして実験・実証しないといけないからです。ですからカリキュラムの多くの時間は演習と実験に充てられています」

そのためか東大都市工学科の卒業生たちの就職状況は景況にかかわらず常に好調で、あらゆる業種に及ぶのが特徴という。都市工学を学んだ者特有の視点の総合性、さらに演習と実験により積極性が身に付いていることなども評価されているのではないか。そう花木先生は分析してみせた。

地球温暖化対策研究における最高権威

東大本郷キャンパス工学部の建物群
東大工学部1号館前の大イチョウ

ここで花木先生の研究事績についてだが、あらためて「守備範囲」の広さには驚かされる。その中心は温暖化を軸にする地球環境問題だが、ほかにも①水環境問題②ライフサイクル・アセスメント(製造工場の製造工程および工場環境問題)③都市空間の持続再生問題④ヒートアイランド問題(都市気候問題)――などと続く。これらのいずれもが個別にプロジェクトチームが組まれ、そのいずれにも中心的に参加する。

そのひとつに環境省「脱温暖化2050プロジェクト」がある。そして、同プロジェクト都市研究グループの代表も務める。

「これは、2050年までにCO2(二酸化炭素)の排出量を70~80%削減して地球温暖化に歯止めをかけようという国家的プロジェクトの一環となります。この計画作成・試算検証はほぼ目処がついているのですが、来る08年に北海道・洞爺湖で開かれるサミットの場における日本政府の正式見解の根拠とすることに急遽なりまして、いまその達成根拠の資料づくりに追われているところなんです(笑)」

その肝心な達成根拠だが、いま話題のバイオ燃料(生物体由来エネルギー)や風力・太陽光発電等による自然エネルギー供給、さらにエネルギー使用量の削減の組み合わせ等がうまくいけば可能となるという試算のようだ。

さらに花木先生の研究テーマは、地球環境問題そのものから少し離れて、サステイナビリティ学(持続可能性のためのビジョン構築学)にも広がる。その代表的な研究プロジェクトともいえるのが「AGSプロジェクト」と「サステイナビリティ学連携研究機構」(IR3Sプロジェクト)――の2つだ。

「AGSプロジェクトはスイス連邦工科大チューリッヒ校(ETH)の呼びかけで始められたもので、米マサチューセッツ工科大学(MIT)やチャルマース工科大学(スウェーデン)それに東京大学の4大学が参加しています。4大学の学長(総長)と担当研究者が年1回集まって地球の持続可能性のために大学・研究機関でできることは何なのか検討するもので、そのコーディネーターをわたしが務めています」

そうしたAGSプロジェクトの活動を受けて、国内5大学が連携して同様の研究テーマを掲げて05年から始められたのが「IR3Sプロジェクト」ということになる。

「こちらは東京大学が企画運営を統括し、これに京都大学と大阪大学・北海道大学・茨城大学の4大学が参加(ほかに個別テーマで5大学と国の研究所も協力)して、21世紀の地球社会を持続可能なものにするビジョンの構築について研究するものです。文部科学省の支援も得ています」

この「IR3S」においても東京大学を代表する研究教授として花木先生は参加している。柔和な顔立ちで温和な人柄を感じさせる先生だが、こと研究内容のこととなると過剰なまでの旺盛さを垣間みせる。とにかくスケールの大きな先生なのだ。

全研究室生と月に2度も個別に面談

工学部エリア内にある「スタバ」
花木研究室忘年会でのひとこま

ついで花木研究室のことについても聞いておこう。学部生で研究室入りができるのは卒業研究を行なう4年次学生で、その人数は年度によって2~5人とやや幅があるらしい。

「卒業研究のテーマについては私の方から提示したうえで、何を研究するのかは学生同士で相談して決めます。わたしの研究室では、学部生であっても個別研究が原則です。計画準備から実験研究・論文作成まで1人でやってもらいます。そうすることで、自力で考え抜く力をつけることと研究結果について自分で責任を持つことという指導上のねらいがあります」

こうした研究室の方針は教えを受ける側にとってはなかなかに厳しいものがある。しかし実は学生や院生に厳格に求めるだけでなく、花木先生独特の徹底した指導ぶりもひたすら熱い。その様子は、研究室ミーティングが全員参加で毎週開かれることからも窺われる。

「このミーティングは他の分野の研究室の会議と合同で開くようにしています。そうすることによって、違う分野の研究者や研究室生の意見を聞くことができ、違った視点から自分たちの研究を見直す利点もあるわけです」

いかにも進取の気性に富む花木先生らしいアイデアによる学際的ミーティングでありグループ研究の場なのである。

さらにもうひとつ、花木先生は2週間に原則1度くらいの割で全研究室生を相手にそれぞれ1時間半ずつをかけて個別面談を行なう。学部と大学院での日々の講義があり、多数のプロジェクト会議への参加があり、学会・行事も多々あって超多忙を極める世界的研究者が、こうした個人面談だけは欠かさないのだ。

「それこそが大学教授の本質ですから」

事もなげにそう語る花木先生。この国の高名な研究者・学者においていかに例外的なことかを君たちもやがて思い知ることだろう。まさに名プロフェッサー中の名プロフェッサーに違いない。

こんな生徒に来てほしい

いまや日本の人口は減少に転じ、社会的格差も広がりつつあると言われます。これを再び活力ある社会に変えていかなければなりません。「脱温暖化モデル社会」の達成目標を2025年とすると、いまの高校生諸君が社会の中堅として働いている頃になります。そのためにも高校生諸君は1人ひとりどういう社会にしたいのか今からでも目標を持たなければなりません。そうした将来の社会像について考えられる人に来てほしいのですが、現役の高校生にこんなことを求めるのは酷でしょうかねぇ(笑)

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。