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GOOD PROFESSOR

電気通信大学
電気通信学部 知能機械工学科

山田 幸生 教授

やまだ・ゆきお
1948年山形県生まれ。73年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程機械工学専攻修了。74年工業技術院機械技術研究所入所。98年同研究所基礎技術部長。01年同研究所退所。この間83年米カリフォルニア大学客員研究員。01年より現職および(独)産業技術総合研究所客員研究員(兼任)。主な著作に『からだと熱と流れの科学』(オーム社)『光による医学診断』(共立出版)『非侵襲・可視化技術ハンドブック』(NTS)など。著作はいずれも共著。科学技術庁長官賞(96年)はじめ受賞多数
ちなみに山田先生が主宰する「山田研究室」Webアドレスはコチラ →http://www.ymdlab.mce.uec.ac.jp/

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放射伝熱から人体生体への工学的アプローチ

山田研究室のある調布キャンパス東4号館
電気通信大学正門を入ったロータリー

電気通信大学の電気通信学部知能機械工学科は、機械工学を基礎として電子工学や情報工学・コンピューターなどの知識も併せて学び、それらを融合させた新たな領域に挑戦する人材の育成をめざす学科として知られる。この学科の特徴について今週ご登場願う同大の山田幸生教授は――

「知能機械工学科を代表する研究といえば、ロボットやメカトロニクス等の華々しいものになるかと思います。〝ロボメカ工房〟という活動は他の国立大学などに比べてもかなり早く、10年以上の実績のある学科なんですよ」

ただし山田先生自身はロボットなどの「知能機械」の研究には直接関係ない。熱工学や光工学の手法を生体工学・医療工学に融合させて新技術を開発する――これこそが現在の専門分野となる。

「わたしの元来の専門は熱の流れを研究する熱工学でした。そのうち特に放射伝熱(光が放射熱として伝わる現象)の研究をやってきました。いわゆる放射熱の光には可視光から赤外線まであり、そのなかに〝近赤外線〟という可視光に近い波長をもった赤外線があります。これを身体に照射しますと他の可視光線や赤外線は血液などに吸収・散乱されてしまいますが、近赤外線だけは血液を透過しやすい性質をもっています。この透過光の分析により人体内の血流や酸素量について調べる研究を現在しています」

人体内の様子について調べるといえばエックス線(レントゲン)やCT・MRIなどが現在よく使われているが、これらは生体内の解剖学的情報の断層像を与えるもの。これに対して近赤外線による人体検査は、体内を複雑に流れ循環する血液や酸素の生理学的情報の断層像が生の姿で得られる画期的な技術なのだ。

世界中で今この研究をしている機関としては、山田研究室を中心とする日本のグループと英ロンドン大学のグループの2つしかない。両者を比較すると、ロンドン大学のほうが投入スタッフや機器・予算等で圧倒的に上回るが、そこは知恵と工夫で切り抜けようと意気込みを示す山田先生なのであった。

メタボ対策の画期として大期待の光による血糖値測定

夏の緑がまぶしい電通大調布キャンパス

もうひとつ山田先生の研究のうちで大注目なものに、近赤外線が生体内を伝わる現象を利用して人体の血糖値を測定するという研究がある。

「高血糖症(および糖尿病)の患者は食事ごとに採血をして血糖値の測定をしていますが、そのたびごとに手指などに針を刺して採血するため大変な苦痛が伴います。そこで私たちが開発している新たな測定法が実用化しますと、指に光を照射するだけで血糖値が測定できるようになります」

話題のメタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)からの脱却をめざし『ビリーズ ブートキャンプ』なりトレーニングジムなりでトレーニングを強いられる日々の飽食ニッポンの老若男女のためにも、ちょこっと体重計に乗るのと同じような気軽な感覚で血糖値を測定できる時代が来ることも期待される。

さらに生活習慣病の代表格として潜在的には2千万人近くいるとも推定されるこの国の糖尿病患者および境界型予備軍の人々にとってこれ以上の福音はない。一刻でも早い完成・実用化が待たれるこの興味深い研究については世界中の研究者が血まなこで励む日々だ。その一頭地を抜いてリードしているのが山田先生その人なのだ。

こうして自らの研究内容について話す山田先生の語り口は決して能弁ではない。それがまた研究に取り組む真摯な姿勢や誠実な人柄として取材する側に自然と伝わってくる。

派手さはないが学術的にもユニークな卒論研究の数々

電気通信大学では学部学生が4年次になると各教員の研究室に入る。そして1年間をかけて各自の卒業研究に打ち込む。知能機械工学科においても各研究室に5人ほどの学生が配属になる。

「知能機械工学科にはロボット工学の研究室等がいくつもあって、そちらの方がわかりやすく派手でなんですがね(笑)。それらに比べると私たちの研究は明らかに地味です。それでも私の研究室に来てくれる学生は全員うちを第1志望に選んで来ているらしいですよ」

まずは目先の派手なものにばかり目を奪われずに地道な基礎的工学研究に関心を寄せる電通大同学科の学生も多いことに一安心。卒業研究のテーマについては先生のほうからいくつか提示し、学生たち同士あるいは先生と学生とが個別に話し合ってそれぞれテーマを決める。そして前期・後期学期に1回ずつ研究の進み具合を全員の前で発表し、その意見を求めつつ内容を詰めていく。

そうした過去の卒業研究の中には学術的にも評価を受けるものも数多く、またユニークな研究も多い。例えば、ある学生は動物の毛皮における放射伝熱を研究した。動物園の飼育担当者の手違いでキリンが火傷するという事故が起きたことがあり、当のキリンの毛皮を調べてみると、火傷で損傷したのは黄や白色の部分で、黒色の模様の部分には損傷がなかった。これは毛皮の色による放射伝熱の違いから起こる現象と考え、それを解明する研究の貴重な発端となった。

このほか地球上からはるか金星にまで気球を飛ばすためのシミュレーションなどのユニークな研究も多々あるらしい。どの学生たちも大変に研究熱心で、山田研究室の卒業研究の成果は意外なほどに大きいと臆することなく自ら評価する。

先行き不透明な時代だからこそ広く誠実に学ぶべし

そんな山田先生の学生への指導の基本方針については次のように語る。

「日ごろ私のほうから学生諸君に示すのは大きな方針だけです。細部については個々に任せることにしています。もちろん私が専門とする生体中の光の伝播現象についてはきちんと理解してもらいます。その上で分からないことがあったら周りの同僚・先輩や私に聞いて必ず理解するようにしなさいと指導しています」

4年次の春、すこし不安げに入ってきた新ゼミ生の多くが、学部卒業までの1年間(あるいは大学院修士課程の2年間)を修了すると見違えるように成長していくのが嬉しいとも語る。どちらも山田先生および研究室スタッフたちの指導力の賜物と言っていいだろう。

インタビューの最後に現役高校生諸君のために山田先生からこんな貴重な忠言をいただいた。

「自然科学を学ぶとき『これは嫌』『あれも嫌だ』などとあまり選り好みするのは感心しませんね。自然現象の様々なことに興味や知的好奇心を注いで、何でもまずは一度学んでみるような積極性が若い日には大切となります」

「わたしの場合、放射伝熱の研究の中それを生体関係の応用に思い立ったのは40歳近くになってからです。決して早い決断ではありませんでしたが、だからといって焦りもしませんでした。それまで積み重ねてきた科学者の素養としてのバックグラウンドは無駄ではないですからね。ただし、どの段階においても科学的研究をするうえで何より大切になってくるのは誠実かつ科学的な態度ということになります」

謹直な事にかけてはこの上ない山田先生の口からこんなアドバイスを発せられると、まさに千鈞の重みをもって胸に響く……

こんな生徒に来てほしい

大学進学の時点で自らの人生の目標が明確になっている人は今も昔も少ないでしょう。ほとんどの人は漠然とした方向性を考えているだけだろうと思います。当時わたし自身もそうでした。新世紀を迎えても先の見えにくいこんな時代だからこそ、早合点して未来の方向性をあまり狭く捉えないでほしいですね。ひろく自然界を見渡しながら目前の課題を着実に解決していくことで、自らの才能・適性に合った一大目標を見つけていくのが一番いいと思いますよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。