早稲田塾
GOOD PROFESSOR

成城大学
文芸学部 マスコミュニケーション学科

南 保輔 教授

1958年大阪生まれ。’84年東京大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会心理学)。’93年米カリフォルニア大学大学院社会学科博士課程学位取得。’94年成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科専任講師。’97年同助教授。’05年より現職。’08年米カリフォルニア大学客員研究員。著作には『海外帰国子女のアイデンティティ』(東信堂)『ぼくにだってできるさ:アメリカ低収入地区の社会不平等の再生産』(訳書・北大路書房)などがある。
南先生が主宰する研究室のURLアドレスはコチラ →
http://weblab.seijo.ac.jp/yminami/index.html

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社会意識の不思議に迫る「社会学的社会心理学」とは

南研究室のある成城大学3号館

今週ご紹介する一生モノのプロフェッサー、成城大学文芸学部の南保輔教授は、昨年度、海外研修の1年間をカリフォルニア大学客員研究員として、専門のフィールドワークと研究に費やし、この4月から再び成城大の教壇に復帰したばかり。まず、所属する文芸学部マスコミュニケーション学科の特徴から伺った。

「’76年の学科開設で、この種の学科としては先駆け的な存在といえ、それだけ伝統もあります。学科の特徴としましては、マスコミュニケーション、マスメディアの、現場を意識した実技的なことよりも、学問的なアプローチを重視していることです。わたしの例で申せば、たとえばインタビュー調査の指導では、テレビのリポーターや新聞記者が行なうインタビュー方法ではなく、社会調査一般におけるインタビューについての指導をしています」

その結果、卒業生の多くはマスコミに就職している。つまり、小手先の現場実技などを身に付けるよりも、人間や社会を鋭く見つめる目を養った人のほうが、マスコミ現場に求められているということなのだろう。

さて、南先生ご自身のご専門は「社会学的社会心理学」という分野となる。その研究業績のひとつに、「海外帰国子女の生活経験調査」がある。これは研究者になったころから今も、追跡調査を続けている息の長い研究テーマである。

「若いころから、帰国子女におけるアイデンティティー(自己同一性)の変化について、調査研究を続けています。帰国直後の調査では、彼らの大半が自分は日本人であると意識しています。ところが日本人と意識しながらも、ずっと日本だけで暮らしてきた人たちとは、考え方や行動にわずかですが差異があることに気付くようになります」

帰国子女アイデンティティー揺らぎの仕組みを解明

成城大学キャンパスの外景

「すると、アイデンティティーが揺らぐ現象が起こります。そのうちに、自分は日本人ではあるが、帰国子女でもあり海外生活経験者でもある――という自己理解をするようになっていきます。それがアイデンティティーとして確立されていくという経緯になるのです」

帰国子女についての調査研究において、この切り口から挑んだのは南先生が最初であった。

このほか、人と人とが対面した状態でのコミュニケーション、とくに共通した「思い出」のある人同士の会話についての調査分析も始めている。

「この分野の研究は分析に高度な技能が必要なため、まだ研究方法を模索しているところです。現時点では調査対象の2~3人の人に思い出の写真を見ながら会話をしてもらい、その様子をビデオに収録していきます。後日それを再生して、分析する方法で研究を進めています」

「その思い出話や写真によって相互に喚起される作用ですとか、思い出の情報をもっていることで会話にどんな影響を与えるのか、会話の時には忘れていたことが後になってどういう形で思い出されるのかなど、非常に抽象的ですけどね。要するに、会話内容の理解のされ方とか、会話に参加している人のあいだで情報がどのように共有されていくのか、あるいは、会話を重ねることで人はどのように変容していくのか、そんなことに興味をもって取り組んでいます」

いずれにしても始まったばかりの研究で、成果をみるのはまだ先のことになりそうだ。このほか最近は矯正教育への取り組みについても始めているとも話す。

フィールドワーク論文作成への一生モノの熱血指導

成城キャンパス点描

成城大学マスコミュニケーション学科の専門ゼミ演習は3年次から始まり、3年次がプレゼミ、4年次が卒業論文ゼミという段取りとなる。南先生のゼミでは例年7~8人のゼミ生を受け入れている。

「あえて学部の講義でも、リポート提出など多めにして厳しくしていることもあって、決して人気のあるゼミとはいえません(笑)。ただ、わたしのゼミを実際に取ってくれる学生さんは非常に熱心な人が多いですね」

3年次のゼミではまず関係文献の講読から始め、次いで社会調査におけるインタビュー法や、フィールド観察法などがみっちり指導される。夏休み期間にゼミ生それぞれにテーマを設けて、インタビューを中心にしたフィールドワークを実施し、それを小論文(1万2000字)にまとめる。

そのフィールドワークの過去の力作研究の一端を見せてもらうと――①石垣島リゾートでのアルバイターの意識調査②戦時体験のある高齢女性へのインタビュー③ホームレスの自立についての調査など、時事的にも社会的にも興味深いものがズラリと並ぶ。こうしたゼミ生による現地調査のまとめ論文作成指導において、注目すべき指導法を南先生は実践している。

「いったん論文を書き上げましたら、1回目の推敲は当然本人が行ないます。そのあとゼミ生同士でペアを組んでお互いの論文を交換して、それぞれで推敲し合います。そのうえで最後に、本人がもう一度推敲して提出するという方法を採っています。第3者に伝えるものですから、他人の目を一度通すことで、分かりにくい個所・伝わりにくい個所などが指摘されて、他人によく伝わる論文に仕上がりますからね」

南ゼミでは卒論も同様の方法で推敲しているそうで、たしかに論文の質を向上させるには良い方法だといえるだろう。あらためて学生たちへの指導方針についてお聞きすると――

「ゼミ演習ではゼミ生1人ひとりが主役で、『あなたの問題はあなた自身のもの』ということで指導しています。要するに、自分らしい特徴を出してほしいということです。そのためには何らかの問題意識、それについて知りたいという好奇心、あるいは物事を批判的に見る思考スタイルなど、そうしたことを常に意識していることが大切だということを、常に強調して指導しています」

大学で学ぶためには、小学校以来の、与えられた課題をこなすということだけでは全く不十分だとも語る。自らオリジナルなテーマと方法を確立すること、それこそが貴重な若き日の4年間が一生モノの意義をもつことにもなるのであろう。

こんな生徒に来てほしい

まず、元気があって意欲的な人であって欲しいですね。それに社会的な現象に関心があって、受け売りではない自らの問題意識や批判的な視点をもっている人です。さらにもうひとつ、コミュニケーションのとれる人であることも大切です。そのためには、きちんと自分の考えを言葉にして伝えていく、さらに相手の意見もきちんと聞いていく――そういう誠実な姿勢をいつでも貫ける若い人に来てほしいと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。