首相の辞任
’08年9月1日、福田康夫首相が辞任を表明した。そこで素朴な疑問。首相は自分の意思で辞められるのか。答えは「辞められる」「辞められない」の両論がある。日本国憲法は70条で、「内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない」とする。9月1日はいうまでもなく「衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたとき」ではない。
また67条で「内閣総理大臣は、国会議員の中から」とあるから、議員資格を失うと70条の「欠けたとき」に当たろう。でも福田氏は今もって国会議員ではある。「欠けたとき」で容易に想像がつく死亡ではもちろんない。また、「欠けた」と客観的に判断せざるを得ない状態である失踪や、長期の意識不明状態でもない。
憲法とは別に内閣法9条は「内閣総理大臣に事故のあるとき」の定めがある。自発的辞任は「事故」といえなくもないが、「事故」とは多くの場合本人の意思に基づかないので「いや当たらない」との解釈もある。
というわけで、自発的な首相の辞任は、憲法が定める「欠けたとき」といえるかどうか実は論争があるのだ。
とはいえ、「辞める」という人物を強引にその地位へ止め置く理由も権利も誰も持っていないので、形式論として「辞められない」としても、実質的には「辞められる」のである。
次に首相が辞任すると言ったら誰が首相なのか。具体的には今はまさに誰が首相なのか。答えは福田康夫氏。辞任の記者会見でも「本日辞任することを決意しました」であって、何が何でも今すぐ辞めてやる!とは言っていない。ちなみに死亡などで本当に「欠け」たらどうなるのか。先に引いた内閣法9条では、「予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う」と首相臨時代理を置くとしている。
さてニュースでは首相の辞任会見に基づいた今後の予定として
①自民党総裁選挙
②国会での首相指名選挙
が挙げられている。なぜこれが大切なのかを説明しよう。
順番を逆にして②から説明する。憲法では67条で「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」とある。同条2項は「衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合(中略)衆議院の議決を国会の議決とする」とも。国会は衆議院と参議院で成り立つ。両院の指名者が異なれば衆議院の議決が優先するから、端的にいえば最終的には首相は衆議院の首相指名選挙で決まる。
その衆議院の今の議席は自民党が過半数を得ている。したがって自民党が一致して押せる候補が限りなく首相に近い人物となる。では「自民党が一致して押せる候補」とは誰か。もちろん自民党のトップである。自民党はそれを「総裁」と呼んでいる。つまり自民党総裁(トップ)が首相になる確率はほぼ100%。
たった今の自民党総裁は福田康夫氏である。ここまでの論理を逆にいうと福田首相の辞任表明は、同時に自民党総裁の辞任表明でもある。したがって後継ぎの総裁を選ばなければならない。ゆえに①の自民党総裁選挙が注目を集めるのだ。
総裁選の結果、新しい総裁が決まるまでは「福田総裁」のまま。予定通りだと9月下旬には新総裁が決まる。決定後すみやかに首相指名選挙が行われるが、この間わずかに「福田首相」「福田氏でない総裁」という総理・総裁が別の瞬間がある。首相指名選挙の日取りが決まればその直前(前日か同日)に福田内閣が総辞職し、間をおかずに自民党新総裁が新首相へ指名される。新首相は直ちに閣僚(大臣など)を任命する。この権限は憲法68条「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する」による。
実はこれで終わりではない。憲法6条に「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する」とあるから新首相はだいたい指名の翌日に皇居へ赴いて天皇陛下から任命される。これで正式発足。ちなみに任命の際に天皇陛下が「この人は嫌だ」と拒否することはあり得ない。憲法4条で天皇は「国政に関する権能を有しない」とあるからだ。
さて、今回の首相交代は衆議院の解散総選挙とセットで論じられている。その理由は次回で。









