北朝鮮がミサイルを発射か
ミサイル弾頭と人工衛星。前者はこわくて後者には平和イメージがあるが、ロケット技術で運ぶ点ではまったく同じメカニズムである。したがって、両者はしばしばない交ぜになりながら開発を進めてきた歴史がある。ちなみに最初に実用化に踏み切ったのはナチス・ドイツで「V2ロケット」。これはミサイルの方で、敵国イギリスの首都ロンドンなどを1944年から襲い、脅威を与えた。
北朝鮮がミサイルを発射するのではないかとの心配は、広く知られているようにこれが初めてではない。06年7月5日に合計7発のミサイルを発射し、いずれも日本海に落下した。そのうち1発は米国アラスカ州にまで達する長距離弾道ミサイル「テポドン2号」とみられる。
実はミサイルの開発を禁じた国際条約はない。ただし北朝鮮は日本全土を射程内に収める弾道ミサイル「テポドン1号」を1998年に発射し、日本列島を越えて太平洋に着弾した。この時も「人工衛星の打ち上げ」と説明しており、99年9月17日に米政府が経済制裁の一部解除を発表したのと引き替えに、「米朝高官協議開催中はミサイルを発射しない」とのモラトリアム(凍結)を明らかにしている。
日本も02年9月の日朝平壌宣言で、ミサイル発射のモラトリアムを03年以降も延長するとした。こうした約束が06年に破られたのに加えて、05年2月の核保有宣言以来、核開発の疑いもかかっていたことから、日米英仏の制裁決議案が安保理に提出された。拒否権を持ち、北朝鮮の制裁には反対の中国、ロシアの2常任理事国も、最終的には提案から「平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為」を規定して、制裁の根拠となる国連憲章第7章を削除した「非難決議」には応じて06年7月、全会一致の賛成をみた。
日本独自の動きとしては、ミサイル発射の報が入った7月5日の閣議で、特定船舶入港禁止法発動により北朝鮮の貨客船「万景峰号」の入港を半年間禁止すると決定。9月には大量破壊兵器への関与が疑われる金融機関や商社などを政府が指定し、日本国内に設けた口座からの預金引き出しや海外送金を許可制にする金融制裁を発動した。
ところが北朝鮮は10月9日地下核実験を行ったと発表する。それを受けて安保理が14日に出したのが制裁決議である。北朝鮮核問題解決の場として、03年から断続的に開かれてきた北朝鮮・中国・日本・ロシア・韓国・米国の「6カ国協議」は、中国が米朝の関係悪化に仲介し、議長国として指揮してきた。しかし、核実験実施はその中国の顔をつぶすに等しい行為であり、この時は、非難決議の際には排除に働いた国連憲章第7章を含む文言にロシアともども同意した。ただし軍事的措置を認める7章42条ではなく、経済制裁など非軍事的措置を取れる41条に基づく制裁だ。
北朝鮮の一連の行動は、06年の経緯と同じと推測すれば、危機をあおることでオバマ新大統領の米国に歩み寄らせたいとの動機に基づくようだ。6カ国協議での北朝鮮のこだわりももっぱらその点だ。「アメリカよ。私はここにいる」と叫びたいのだろう。
逆にいえば、ミサイルの発射自体は軍事的に意味がさほどないともいえる。1991年の崩壊までソ連が米国と並ぶ軍事超大国でいられたのは、57年に大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成を発表して、いつでも米本土をミサイル攻撃できる態勢を整えたのも大きい。ICBMは結局1度も発射されなかった。でもそれこそが、ソ連の軍事力を誇示できた最大の理由でもある。
つまり、1回でも打ってしまえば性能などが丸裸にされてしまう上に、失敗でもしようものならば権威の失墜は否めない。軍事力とは「秘すれば花」という要素が多分にある。なのに、北朝鮮はすでにミサイル(ないしは人工衛星)をすでに発射してしまい、現にその能力は丸裸にされつつある。
では陰に陽に北朝鮮をかばっている中国に頼ればいいじゃないか、との声もある。しかし北朝鮮は歴史的に必ずしも中国のいいなりになっていたわけではない。中国にとって朝鮮半島北部から中国東北部は軍事上の重要拠点。古くは高句麗王朝と隋帝国が覇を競って隋滅亡の一因になった。清帝国は当地より起きた女真族による征服国家だった。朝鮮戦争も、結局は中国が北朝鮮に肩入れした。したがって中国にとって北朝鮮は、「かばわなければいけない相手だが可愛げはない」といったところだ。









