ライブドア堀江貴文元社長らへ76億円の損害賠償命令
ライブドア事件で持ち株が大きく値を下げ、損害をこうむったとして、株主などがライブドア(現在はLDH)と当時の堀江貴文社長らに、合わせて230億円の賠償を求めていた集団訴訟で、東京地裁(難波孝一裁判長)は09年5月、同社が粉飾(ごまかし)決算をしたために損害を受けた、との原告側の主張を認め、堀江元社長らに約76億280万円を賠償するよう命じる判決を下した。
230億円の求めと76億円の支払い命令。どちらも目がくらむほど巨額で、かつその隔たりも大きい。ゆえに原告・被告双方とも納得せず、おそらく控訴するであろうとの観測だ。
230億円が76億円へ減額されたのは、事件が発覚した06年1月をはさんだ前後の直近1か月の株価を比較し、下落幅約600円のうち、粉飾で下落したと推定される額がいくらかで、原告と裁判所の見解が異なったからとみられている。
それにしても76億円。すごい金額である。いったいライブドア事件とは何だったのか改めて振り返っておきたい。
ライブドア事件のうち、今回の損害賠償の元になった旧証券取引法(現在は金融商品取引法)違反事件は、04年9月期連結決算でした約53億円の粉飾が、有価証券報告書の虚偽記載に当たるというもの。逮捕された堀江被告は、同法違反により東京高裁で実刑判決が下り、現在上告中である。
「9月期」というのは「四半期決算」の一つ。1年を4回に区切っての決算で、例えば第3四半期ならば10月から12月まで。03年ごろから東証が上場企業に公表を義務づけている。
「有価証券報告書の虚偽記載=粉飾」とは、経常利益(赤字の場合は経常損失)には自社株の売買益を入れてはいけないにもかかわらず、放り込んでしまった。自社株の売買益は「資本」(資産)の取引であって、「利益」ではない。資本とは会社の体力で、利益は、その体力を基礎にどれだけもうけたか、だから論理が違う。100メートルを9秒台で走れる体力(資本)と、オリンピックで金メダルを取った実績(利益)とは違うのと同じだ。
要するにライブドアグループは、自社株の価値をつり上げるためにウソをついてもうけたのがいけない、というわけだ。
証券取引法違反、とりわけ粉飾は明らかな犯罪には違いない。しかも支配下の投資事業組合(ファンド)をからませたり、「株式分割」という、時間差を利用したマネーゲームを演出したりと、手は込んでいる。しかし一方で、新興の私企業のあくどい金もうけがばれたにすぎないだけでもある。最高に刑を科されても懲役5年。窃盗(盗み)の最高懲役10年と比較しても軽い。現に高裁判決は懲役2年だった。
では、なぜライブドア事件が「大事件」となったのか。1つには約22万とも目された株主に大混乱を与え、それが東証になだれ込んでパニック売りを呼び、ついに東証がライブドア強制捜査(06年1月16日)の翌々日の18日、すべての売買を停止するに至った。日経平均株価は暴落し、東証のシステムの弱さが世界中の物笑いになると批判されたように、日本の信用問題にまで発展した点があげられよう。堀江元社長は逮捕され、結局ライブドア株は上場を廃止された。
より大きなポイントは、堀江貴文という人物が、事件が起きる前まで良くも悪くも「時の人気者」だったので、頂点からいきなり転げ落ちた落差に皆が驚いたところにある。
その絶頂が04年2月、転換社債型新株予約権付き社債(CB)で、800億円もの資金をリーマンブラザーズ証券グループに引き受けてもらって、手にした金でラジオ局のニッポン放送(LF)の発行済み株式の35.0%を保有し、筆頭株主となった時だった。LF株の大量取得は、LFがフジテレビジョン(CX)の株を22.5%保有する筆頭株主だったので、ライブドアがCXをも支配しようとの野望をむき出しにしたと世間は取ったし、事実そうでもあった。
結局この野心は実らずに終わるが、「CXがポイズンピルを用意」「ライブドアがLBO(レバレッジド・バイ・アウト)をかける」「いやパックマン・ディフェンスでCXがライブドアを買収か」「ついにCX側にホワイトナイト出現」などなど、企業合併や買収の専門用語が一般市民にまで広がって、ワイドショーの格好の話題となった。
加えて逮捕から4か月前には、小泉首相一世一代の解散劇に始まる「郵政民営化選挙」で、無所属ながら自民党の後押しを受けて広島6区から立候補。郵政民営化法案に反対して自民党を出た、同選挙区の亀井静香候補と激しい選挙戦を演じた。結果は落選だったが、有数の注目選挙区として、これまたワイドショーなどに大々的に取り上げられた。そこから一気の「高転び」に世間はアッと驚いたのである。
230億円の求めが減額されたのは、多分にこの経緯が含まれていよう。すなわち、堀江元社長の逮捕という事実自体が、「時の人気者」の「高転び」という衝撃を市場に与えて、ライブドア株の売りを招いた。それは粉飾決算が原因の1つではあろうけれど、それ自体による損害とは認めづらい。上場廃止見込みによる売りも株価下落に含まれていよう。









