「骨太06」の呪い
「骨太の方針」とは、小泉純一郎氏が首相になった01年から、首相が議長を務める経済財政諮問会議が毎年出している、「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」である。したがって今年は、「骨太09」を作っている。これが難航しているのだ。
現在までの「骨太」は、小泉首相が05年総選挙大勝後の「置きみやげ」として残した、「骨太06」を基調にしている。その時の選挙結果で得た議席のまま、今日まで来ているので、ある意味で基調とするのは当然といえよう。一方で、一連の「小泉改革」が、さまざまな社会のゆがみをもたらしたとの批判も強く、「骨太06」の延長線上に「09」を置くのに抵抗する勢力もあり、政府と与党との間で綱引きをしている。
「骨太06」最大の特長は、単に1年間の方針のみならず、「11年度までに11.4兆~14.3兆円の歳出削減」と、5年間の削減目標を掲げた点にある。以後の政権もこの「呪い」に縛られてきた。
なぜそれほどの削減をするかというと、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を、11年度までに黒字化しようとの目標に基づく。プライマリーバランスとは、国と地方の収入と支出のうち、「借り入れを除く税収などの歳入」から、「過去の借り入れに対する元利払いを除いた歳出」を差し引いた収支のことで、単年度分の黒字化が、財政均衡のひとつの指標となる。06年度は14兆4000億円の大幅赤字だった。
日本の財政は、すでに国と地方の借金が約1000兆円というレベルに達している。それとは別に、単年(1年分)の赤字が約15兆円ある。このまま放っておくと元々の借金の利息払いに、単年の借金が加わって雪だるまのようにふくらんでしまうので、せめて今後の赤字だけはやめようというのが、「プライマリーバランスの黒字化」。それを11年度には達成しようという中期構想である。
赤字を減らす方法は基本的に2つしかない。支出(歳出)を減らすか、収入(歳入)を増やすかだ。「骨太06」は、まず歳出減らしで大半の赤字をなくそうと定めた。小泉政権が登場時に圧倒的に支持されたのは、この点を明確に約束したからだった。
もう一つは歳入増である。具体的には増税するか、今のままの税制でも自然と税が増えるほど景気が拡大するかがあり得る。小泉首相の置きみやげである骨太からの流れでは、「成長力」つまり後者を、次の安倍晋三政権は受け継いだ。明白な増税路線を打ち出していた石弘光政府税調会長を更迭したのも、その現れだった。
だがこの3年間、うまくいったといえようか。まず歳出削減から考えてみる。「骨太06」では、公共事業費と公務員人件費を合わせて約8兆円を削る。しかし、そうでなくても公共事業が減って四苦八苦している地方では、07年の参議院通常選挙で与党が大敗した。
公務員の方は仕事に比して高すぎるという批判があり、05年の総選挙でも、国家公務員の郵政職員を民営化するとのフレーズが受けた。しかし、1987年からのバブル景気以前の常識では、公務員給与は決して民間より高いとはいえなかった。その決定には人事院という役所が関わるが、この役所はもともと、公務員が、労働者としての権利の一部を禁止されている代わりに、彼らの福祉や利益を図ることを目的として設立したので、その待遇を悪くするという事態を想定していない。
次に「成長力」について。収入である税を増やすためには、景気回復が第一という発想は、バブル崩壊以来の政権にもあった。その結果が、公共事業費などを増やして景気を刺激し、新たな成長を導こうという作戦につながった。この論理では、公共事業費削減と景気回復は相反するとなる。
それが失敗して、長期債務残高激増の主な原因にさえなったというのが、小泉政権からの常識となっているが、あの時にそれをしなかったら、今より一層経済が悪化していたのか、刺激する方法が間違っていたのか、どう刺激してもダメだったのかはわからない。
そうこうしているうちに08年後半頃から、金融不安を発端とする経済危機が日本にも及び、「成長力」などと悠長なことはいっていられない情勢とみられる。
また、仮に「増税回避・成長優先」が成功して、プライマリーバランスの黒字化に至ったとしても、約1000兆円の借金が減るわけではない。劇的にうまくいっても微々たる額しか減らせない。バブル経済真っ盛りの時でさえ、税収は100兆円を超えなかったのだから。
要するに「骨太09」には以下のような問題点がある
①「骨太06」の時と同じ勢力図(衆議院)にある以上、その方針を何の説明もなく撤回するのは難しい
②しかし、歳出削減や、医療の危機や、地方経済の衰退などを招いた一因と見なされている
③といって、公共事業を単純に増やせば解決するわけではない。それらはすでに試みられ、結果として成功したとは言い難い
④だから「成長力」に期待するという情勢でもない。何しろ「100年に一度の危機」である
⑤元々の国の借金が何をしてもどうにもならないという点は変わらない
袋小路ともいえよう。これらをハッキリさせるのは結局、衆議院議員総選挙での民意、つまり選挙で主権者たる国民が示した意思をみるしかなさそうだ。









