貯蓄の減少
2010年5月、気になる統計が相次いで発表された。
1つは総務省による09年の「家計調査」である。対象は2人以上の世帯。それによると、1世帯あたりの平均貯蓄残高は前の年に比べて2.5%減の1638万円で、4年連続の減少である。
「1世帯1638万円」と聞いてどこの国の話かと耳を疑う方もいよう。単身世帯が増加しているため、「対象は2人以上」という設定自体に問題もありそうだ。ただ、それでもなおこの調査には興味深い点がいくつかある。
まず、金額はどうであれ貯蓄の残高が毎年のように減っているとの事実。次に年齢によってその差が大きいという点がある。
同調査によると、サラリーマン世帯主を年齢で分けると、30歳未満は負債(借金)残高が貯蓄残高を23万円、30歳以上40歳未満が同じく153万円、それぞれ上回っている。つまり若い世代は「貯蓄が減る」どころか借金が上回っている。逆に平均の1638万円をオーバーするのは60歳以上の1774万円である。つまり、日本は高齢者が預貯金を多く持ち、かつ全体として減少傾向にあるとわかる。
もう1つの統計は、労働組合系の「連合総合生活開発研究所」が同年4月に行った、「労働者の生活調査」の結果である。これによると年収400万円に満たない場合は約6割が赤字、つまり借金をしているか貯蓄を取り崩すなどの生活をしているとわかった。全体でも世帯の収入より支出が上回っている人が約4割となっている。
「年収400万円」は今や決して少数派ではない。サラリーマンのうち年収がその半分、つまり200万円以下の人は06年の段階で1千万人を突破し、その後も増え続けているとみられる。その倍である400万円で、半数以上が収入より支出が多いという事態はがく然とせざるを得ない。
裕福のようにみえる高齢者世帯も内情は複雑だ。使用できる収入から貯蓄にどれだけ回したかを測る家計貯蓄率は、90年代後半から急激に下がり始めて、07年には3.3%と信じられない水準にまで低下した。主な原因は高齢化のために貯蓄を取り崩す傾向があるためとみられている。
これらから明らかなのは、今の日本人は若い側に貯蓄するだけの余裕が元よりなく、高齢者も貯蓄を取り崩して生活しているとの実態だ。日本は個人金融資産の合計が1400兆円あり、それが国と地方の借金(長期債務残高)約900兆円をカバーしているので、借金が返せなくなる事態はすぐに来ないとされてきた。しかし1400兆円は今後確実に減っていく。逆にこのままの借金財政を続ければ、近い将来に「カバー」し切れない事態となりそうなのだ。
約900兆円の内訳をみると国の資産などが含まれていて、実態を反映していないとの説がある。それは一理あるものの、全体としての増加傾向は否定できない。逆にそれをいえば1400兆円のなかにも住宅ローンなどが含まれていて、実態より多いともいえる。そしてそれは確実に減っている。
税収を増やさないと国が借金を返せなくなる事態になりかねないとの立場から、「財政再建」を唱える者の多くは消費税の増税を口にする。だが「労働者の生活調査」をみる限り、その政策は収支が赤字の世帯や個人をたちどころに追いつめる。同調査では生活防衛のため「支出を控える」と答えた人が7割以上いる。非正規雇用の場合、男性の何と約20%が「食事を減らす」などの対応をしている。単純な消費増税ではこうした生活防衛をいっそう強め、結果的に消費が落ち込み、税収も税率を上げた割には上がらないとの悪循環が不安視されよう。









