デフレなのに増税ですか?
どうやら経済学は、まだニュートン登場以前の物理学と同じような位置にあるようだ。つまり学問の基礎となる絶対的法則が存在しないで、ああだこうだと右往左往している。
「法則」らしきものはある。例えばデフレの対応について。物余りカネ足らずの状態だから、国は減税して消費者の懐を暖めて消費へ向かうようにする。日本銀行は金利を下げて、金融機関にお金を預けていても利子が期待できない状況を生み出し、消費をやはり活発化させる。今の日本はデフレだから、この「法則」らしきを実行すれば大丈夫なはずである。
しかし実際には「法則」が働かない。日本銀行は確かに金利をゼロ近くに張り付かせて、金融機関に預けると普通預金の金利は0.021%と冗談のように下がっている。それでも「バカバカしいから使うか」といったムードはひとかけらも起きていない。デフレが続けば、今日より明日の方が欲しい品が安くなるとの期待を抱くから今日は使わない。明日になれば、明後日の方が下がりそうだからとやっぱり買わない。こんな「期待」をされては売る側や作る側は売価を下げねばならない。よってデフレは延々と続く。
国に至っては減税どころか増税をたくらんでいる。なぜかというと国と地方の借金が1000兆円にも及び、このままでは国家破たんしかねないので、収入(税収)を上げて防がねばならないからという。ではその借金はなぜ積み上がってしまったかというと、やはり経済学の「法則」らしきを信じたせいだ。
バブル崩壊以後の95年頃から日本はデフレに取り憑かれた。それを脱するために国は赤字国債(借金)をドンドン出して公共事業を興すなどして対抗した。これはいわゆる「乗数効果」を狙ったとみられる。国や地方自治体が事業を行えば、それに従事した人にお金が回って消費が増える。これを循環させれば消費者はお金を使うようになってデフレから脱出する……はずだった。しかし実際には効果は一過性に終わり、投資以上の消費がみられるとの乗数効果はほとんどなく、国と地方の借金だけが重くのしかかった。
そこに現れたのが小泉純一郎首相である。「痛みに耐えろ」のかけ声の下で公共事業を削減し、増え続ける社会保障費を抑制した。「法則」に逆行する政策だったのに国民の多くがなぜか賛同し、5年間もの長期政権を築いた。案の定「痛み」は現実化し、地方の疲弊、医療崩壊、派遣切りなど社会問題が深刻化して、彼の後を継いだ首相はその後始末に追われるようになる。
小泉改革の肝だったのが金融機関の不良債権処理だった。バブルの頃に気前よく融資した銀行などが、その崩壊によって、返ってくるアテのない債権(貸し金)を莫大に抱え込み身動きが取れなくなっていた。これを処理するべく、政権は厳しい基準を金融機関にかけて実行を迫った。耐えきれない金融機関はつぶれたり他に救済合併された。大銀行も例外ではなく、かつて10以上あった都市銀行、長期信用銀行、大手信託銀行は次々に合併して図体だけはでかくなる。返せない銀行には公的資金を投入した。その結果3メガバンク+αまで減少した。
では一応健全化した金融機関が何を始めたかというと、国債の大量購入である。デフレ下のデフレ政策だった小泉改革では、意図的ともいえる円安で潤った輸出企業を除いておおむね不景気なので、不良債権処理に懲りた銀行は貸したがらないし、デフレが続くなか企業も借金してまで設備に投資しようとしない。金利はゼロかゼロ付近のまま。ならば国の保証が付く国債は、利回りは低く(価値は高い)ても安心材料だ。年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人も続く。民間保険会社も同じ。
その結果、とても不思議な結果になった。預貯金はもちろん年金の原資も保険金も元を正せば国民のお金。国債は国の借金。だから
すごい金額の国民のお金がすごい金額の国債を買う
形となった。金融機関にお金を預けてもコインロッカーのように料金がかからないばかりか、安いとはいえ利子まで付くのは預け金を金融機関が運用して利益を得ているからだ。その向かう先が国債なのである。国民の大半が自分の預貯金が国債に費やされていると感じていない。しかし世界は知っている。だから円は買われる。理由は以下の通り
①日本の債務残高が最悪とはいえ買い手も日本人だからプラスマイナスゼロ
②デフレが続いているから円で買える範囲が広い
というわけで、円高は続いて日本の輸出企業に打撃を与えて海外進出、空洞化が進む。
何だかガマン比べをしているようだ。そこに東日本大震災の復興のための補正予算が組まれ10兆円レベルを増税で補うという案が出てきた。今でも薄い財布から更に引き上げられる。当然財布のひもはさらに引き締まってデフレを加速するであろう。言い換えれば円の価値はますます高まって円高に拍車がかかる。
何で10兆円レベルの補正予算を増税でまかなわなければならないのか。「将来世代にツケを回さない」というけれど、その民主党政権は2年連続して当初予算(1年分)で約40兆円の赤字国債を発行している。年単位での40兆円はよくて、「千年に1度」の大災害に充てる予算は何としても増税でという発想は理解に苦しむ。









