- 北山 晴一 教授
- 立教大学
文学部 大学院 21世紀社会デザイン研究科 北山 晴一(きたやま・せいいち)
1968年3月、東京大学文学部フランス文学科卒業。71年3月、東京大学大学院人文科学研究科(仏語仏文学専攻)修了。77年3月、同博士課程を満期退学。76年より87年まで、パリ第3大学東洋言語文化研究所の専任講師を務める。89年より立教大学文学部フランス文学科教授、98年から立教大学大学院文学研究科比較文明学専攻教授、現在は専攻主任。ほかに立教大学ジェンダーフォーラム所長・放送大学客員教授もつとめる。主な著作に『衣服は肉体になにを与えたか』(朝日選書629 朝日新聞社)、『ヌードとモードの間』(日本経済新聞社)、『官能論』(講談社)など多数
フランス社会史に止まらない縦横無尽の研究分野

- クリスマス直前の立教はムードも満点。夜には写真に写る2本の大木がライトアップされる。
「結婚と家族の問題の国際比較研究」「性愛の社会史」「モードおよび衣服の社会史的研究」「食生活の歴史と社会学」「身体表象とりわけ五感に関する言説の研究」「フランス近代の歴史と文学」…… 。
ズラリと並んだ研究分野。一見、何の関連性もないよう見えるが、すべて北山晴一先生の研究領域である。
「元々の専門はフランス社会史研究でした。現在の研究の核になっているのは、パリ衣料産業界の業界紙の研究です。そこからファッションそのものも、あるいは流行のターゲットが男性から女性へと変わっていったことの歴史的意味が研究対象となり、さらにジェンダーや家族論なども研究するようになったのです」
「元々の専門はフランス社会史研究でした。現在の研究の核になっているのは、パリ衣料産業界の業界紙の研究です。そこからファッションそのものも、あるいは流行のターゲットが男性から女性へと変わっていったことの歴史的意味が研究対象となり、さらにジェンダーや家族論なども研究するようになったのです」
こうした研究の広がりは、幅広くかつ深い知識と多面的な分析を生む。だから、先生の著書はとにかく面白い。予想外の論点が縦横無尽に引き出される。その北山先生が、いま新しい大学院の創設に力を注いでいるという。
「日本にとって必要で、なおかつ今まで系統的に理論と実践を学べなかった分野の大学院を作ります」という先生の言葉どおり、2002年4月に開設される「21世紀社会デザイン研究科」の研究分野は独創的だ。キーワードは、「ネットワーク」と「非営利組織」と「危機管理」。NPOやNGOあるいは、様々なボランティア活動の運営と、企業や自治体などにおける危機管理の方法論を学ぶ。
日本人に危機管理能力がないことで、昨今の様々な問題が2倍・3倍にも大きくなってきたことは、説明の必要さえないかもしれない。「私は寝ていないんだ」と社長がマスコミを怒鳴り、完全に会社の信頼を失墜させた雪印。危険だとわかっていながら、対策を先送りしてきて大パニックを引き起こしている狂牛病問題。もし、雪印や農水省に危機管理の専門家がいれば、その後の事態は大きく変わっていたはずである。
危機管理と組織運営を学ぶ21世紀社会デザイン研究所

- 立教のクリスマスといえばチャペル。合格したらレンガ造りのこの建物はクリスマスイブに訪れてみたい場所だ。
一方、非営利組織の重要性が増していることについては、塾生はあまり知らないかもしれない。しかし、たとえばアフガニスタンへの空爆が始まった当時、マスコミの取材より現地の正確な情報を伝えたのは、日本のNPO(非営利組織)だった。以前なら企業や政府・マスコミが独占していた情報をNPOが持つようになった事実からも、NPOが力をつけてきたことの表れだ。
ただ多くのNPOには、マネージメントを勉強した人が少ない。そのため、せっかくの活動が広がらないという実情もある。NPOの活動が期待されている分野も多いだけに、こうした組織に関わる人への教育が急務なのである。
現実に必要なのに研究教育機関がない。こうした危機的な状況を変えるために、21世紀デザイン研究科は設立される。しかし、パイオニア精神溢れる新大学院の設立は苦労の連続だったという。まず、専門家の数が少ない。しかも、その専門家が日本中に散らばって活動していたのである。
「一人ひとり専門家の方にお会いして、実力はもちろん熱意溢れる方に講師を引き受けていただきました」 この言葉にウソはない。警備保障分野のパイオニア企業・(株)セコムの顧問や日本NPO学会の理事、さらに国連シエラレオーネ派遣団の幹部など、かなり多彩な顔ぶれが揃っている。
社会に欠けているものを教育するのが大学の使命

- チャペルの入口には素敵なリースが飾られていた。さすが立教! リースもかなりおしゃれ。
しかし、これほど独創的な大学院の設立を先生がめざしたのは、どうしてだろうか? 「社会にいま何が一番欠けているか。大学は、その欠けているものを教育する場を作らなければいけません。それには、何より様々な分野の専門家が集って新しいことを試みることが面白いんですよ」
好奇心に支えられたパイオニア精神を大切にする先生は、実は学部生の卒論さえ、先生と同じ研究テーマで書くことを認めていない。
「私と同じテーマじゃ、私を超えられないですから。それじゃあダメです。自分で考えたテーマで、自分の意見を書かなくちゃ」
独創性を養うため、講義でも工夫を凝らしている。たとえば学部の講義では、映画を観せて学生にコメントさせているという。
「細かな部分に気づくかどうかが重要です。箸置きやコップの位置まで、良い映画には理由があります。それを気づかせる。ただ漫然と眺めているだけでは、世の中で起こっていることも理解できませんから」
ここ数年、日本社会構造は激変した。山積の問題を前に、多くの日本人は立ち往生しているように見える。しかし、新しい「モデル」を作り出さなければいけない今の時代こそ、先生の独創性が光ってくる。21世紀社会デザイン研究科が、各方面で大きな話題を呼ぶであろうことは、その証明といえるだろう。
こんな生徒に来てほしい
好奇心が大切です。ただし、どれも中途半端にできるだけでは困ります。むしろ『オタク』的に一つのことを徹底して勉強してほしい。フランスにいて研究に悩んでいたころ、図書館に通ってある業界誌の1830年から50年間分の全ページに目を通しました。
そんなことをした馬鹿は、世界でただ一人、私だけでしょう。結局、そうやって19世紀中期のフランス衣料事情を徹底的に調べたことが、研究を発展させました。今でもフランス語での作文力、19世紀のフランス文化のこと、あるいは現代ブランドに関する蘊蓄など、誰にも負けませんね。みなさんも、そういったものを大学でぜひ身につけてください。

