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Good Professor

西尾 勝

西尾 勝 教授
国際基督教大学
教養学部 社会科学科

西尾 勝(にしお・まさる)
1938年東京都に生まれる。61年、東京大学法学部卒業。その後、同大学法学部教授を経て、現在、国際基督教大学教養学部教授。行政学・都市行政学を専攻。95年から6年間、政府の諮問機関である地方分権推進委員会の委員。主な著書として、『行政学』『行政学の基礎概念』『行政の活動』『権力と参加』『未完の分権改革』など

セツルメントは行政学専攻の原点

図書館。1960年に建設された。蔵書は約50万冊を誇り和書25万冊だけでなく洋書も25万冊と充実しているところはさすが。ICUの図書館利用度は他大学に比べても高く、学生は平均2日に1度は図書館に入管。1人あたりの年間貸し出し冊数は50冊に達する。
図書館。1960年に建設された。蔵書は約50万冊を誇り和書25万冊だけでなく洋書も25万冊と充実しているところはさすが。ICUの図書館利用度は他大学に比べても高く、学生は平均2日に1度は図書館に入管。1人あたりの年間貸し出し冊数は50冊に達する。
ディッフェンドルファー記念館。文科系クラブ・同好会の活動拠点。部室をはじめ、カフェ・ラウンジ・多目的ホール・音楽練習室・売店などがある。2000年に新しく西棟が建てられた。そのときICUに初めてカフェなるものが登場し、学生たちは歓喜の声を上げたという。
ディッフェンドルファー記念館。文科系クラブ・同好会の活動拠点。部室をはじめ、カフェ・ラウンジ・多目的ホール・音楽練習室・売店などがある。2000年に新しく西棟が建てられた。そのときICUに初めてカフェなるものが登場し、学生たちは歓喜の声を上げたという。

「行政とは、実は国民生活をよりよくするための営みなんですよ」という言葉を聞いて驚いた。

行政といえば「お役人」たちの集合体。世間のイメージは、決してあまり良いものではない。今回インタビューした西尾教授は、知る人ぞ知る行政学の大家である。クラ~いイメージを持たれかねない行政学の魅力は、いったいどこにあるのだろうか。

「自分の研究が、実社会にダイレクトに役立つところです。行政の方法を研究する行政学は、まさに『世の中をよりよくするための学問』。研究室にこもっているだけではなく、フィールドに実際に出ていき、研究したり、意見を述べたりする機会が多い。ある意味では俗っぽい学問ともいえるでしょうが、非常にやりがいを感じます。」

先生は、実際の政治において様々な活動を行い、多大な功績をもたらしている。たとえば近年、国が地方自治体に割り当てていた「機関委任事務」が廃止となった。これにより、地方が国の下に置かれ事務に追われることなく、対等な関係でより独自の行政を進めていくことができるようになった。この政策成立に貢献したのが地方分権推進委員会で、西尾先生は中心的役割を果たしていたのである。

「95年から6年間所属していました。実際の作業は困難でしたが、一方でたいへん意義ある仕事でしたよ。この活動を通して、議院内閣制が本来あるべき姿で動いていないことを実感しました。そこで最近は、小泉内閣の行財政改革などについて緊急提言をし、紙面を騒がせています(笑)。」

今でこそ、こんなに"派手"な活動をしている先生だが、最初から現実の政治世界に飛び込んで研究をしていたわけではない。

「30代から40代は、いわゆる『象牙の塔』にこもっていました。ところが地元の武蔵野市(東京都)で市民参加を公約に掲げた市長が誕生し、行政学を研究していた私にも協力をしてほしいというお願いがきたんです。そこで長期計画策定委員会など、地方自治の現場に関わりはじめました」

現場で待っていたのは、机上の理論では想像がつかないような体験であったという。

「市民参加を実際に進めていくということは、とても地道な活動です。市民との話し合いの場では、『学者』の権威なんて通用しません。分かりやすさも要求されるし、様々な職業や人生を経た人と、対等に議論を進めていくことになる。その一方、役人との細かい折衝もあります。
お役人の言い分すべてが間違っているというわけではないんですね。だから双方の言い分をどこまで理解し、いかに最善の策を探っていくかがポイントとなります。
市民参加のプロセスに実際に関わっていく難しさと醍醐味を実感しました。私としては、土俵の上で力士の胸を借りて相撲をとっているといった状態ですね。市民からも行政からも、学ぶことがたくさんあったからです。政治の実態というものを知り、現実社会に関わっていくきっかけとなりました。」 そもそもの行政学専攻の理由を聞くと、最初は「消去法ですよ」と笑っていた先生。だが、原点となっていたのは、学生時代のセツルメント活動だった。

「文京区氷川下で、町の人たちの法律相談に応じるという活動です。当時は低所得者が多い地域で、印刷の折りをする内職仕事が多くありました。そこで働いている労働者から、『アブラムシに刺されてかゆく、職場環境が悪い。役所は何もしてくれない』といった相談を受けたことがあります。その問題を解決するために、区や保健所に何回も足を運んで働きかけました。そこで区から得た回答は、『駆除のための薬剤や散布の器具は区が出すけれども、労働力は出さない』といったもの。そこで日雇い労働者の組合を訪ねてお願いをし、最終的に散布を引き受けてもらうことができました。このときの行政を動かしたという経験が、自分のベースとなっています」

行政を動かして、人のためになる楽しさを追究したい。専攻を決めた根底には、そんな熱い思いがあった。

のびのび育てるリベラル・アーツ教育

大学礼拝堂。ICUの精神的基盤でありシンボルでもある。1960年に完成し、70年にはパイプオルガンも設置された。大学礼拝や入学式・卒業式などの場となっている。クリスマスになると入口の針葉樹がライトアップされ、華やいだ雰囲気となる。
大学礼拝堂。ICUの精神的基盤でありシンボルでもある。1960年に完成し、70年にはパイプオルガンも設置された。大学礼拝や入学式・卒業式などの場となっている。クリスマスになると入口の針葉樹がライトアップされ、華やいだ雰囲気となる。
本館。4階建てで、講義の大半はここで行われる。1952年に完成し歴史は古い。本館の前にはバカ山とアホ山と呼ばれる小高い丘がある。昼休みになると、ここでお弁当を広げたり本を読んだりする学生の姿が見られる。
本館。4階建てで、講義の大半はここで行われる。1952年に完成し歴史は古い。本館の前にはバカ山とアホ山と呼ばれる小高い丘がある。昼休みになると、ここでお弁当を広げたり本を読んだりする学生の姿が見られる。

ICUにはゼミがない――というと驚くだろう。卒業論文は、学生がつきたい教授について個別に指導してもらうという形が多い。研究テーマが比較的自由に選べ、丁寧な個別指導が受けられるという点に良さがあり、そのぶん学生たちはシビアに教授を選んでいる。

そんな状況の中でも、西尾先生は人気が高い。先生の幅広く深い知識と経験を踏まえたアドバイスは、学生たちの研究テーマを深く新たな視点から見直すことができるからだ。合宿では、日本酒好きな先生の人間味あふれる姿を垣間見ることもできるとか。

先生がICUへ移ったのは定年後。それまでは東京大学で教鞭を取っていた。

「学部が教養学部一つしかないように、ICUの特徴はやはりリベラル・アーツ教育です。専門に縛られず自分の好きな切り口で研究できるせいか、学生たちはのびのびしていますね。基礎知識の面では弱いものの、現実に対する関心が高い学生が多いと感じました。
物事を抽象的に考えるより、自分の関心を持っていることに対して、どんどん本で調べたり現実に飛び込む健全な精神があると思います。図書館の利用率が他大学に比べて多いことも、それを物語っているのでしょう」

そんなICUの自由な環境のなか、西尾先生につく学生たちは自分が興味を持つ行政テーマを取り上げている。いかによりよい世の中にしていくかへの飽くなき探求が、東京・三鷹市の一角で行われているのである。

こんな生徒に来てほしい

広く社会経験を積み、一般教養を持っている学生ですね。行政学は、人間の社会を理解していく学問。そのベースがあることが重要です。

まず、社会経験をいろいろと積んでいる人。
国内・海外旅行や様々な地域社会を見て歩く意欲のある人。
アルバイト・インターンシップなど、大人たちの仕事を垣間見るといった経験です。

そして、歴史をはじめとした一般教養です。日本や世界には様々な国や文化があり、その経過をたどっていくことで、現代が理解できる。別に歴史の受験参考書を勉強するといったことではなく、伝記でも、歴史小説でも自分の興味の持てることから始めればいいんです。そして、人間って何だろう、世の中ってどんなものなんだろう、という疑問を持ちつづけていけるような学生に来てほしいですね。

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