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Good Professor

森 千里

森 千里 教授
千葉大学
大学院 医学研究院

森 千里(もり・ちさと)
1960年北海道生まれ。84年旭川医科大学卒業。同年京都大学医学部助手。89年カナダマニトバ大学医学部Visiting Instructor。90年米国国立衛生研究所Visiting Associate。92年京都大学助教授。2000年千葉大学医学部教授。01年より現職。主な著作に 「胎児の複合汚染」(中公新書)、「循環型社会 科学と政策」(有斐閣)などがある 。

生命の尊厳を前に勉強不足など許されない

あいにく雨にけぶる千葉大医学部キャンパス
あいにく雨にけぶる千葉大医学部キャンパス
森先生の環境生命医学研究室のある千葉大学医学部本館
森先生の環境生命医学研究室のある千葉大学医学部本館

千葉大学大学院教授の森千里先生が生まれ育った森家は、代々医師・医学者の家系だという。祖父も曾祖父も、その前の幕藩時代に溯っても典医だったという家柄である。そのうち曾祖父は、陸軍軍医から軍医総監になった森林太郎、つまり文豪・森鴎外。こんな由緒ある家系に生まれた森先生は、将来医学者になるのは自明のことのようにして育った。

森先生は現在、千葉大学医学部で「肉眼解剖学」と「発生学」を教え、大学院で「環境生命医学」の研究をしている。ここではまず医学部の学生への指導法から話してもらった。

「肉眼解剖学ではヒトの構造の基本的学習としてヒトの構造を知ることが医師への第一歩ですから、ヒトの構造や機能を現実に見て触れて、いかに人体は精密かつ神秘的に創られているかを実感してもらいます。それにヒトの構造というのは、必ずしも教科書どおりではなく、バリエーションがあることも覚えてもらいます。この解剖学と一緒に、ヒトの個体や器官の形成過程を知る発生学についても学びます。これらはご遺体を使っての学習になりますから、ご遺体から生命の尊厳について学ばせていただくという気持ちが大切ですね」

医学生にとって、自らメスを握って人体に向かう最初の授業が解剖になる。

「医学部に入ったことを学生たちが一番実感するのが、この授業になりますね。肉眼解剖の実習に入ると、学生は歴然と変わります。自分は他とは違う特殊な学部で学んでいるという思いが、新たになるのでしょうね」

この解剖実習を終えると、学生は全員、人間的に一回り大きく成長するという。千葉大学医学部では肉眼解剖の授業を、外部の看護学校などの生徒にも見学させている。他の大学ではあまり行われていない試みだ。

「毎年20数校の生徒さんに見学してもらい、学生たちに説明させています。医療というのはチームで行いますから、スタッフとのコミュニケーションが大切で、その訓練がひとつ。また、他人に説明するということは、その知識が身についていないとできませんし、質問にも答えられない。学生に知識を身につけさせる目的がひとつですね」

さらに、千葉大学医学部では解剖の献体に登録している人たちと学生との交流も図っている。自らの肉体を医学発達のために捧げようという人たちの医学生に寄せる期待、それを感じ取らせるためである。こうした試みも学生の成長を促しているようだ。

そんな最近の医学生について、森先生はこんな感想を洩らす。

「以前にもまして、なぜ医学を学ぶのか不明確な学生が増えていますね。受験学習の成績が優秀だったからとか、そんな理由で医学部に入ってくるのですね。医学の世界は人間の命を扱う以上、"知らない"ということは罪なのです。医師に知識がないために患者さんが不利益を被ったり生命に関わったりすると、それは罪になります。勉強不足は許されません。そういう分野をめざしている者として心構えが必要なのです」

いま医学部進学をめざそうとしている優秀な塾生諸君には、改めて自らを省みて、医師・医学研究者をめざす前提となる確固たる心構えを確認してほしい、と森先生は強調されました。

「環境ホルモン戦略」の成果に世界中が注目

医学部受験生あこがれの医学部本館の表玄関
医学部受験生あこがれの医学部本館の表玄関

森先生の本来の専門分野は環境生命医学。じつは先生はこの分野における研究の世界の第一人者なのだ。

「元々は発生学に興味があって研究していたのですが、その途中で環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)問題に出会って環境生命医学の研究も始めました。環境のなかにある複数の化学物質による胎児への複合的汚染問題の研究ですね」

それまで特定の化学物質の胎児への影響を調べた研究はあったが、複合的汚染についての研究は森先生が世界で最初の人となった。

「研究の結果、現代の胎児はほぼ例外なく複合化学物質に汚染されていることがわかりました。受精から2ヵ月ほどでヒトの身体の基本はできあがりますが、その間のかすかな揺らぎや歪みで、変異や先天異常が引き起こされる可能性があります。ごく微量であっても、複数の化学物質に囲まれた受精卵が影響を受けないとは言い切れません」

胎児への複合的汚染に対する予防医学も森先生の研究課題である。

「これまでの医学は "生きる""死ぬ" の問題を扱ってきましたが、これからはクオリティ・オブ・ライフ。つまり環境によって病気や障害が起こることを事前に防ぎ、"生命・生活の質"を守ることが医学に求められる時代になってきています。いまや日本の新生児の約1%は何らかの障害を持って生まれています。そのうちの7割は原因がわかっていません。その何割かを予防できたら、何万人もの子供がハンディキャップのない人生を送ることができるようになります。また、これは日本だけの問題ではなくて、特に東南アジアでは日本製の化学物質が撒き散らされている現実があり、世界的・地球的規模で予防確立をしていかなければならないと思いますね」

森先生は2年前から市民講座を開いて、この問題についての自身の研究成果を公開し、専門家の講演やパネルディスカッションを行っている。題して 「環境ホルモン戦略」。すでに7回もの講座が開かれている。

「化学物質問題に関して企業や行政あるいは市民団体から出されている情報は必ずしも正確とはいえません。大学や研究機関が持っている最新の科学情報をわかりやすく伝え、市民のみなさんと一緒に今後の環境ホルモン対策を考えていこうという主旨の講座です。この問題には市民のみなさんの関心が高くて、毎回200人近い人が参加してくれています」

そして、森先生は最後にこう結んだ。

「化学物質の影響を一番受けやすいのが胎児です。健康への影響が心配されるのは、我々の世代ではなく将来の子孫たちです。子孫の代に負の遺産を残さないこと。それが現在を生きている人の "責任と義務" だと思います」 世界中が注目している森先生の環境生命医学研究。その成果如何に、私たち人類と次世代の子孫たちの生命と生活の質がかかっている。

こんな生徒に来てほしい

将来「人のため」になりたいという気持ち、あるいはそういう夢を持っている学生に来てほしい。
ここでいう 「人のため」 というのは、他人のためであり、人類のためということです。医学部に入ったら医師になる道しかないなどと限定しなくてもいいです。医学部で学んだ人でも医師以外の活躍の場はたくさんあります

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