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Good Professor

平野 隆文

平野 隆文 助教授
青山学院大学
文学部 フランス文学科

平野隆文(ひらの・たかふみ)
1996年、東京大学大学院人文社会学系研究科仏語仏文学専攻博士課程単位取得。1996~1999年まで青山学院大学文学部フランス文学科専任講師を務め、1999年より助教授に。2000年には、文学博士号学位を取得。

悪魔学―――正確には、魔女学が先生の専門のひとつである。

青山学院大学の正門。正門から続く銀杏並木が色づく季節になれば、さらに美しい景色となる。
青山学院大学の正門。正門から続く銀杏並木が色づく季節になれば、さらに美しい景色となる。
門を一歩出れば、おしゃれな青山の町並みに続く。ちなみに写真中央、銀杏の木のそびえ立つ場所が青学の正門。
門を一歩出れば、おしゃれな青山の町並みに続く。ちなみに写真中央、銀杏の木のそびえ立つ場所が青学の正門。

「副専攻なのに、主専攻と間違われることが多いのですよ。僕の研究室の下にチャペルがあるので、『そんな研究をしていたら校舎が崩れる』なんて言う同僚もいまして」と、平野隆文先生は笑う。
ここで、誤解を解いておかねばならない。残念ながら(!?)先生は、魔女の儀式などを研究しているわけではない。魔術の呪文を唱えることもなければ、おどろおどろしい魔術グッズを集めているわけでもない。それどころか研究室の書棚は、ルネサンス期の有名な作家であり、先生の主専攻でもあるフランソワ・ラブレーの研究書で埋め尽くされている。

「修士論文を書くためにラブレーの本を読み込んでいたら、悪魔や天使がやたらとでてくるのですね。それでラブレーにおける『悪魔』を調べていたら、だんだんハマってしまいました」

ラブレーが活躍したのは、16世紀。当時、悪魔や魔女は実在するものと信じられていた。残忍な事件が起こり原因不明となれば、悪魔の仕業であると誰もが疑わなかった時代である。では当時、「悪魔」はどんな役割を果たしていたのだろうか?

「『悪魔』は、精神の説明原理だったのです。当時は言うまでもなく、フロイト的な精神分析などありませんでした。その代わりに『悪魔』という説明原理が生きていたのです」  

最近、猟奇的な事件が発生するたびに、マスメディアは事件の解説を心理学者に依頼する。一般には理解不能な犯罪行為を説明するために、「心理学」という「原理」が必要だからだ。そして16世紀、同様の役割を担っていたのが、「悪魔」だった。現在なら「幼年期のトラウマが生んだ突発的な犯行」などと解説される犯罪が、「悪魔が取り憑いたことによる行動」と説明されていたのである。

そうした時代に暮らしていたラブレーだからこそ、彼の作品を理解するためには悪魔の研究が必要となってくる。先生の副専攻が魔女学なのも頷けるだろう。
またラブレーの作品自体が、読者に歴史的背景の理解をも求めてくる。

ラブレーの代表作は、巨人の父子を主人公にした『ガルガンチュア物語』や『パンタグリュエル物語』である。これら作品は、様々な社会批判を喜劇仕立てで盛り込んでいる。

つまり、ある種の体制批判が、人々に受けやすい騎士道物語の体裁を取り、笑いとともに展開されているのだ。発表当初、パリ大学神学部から禁書に指定されたのも当然だろう。このような笑いの裏にある棘をラブレーの意図通り感じる取るためには、やはり当時の状況を理解するしかない。

そして先生がスゴイのは、悪魔・魔女などを含めたバックグラウンドの理解が非常に深いことである。なにしろ当時の状況を理解するために、フランス国立図書館で16、17世紀に発行された瓦版まで読みあさっていたのだ。その情熱と知識が、ラブレーとその時代をしっかりと読み解き、分析していくのである。

先生にかかれば、当時の妄想としか思えない魔女狩りでさえ、意味を持った営為として説明される。

「ラブレーが活躍した当時は絶対王制を歩む途上だったので、極論すれば王制を脅かす存在は排除しなければいけませんでした。例えば、薬草を調合していた老女なんかも、医学というアカデミックから外れるわけです。極めて単純化すれば、だからこそ魔女狩りで殺されたのです。つまり魔女狩りは、国の基礎固めと深く連動しており、異質な分子の排除として機能したのです」

正直、この説明を聞いて、生まれて初めて魔女狩りを理解した気分になった。
また先生は、ラブレーを通して現代人にはわかりにくい時代をつかむことが人間の成長につながる、とも説く。

「自分にとって異質な時代があること、簡単にいえば、世界と時代は広くて深く、すべてを理解できない事実を知ること。これは重要だと思います。自分にとって異質な何かが存在することを認めれば、自分が他人から異質に思われることも理解できますし、異質な存在も容認できますから」

先生にとっては、悪魔や魔女もラブレーの時代に活躍した様々な存在の一部分でしかないのだろう。しかし悪魔や魔女が、先生に関心を持っていないとは言い切れない。
旧フランス国立図書館で悪魔や魔女の文献を、先生が読みあさっていた当時の話である。 「ジーパン履いて、ヒゲをはやした汚らしいおじさんが、僕をチラチラ見るんですよ。いやーなおじさんだなと思ったら、3~4日目に『おいおい、ちょっと君』と、フランス語で話しかけてきたんです」

その声をかけてきた人物は、世界的に有名な歴史学者ジャン・アポストリデス氏だった。そして彼も、先生と同じように悪魔の文献を読み込んでいたのだという。

「『333』という番号の席に、彼は座りたかったのだそうです。聖書の黙示録に悪魔の数字とされているのが『666』ですから。でも図書館の席番号には『666』がないので、『333』を狙っていたと。悪魔の研究には向いていますよね(笑)。まあ、僕はあまり意識しないで席を選んでいたのに、ほぼ毎日『333』に座っていたのですがね。だから少し怖くなりましたよ(笑)」

ここに一つの事実がある。意識しても「333」に座れなかった人と、意識せずに座り続けた人がいたということだ。ラブレーに魅了された先生は、もしかすると悪魔に魅入られたのかもしれない。

ルネッサンスは幅が広く色々なものに関わってくるので、文学以外にも広い関心を持っていると嬉しいですね」

こんな生徒に来てほしい

「読書量が多くて、語学にも熱意が持てる人ですね。さらに付け加えるならば、未知なものに挑戦したいという意欲ある学生でしょうか。歴史に興味があり、深読みをすることが好きな人も歓迎します。

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