- 石田 眞 教授
- 早稲田大学
法学部 石田 眞(いしだ・まこと)教授
1946年東京生まれ。77年早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。77年東京大学社会科学研究所助手。82年名古屋大学法学部助教授。85年同教授。01年より現職。主な著作に『近代雇用契約法の形成』(日本評論社)、『講座21世紀の労働法 健康・安全と家庭生活』(編著・有斐閣)などがある
基本テーマは「労働法は誰のためのものか」

- 石田研究室のある9号館(法商研究棟)
「早稲田大学の法学部は単科学部なのですが、非常に多様な学部だといえます。将来、法曹界をめざしている人はもちろんですが、ほかにも一般企業や官庁・自治体・国際機関・NPO団体などを目指す人も学んでいます。また、教えるスタッフにもいろんな専門の方がおられ、さまざまな角度から高度な法律知識が学べるようになっています。その多様性が一番の特徴ではないでしょうか」
そう語るのは早稲田大学法学部教授の石田眞先生である。先生の前職である国立大学の法学部とくらべて、狭い枠に縛られない多様性が大きな特徴であり魅力だろうとも語る。
石田先生の専門は「労働法学」。とくに労働契約や雇用差別・労災補償について、労働現場における実態と法との関係を調査研究している。
「労働契約の問題でいいますと、現在は正社員ばかりでなく、パートや派遣・請負・委任など雇用形態が多様化しています。こうした従来にない労務供給契約は、どうしても対等の関係では結べません。こうした労働者に法の保護をどう及ぼしたらいいのか。あるいは法そのものが時代にマッチしていないのではないか。そんなことを研究しています」
雇用差別については男女雇用機会均等法が施行されているが、法の強制力が弱いこともあって「まだまだ不十分」と石田先生。また、労災補償のとくに過労死、過労自殺と労災認定の問題も研究課題である。
いまの労働現場におけるニッポンの実情については、つぎのように語る。
「雇用差別も労災補償も従来にくらべれば、かなり改善され状況はよくなっています。ただ、また新たな問題も生まれています。たとえばサービス残業や自宅に持ち帰ってのネット残業、あるいはプログラマーやライターのような裁量労働による長時間労働などの問題が出てきています。新しい労働形態が生まれると、新しい問題も生まれる。それが繰り返されているというのが実情ですね」
次々に曲面を変えていく生きた労働の現実を扱う研究だけに、大変だがそのぶん面白いとも語る。そして、その研究を貫いている基本テーマは「労働法は誰のためのものか」なのだという。
学ぶことの意味や方法を知る問題発見講座

- 2005年春竣工予定で建設中の法学部棟
早稲田大学法学部のゼミは1年次から始まる。ゼミは1年次・2年次・3・4年次の3段階に分かれ、1年次は法律学の基礎、2年次で憲法・民法・刑法などの基本的な法律について学び、3・4年次になると各教員の研究室に分かれて、それぞれの専門について研究をする。
石田先生も1年次と3・4年次のゼミを担当しているが、1年次の導入ゼミについてこんな話をしてくれた。
「1年生というのは大学に入ったばかりの学生たちですから、前半は“考える”“議論する”をテーマにして、まず『問題発見講座』から入ってもらいます。後半は“書く”“発表する”がテーマで各自に課題を与えてレポートに書いてもらい、それを全員の前で発表するというスタイルで進めています。つまりゼミの1年次段階では、大学で学ぶことの意味や方法、あるいは法律的な考え方についての基本を学んでほしいわけです」
まさに導入ゼミである。大学に入って右も左も分からない1年生にとっては非常に親切なゼミだといえる。ただ、当事者の学生たちにその真意はあまり理解されていないようだと先生は語る。
「反応があるのはずっと後になってからで、4年次の就職活動中の学生ですとか、卒業して社会人になった人から、導入ゼミで学んだことが生かせたといった報告がよく寄せられます。1年次の学生には、そこまでの位置付けはまだできないようですね」と苦笑する。
パンドラの箱を開けた「法批判への招待」

- 2003年初冬のある日の大隈講堂
3・4年次のゼミでは労働法の判例を使った専門的な研究になるが、双方のゼミで共通しているのは司会進行を学生に任せていることだ。これも社会に出てからの有用な技能になるはずだと石田先生。
さて、石田先生がコーディネーターをしている法学部の授業に、自ら「パンドラの箱を開けた」と称する講座がある。2002年度後期に開講した「法批判への招待」という講座だ。
「法学部で学んでいますと、法律というのは誤りのない自明なものとして見られがちです。この講座ではその法律を外側から批判的に見てみようという試みです。それぞれの法律についていろいろな角度から検証して、その意味を知り、限界を知ろうというのが狙いです」
この連続講座には法学部の法律専門の研究者ばかりでなく、同学部の文学や哲学・歴史学の研究者も交代で動員され、それぞれの立場から法批判を展開するというユニークなものだ。法律の存在を自明の前提として学びがちな学生たちには、非常な驚きをもって迎えられているようだ。それだけに反響も大きく、法学部ばかりでなく他学部の学生も多数受講に来ているようだ。
「法律を批判するといっても、すべてのこの国の法律が無意味だといっているわけではありません。ただ、法学部でこういう講座を開くのは、パンドラの箱を開けてしまったのかなという気もしています(笑)。結論のある問題を講義しているわけではありませんから、学生との議論になってくると、どちらが先生か分からないような状態になることもよくあります」
ときに議論が白熱することもよくあるそうで、講義する側にとっても受講する側にとっても刺激的で新鮮な講義となっているのが窺える。
そして、石田先生はこう結んでくれた。
「法学部で学ぶ学生たちのなかには、よく弱者の立場に立ちたいという人がいます。しかし弱者の定義というのはむずかしくて、金科玉条があるわけでもありません。法的な紛争というのは利害の対立する当事者がいるわけで、双方の主張を自分自身で考え抜いてみたうえで、自分が正しいと選び取った立場を勇気をもって主張してほしいと思っています」
こんな生徒に来てほしい
自分の頭で考えられる個性的な人。自分は何が好きかを知っている人が理想的ですね。ただ、残念ながら最近はそういう若者が少なくなっている気がします。これは今の受験システムにも大いに問題があると思います。しかし、それはそれとして、高校生のうちから世界中のいろいろな問題について自分の頭で考える姿勢を身に付けておいてほしいですね。

