- 多賀 秀敏 教授
- 早稲田大学
社会科学部 大学院 社会科学研究科 教務委員 多賀 秀敏(たが・ひでとし)教授
1949年千葉県生まれ。73年早稲田大学法学部卒。81年同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。81年新潟大学法学部助教授。87年同教授。96年より現職。主な著作に『国際社会の変容と行為体』(編著・成文堂)、『国境を越える実験』(編著監修・有信堂高文社)、『自治体の構想:政策』(共著・岩波書店)、『NPO/NGOと国際協力』(共著・ミネルヴァ書房)などがある。
南北問題・人権問題・環境問題の解決こそが平和研究の本質

- 早稲田大学14号館社会科学部棟
早稲田大学社会科学部は、さまざまな社会問題について理解し、その解決への道を研究する学部だ。
狭い専門領域の枠を取り払って学際的に開かれているのが特徴で、この種の学部としては日本最古の伝統を誇る。
「社会科学部で学んでいる学生には、いまも早稲田の精神を色濃くもった学生が多いようです。いま学問領域は専門化される傾向があるなかで、この学部ではいろんなことが多様な角度から学べます。それだけに打算的でなく、自分の志を究めようという学生がまだ多いですね」
そう語るのは同学部教授の多賀秀敏先生。同学部の卒業生には国際協力などのディレクターやコーディネーターとして世界に飛び出していく人も多く、学際的な広い視点で学んだ結果ではないかとも語る。
貧困や人権問題に苦しむ人々への想像力

- 早稲田塾のシンボルである大隈像
その多賀先生の専門は「国際関係論」で、いま主要な研究テーマにしているのは「平和研究」である。
「私の研究は平和をいかに獲得し、それを維持するための条件や方法を探るものです」
「平和とは戦争がない状態のことを指すのかといえば、必ずしもそうではありません。地球上には貧困や人権問題などに苦しんでいる人がいて、そうした人々にとっては戦争ではないが決して平和な状態とは言えないのです」
「私はそうした南北問題や環境問題を切り口にした平和の構築について考えています。もとをたどれば紛争の要因もそこにあるので、平和研究の本質は、そう した問題の解決にこそあるはずです」
こう語る多賀先生は、それを理念として説くだけでなくて、行動実践派としても活動している。世界各地の難民キャンプを歩き回り、貧困地域に学校などの建物を寄贈したり、ストリート・チルドレンや視覚障害者などへの援助など幅広いボランティア活動に積極的に携わっている。
そして、平和実現への主役は市民であると言い切る。
日本の平和アイデンティティー崩壊の危機
ころで、自衛隊が遠くイラクまで軍事派遣される問題で、戦争放棄をうたっている日本国憲法も含めこの国をめぐる平和問題は大きな揺らぎを見せはじめている。このあたり多賀先生の見解を聞いた。
「第2次世界大戦が終わってから60年近くになりますが、その間に戦争や紛争によって5000万以上の命が奪われています。ただ、そのなかには日本の組織的な軍事行動で殺された人はひとりたりともいません。これは確固たるもので誇るべきことでした。戦後の日本人の重要なアイデンティティーになっているとも言えます」
「人道的支援という名目はあるにしても、今回の自衛隊派遣によって実質上の〝日本軍〟が派遣されるのは紛れもない事実です。これによって、日本人のアイデンティティーが崩壊してしまうのを恐れます」
とくに、これから世界に向かって飛び立とうとしている日本の若者たちの上に影が差すことを危惧する先生だ。
各国首脳の立場であらゆる問題をシミュレーション
多賀先生の学部での授業には、毎年恒例になっている「シミュレーション」の授業がある。これは学部の学生から大学院生まで最大時には300人以上を動員するという壮大なものだ。50ほどのグループに分け、それぞれが国家や地域・国際機関などの首脳に扮してあらゆる国内問題や国際問題をシミュレーションしていく。
「非常にエネルギーのいる授業で、準備に2ヵ月ほどかかり、本番当日は夜まで1日がかりになります。シミュレーションで国内問題や外交問題の処理を誤りますと、政権交代やクーデターが起こったりしますから、各国首脳に扮する学生は必死です」
「とくに重要なのはメディアの使い方で、どの情報をメディアに流して公にし、またメディアから入手した他国の情報をどう外交交渉に生かしていくかという手腕が問われることになります」
学生たちが使用するパソコンの数は約150台。まさに壮大なロールプレイング・ゲームの世界である。この授業を経験して世界情勢や国際問題に目を開く学生も多いというが、大いにうなずける。
早稲田大学社会科学部の学生がゼミを取れるのは2年次からになる。多賀ゼミでは例年15人ほどの学生を受け入れているが、毎年応募者が殺到する人気ゼミのひとつだ。
「ゼミでの研究は“平和”の基本を外さなければ、ゼミ生の自主性に任せています。個人で研究するもよし、グループで研究するもよしですね」
「うちのゼミの学生は資料収集など本当によく動いて足で稼いできます。まぁ教員の私がだらしないから、自分たちでしっかりしないといけないと分かっているのでしょう」
そう言って豪快に笑う多賀先生。ちなみに、2003年度のゼミ生の研究テーマは「クルド問題」「児童労働問題」「パレスチナ問題」「日本の外国人政策」「水の問題」などなど多彩なテーマにあふれている。
また、多賀ゼミは都内10大学の国際関係学にかかわるゼミの合同セミナーに参加している。多くのゼミ生はこちらのメンバーでもある。
多賀先生は自身の指導方針について次のように語る。
「大学では、知識を蓄えることよりも知性を研くことのほうが大切だと思いますね。それには包丁さばきを学んでほしい。つまり資料収集の方法や資料整理の仕方、それを元にした分析における光のあて方など〝知のさばき方〟を教授から〝盗む〟ということです。大学の4年間でそれらを盗んで、自分のものにしてほしい」
「それに、大学時代に培う友情は生涯の財産になります。『友人を裏切ることだけはするな』と学生には常々言っているんですよ」
そして、受験生諸君に「平和研究」の妙味を次のように語ってくれた。
「この研究は文献を読むだけでなく、自分の頭で考えなくてはなりません。なぜそういう事態になったのかなど、なぜ・なぜ・なぜの連続です。そうした連鎖を集中して考えているときは、つい食事なども忘れて熱中してしまうくらいです」
「海外もふくめ現地調査に行くときは、まず道路の観察をします。道路の形状、舗装・未舗装、牛馬の糞のあるなし、側溝の状態などから『道を読む』のです。道路の状態から、その国のある程度のいまの状況が読み解けるんですよ」
自らの足で世界中の難民避難キャンプなどを現地調査し、ときには反政府ゲリラと行をともにしたこともあるという多賀先生。この国には、こういう魅力的な大学研究者もいることを知ってほしい。
こんな生徒に来てほしい
歴史を知ることはその人の教養の基礎となります。高校生の諸君には、まずそれをしっかり学んでほしいですね。そして、大学には大きな皮袋をもって進んできてほしい。あなたの自前の皮袋をいっぱいに満たすものが大学には用意されているはず。李白の詩に「天の我に財を生じたるは、必ずその用あり」というのがあります。李白は文字どおり財産のことを言ったのですが、わたしはあえて「才」と理解したい。この世に不要な人間はひとりたりともいない、必ず役目を負っていると。その自分の役目を大学の4年間でぜひ見つけてくれたらと思います。










