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Good Professor

水澤 英洋

水澤 英洋 教授
東京医科歯科大学
大学院 医歯学総合研究科

水澤 英洋(みずさわ・ひでひろ)教授
1952年生まれ。東京大学卒。現在、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授。

主な著作に『遺伝子検査早わかり事典―付 遺伝子検査関連用語集』(中外医学社)『神経・筋疾患のとらえかた―眼でみるベッドサイドの病態生理』(文光堂)

神経難病患者の長年の願いをかなえる

JRお茶の水駅からの東京医科歯科大学全景。附属病院など医科関連施設が集まる
JRお茶の水駅からの東京医科歯科大学全景。附属病院など医科関連施設が集まる

水澤英洋先生は神経内科が専門の医師である。神経内科とは、基本的に神経系の病気を扱う診療学科だが、この「神経系」の範囲が広い。脳や脊髄・末梢神経・筋肉、さらに自律神経までを対象とする。通常扱う病気の種類だけで約300種類以上だという。具体的には、脳の血管が詰まる脳梗塞や脳出血・パーキンソン病・アルツハイマー型認知症(痴呆症)などがある。

「神経内科の病気は治りにくいとおっしゃる方もいます。でも早めに診断して適切に処理すれば、かなりの病気が治ります。ただ、難病が多いことも事実です」

驚くことに、多くの人が不治の病だと思い込んでいるパーキンソン病さえ相当に症状を改善させる薬や治療法が近年開発されてきているという。またアルツハイマー症についても「(治療できる)射程距離に入った」と先生は語る。

対象となる病気の範囲も広く治療法も日進月歩のこの神経内科分野において水澤先生は臨床研究を続け、世界トップレベルの研究実績を残し、そのうえ学生の指導まで手掛けている。しかし、「それは普通のことですよ」と気に留める様子も先生にはない。

「研修医だったときに診察した筋ジストロフィー症の患者さんをいまだに診させていただいております。もう28年たちますかね。動ける間は通院してくださって、いまは車に乗るのも大変なので年に1~2回往診しています。会うたびに『早く治してください』と言われてしまうのですよ。いえ、怒るとかではないんです。何とかしてほしいという切なる願いなんですね」

「この間、その方のお子さんは成人し大学を卒業しました。子どもさんの受験相談に乗ったりしたこともあります。そうやってともに歩んできましたが、なんとか患者さんの病気を治したいと思う気持ちは今なお強いですね。診療所にいても大学にいても、臨床医とはそういうものでしょう。そして、治療法がないなら自分で研究してやろうともね」

世界中が注目する神経内科研究の成果がめじろ押し

歯科関連の医科歯科大キャンパスの建物群。附属歯科病院もこの建物の中にある
歯科関連の医科歯科大キャンパスの建物群。附属歯科病院もこの建物の中にある

新しい治療法を開発する最も有効な方法のひとつは、病気になる過程を明らかにすることだという。ある正常な細胞が病的になり発病していく過程のすべてを明らかにできれば、どこかの段階で悪い反応を止めることができる可能性が出て来る。

歩行障害や四肢の失調などの症状で知られる「脊髄小脳失調症6型」について病気のプロセスを明らかにして、水澤先生は世界を驚かせた。この難病の原因となる遺伝子座を見つけただけではない。研究に必要不可欠な培養細胞モデルを作製し、さらにマウスモデルも作製して解析中とのことだ。

医学界で最近脚光を浴びている話題の「再生医療」でも先生は大きな成果をあげている。細胞を移植して脳の機能を再生する動物実験で、世界最高レベルの成績をあげたと評価される。 さらに遺伝子治療の分野においても、「RNA干渉」という原理を活用して望ましくない遺伝子の発現を抑え込むという新しい手法で着々と成果をあげつつある。

臨床現場でも、そして医学教育でも忙しい水澤先生がどうしてこれほど大きな研究成果を連発できるのか? この素朴な疑問に対しても、「それはニーズがあるからでしょう」と先生はにこやかに答える。

「我々は臨床家ですから、つねに効果のある治療をしたいと考えています。わたしの研究の発想自体は単純なものですし、関心をもってべーシックサイエンスの情報に接していれば自然にできるようなことばかりと思っています。あと、基礎研究の先生方と共同研究するのが私は好きなんですかね」

気負いもてらいもなく淡々と語ってくれる水澤先生の姿を拝見しながら、この先生の限界点はどのへんにあるのだろうとつい考えてしまった。ひとつだけ確かなことは、その限界はまだまだ遠い先らしいということだ。

脳研究の壁をブレイクスルーするCOEプログラム

そんな水澤先生をリーダーとする研究グループが文部科学省による重要研究拠点「21世紀COEプログラム」に選ばれた。「脳の機能統合とその失調」を主要な研究課題とするプログラムである。

「このプログラムの研究組織そのものを脳のシステムに模してやろうと思っています」

と、これまた笑顔で先生は語る。じつは近年の脳研究は大きな壁に突き当たっている。脳細胞がシナプス等でつながっていることは顕微鏡で見ればわかる。どのような作業の処理に脳のどの部分がかかわっているかも活動電位を取ればわかる。しかし例えば脳細胞と脳細胞がつながって生まれる「意識」が何なのかはよく分からないのだ。

これまでの研究手法のみで脳を「分解」するだけでは到達できない壁を多くの研究者が感じている。これまでの研究成果を統合して「ブレイクスルー」するような何かが必要なのだ。そして水澤先生は、この21世紀COEプログラムの研究機構にブレイクスルーできる「鍵」のようなものを感じているという。そして「21世紀のかなり前半には何か大きな研究成果が出るのではないでしょうか」と、やはり何の気負いもなく先生は語った。

「現代の人類の行動はあのレミングに似ているかもしれませんね。どこに向かっているのか何もわからないまま"海"に向かって走り出している。脳科学的にいえば、前頭葉をもった人類の宿命みたいなものかもしれません。好奇心に任せて何でもどんどん作ってしまう。このまま進めば次世代まで地球は保たないかもしれません。なんとか好奇心をうまく制御して"軟着陸"する必要があるでしょう。そうした意味でも、脳研究や医学教育は重要だと考えています」

これまで水澤先生が見通してきた未来ビジョンをお聞きしながら、先生たちの研究グループに参加できたらどれほどワクワクするだろうかと考えてしまった。医学系志望の塾生には、ぜひお勧めしたい一生モノの研究室といえよう。

こんな生徒に来てほしい

自分で考えて自分で行動できる人なら素晴らしいですね。人生の目標なり人生そのものをきちんと考え、人生と社会についてよく考え抜いたうえで、自分自身の進むべき道を選ぶべきです。そして、世の中に貢献してほしいと思います。

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