- 福原 敏行 助教授
- 東京農工大学
農学部 応用生物科学科 福原 敏行(ふくはら としゆき)
1960年滋賀県生まれ。83年大阪大学理学部生物学科卒。88年同大学大学院理学研究科生理学専攻博士課程修了。89年東京農工大学農学部助手。95年より現職。
生命現象に対する細胞・分子レベルからの独創的アプローチ

- 福原研究室で学生たちに囲まれる先生
東京農工大学は前身校の創立が1874年というから、すでに130年近い歴史をもつ国立の伝統校である。同大学の農学部は東京・府中市の緑豊かなキャンパスのなかにある。その農学部応用生物科学科で教鞭を執っているのが、今回のグッドプロフェッサー・福原敏行先生。まず、東京農工大学農学部応用生物科学科の特徴から話してもらった。
「いわゆるバイオテクノロジー・バイオサイエンスについて、農学・生物学の分野から研究している学科です。研究は生物学および化学を基礎にして、DNA(遺伝子)など分子・細胞・個体のレベルまでの探求をしています。この分野はめざましい研究途上にあって、いま非常に面白い分野だといえます」
卒業生の就職状況も好調で、公務員(各種研究機関など)や食品・製薬メーカーなど、大半の人が大学で学んだものを生かせる職場に就職しているという。大学卒業生の就職受難の時代にあって羨ましいような話である。
さて福原先生の専門は細胞分子生物学で、主に研究しているのは「植物の2本鎖(ルビにほんさ)RNA」と「植物の耐塩性」についてだ。
「私の専門は、生命現象に対する細胞・分子レベルからのアプローチということになります。研究している2本鎖RNAについては、イネから発見したウイルスの一種なのですが、病気を引き起こすことのないウイルスで、これを植物のベクター(遺伝子の運び屋)に応用できないかという研究です」
現在、RNAの塩基配列、次世代への遺伝様式の解明までをほぼ終えているそうで、将来はこの2本鎖RNAをベクターにして、イネなどの農作物に病気に強いような有用遺伝子の導入をめざしている。
もう一つは植物の耐塩性についての研究。「植物というのは本来塩に弱いものです。しかし中には塩に強い植物もあって、我々の研究室では海草のアマモを対象に、その遺伝子を調べて塩に強い植物の性質を研究しています。すでに有力な遺伝子の単離(ルビたんり)には成功していて、現在は実験用植物への導入を試みているところです」 この研究も将来的にはイネなど農作物に応用して、塩に強い品種への改良をめざすのだという。
誰もやらない世界トップレベルの研究で勝負

- 福原研究室のある農学部7号館
ところで、先の2本鎖RNAだが、これは前任の教授と福原先生が世界で初めて発見したものだ。しかも、現在この研究をしているのは全世界でここ福原研究室だけで、またアマモを使った植物の耐塩性についても、ほかではほどんど研究されていないという。
「率直にいって東京農工大は大学としての規模は小さなほうです。そこで特徴を発揮していくためには、なるべくほかの人がやっていない研究をして、そのトップレベルのところで世界を相手に勝負することだと思います。実際にそれができているとも思っています。私たちが論文を発表しますと、世界中からEメールやインターネットを通じて問い合わせがきますからね」
この小さな研究室で世界的な発見がなされ、世界に先駆けるほとんど唯一といえる大きな研究をしているのである。福原先生の話には胸の広がる思いであった。
東京農工大学の農学部は1年次の教養科目から始まり、3年次まで進むに連れて専門科目が増えていくカリキュラム方式をとっており、いわゆるゼミの制度はとられていない。4年次になると学生は各研究室に振り分けられ、卒業研究に入ることになる。この4年次が一般のゼミに近い形であるといえよう。
4年次に研究室に振り分けられる学生の数だが、一つの研究室に3人を超えることはないという。文字どおりの少人数教育で、学生はこの1年間指導教員の濃密な指導が受けられる。こうしたことができるのも、東京農工大が豊富な教員を抱えているからで、これ以上恵まれた学習環境もあまりないといえよう。
研究チームとのあいだに垣根をつくらない

- 東京農工大府中キャンパス正門から続くケヤキ並木
例年、福原研究室でも4年次の学生3人を受け入れている。
「1年間彼らの卒業研究の指導にあたるわけですが、相手が3人ですので目の行き届いた密接な指導ができます。それがこの大学のいいところで、大きな特徴ですね。卒業研究のテーマはこの研究室の研究テーマに添ったものから選んでもらうことになります」
その指導については、学生とのあいだに垣根をつくらないようにしていると語る。
「まず学生たちの意見を聞くことを心がけています。私のほうが先に意見を言ってしまうと、学生のほうは従わざるを得なくなりますからね。それに話し合いもよくするようにして、学生とのあいだに垣根をつくらないようにしています。我々のような研究にはチームワークが重要ですからね」
取材中の福原先生はにこやかで、また非常にていねいな話しぶりで応じてくれた。門外漢には難解な専門用語なども噛んで含めるように説明してくれ、学生とのあいだに垣根をつくらないという先生の人柄がよく伝わってくる。
福原研究室では月に1・2度のペースで飲み会を開く。福原先生を中心にして大学院生を含めた10人ほどが、研究室の小さな机をギューギュー詰めに囲んで飲みかつ語り合うのだ。そこで語り合われるのは研究の話ばかりではなく、ときには人生についての話もあるという。
「私自身の学生時代にも同じようにやって、それがいい思い出になっているものですから」と福原先生は笑った。
研究室の入っている建物はやや古びて、お世辞にもきれいとは言い難い建物である。だが、ここで世界最先端の研究がされ、ここが世界に向かって開かれた窓口なのだ。
「バイオテクノロジーの世界は発展途上の分野で、新しい発見が毎日のようにされています。生物科学が好きで、その何かを解明したい、何かを発見したいという人には活躍の場の多い分野ですよ」 福原先生は最後にそう結んだ。
こんな生徒に来てほしい
大学で学ぶために大切なのは積極的な姿勢です。大学で学びはじめるときには学力の差はあまりありません。それが4年間で差になって表れるのは、目的意識を持って積極的に学ぼうとしているのかいないのかの違いになります。高校までの受け身の学習と大学とは違いますから、ぜひそうした積極的な生徒さんに来てほしいと思います。










