- 小林 一 教授
- 明治大学
商学部 小林 一(こばやし・はじめ)教授
1953年生まれ。
81年、明治大学大学院商学研究科博士後期課程の単位を取得し、同年より明治大学短期大学助手となる。82年同短期大学専任講師、86年同短期大学教授。 87~88年に米国ワシントン大学の客員研究員。96年より明治大学商学部助教授をへて、同年、明治大学商学部教授就任し、現在に至る。テーマは戦略的マーケティング論と流通チャネル論。
最近の著書に『新訂流通総論』(白桃書房)、共著『市場駆動型の戦略』(同友館)などがある。
「人間が関わるマーケティングの面白さ」


- 小林ゼミには、夏と春に2回の合宿がある。写真は2003年夏のゼミ合宿の模様だ。まずゼミに入った3年次の夏には、商学セミナーへの投稿論文を共同で作成し、研究論文の書き方をナマンで行く。この活動は、将来の卒業論文や研究活動にとって貴重な経験となる
「私の現在の研究テーマは、企業の競争優位の源泉を探る戦略的マーケティング論と、流通取引の仕組みがどのように形成されていくのかを、関係性に着目して分析していこうというリレーションシップ・マーケティング論の2つです」とは、小林一先生、明治大学商学部の教授である。
どの時代にも、同じ業界内にありながら、儲かる会社と儲からない会社がある。誰もが儲かっている会社の真似をすればいいものを、それをしないで経営が落ち込んでいく企業がある。その理由は何かを考えることが、小林先生のテーマの1つ「競争優位の源泉」の問題である。
「だって不思議でしょう? この経営方針を採れば儲かることがわかっているのに、やらずにいる会社がたくさんある。それは、やりたくてもやれない理由があるからなのです。例えば企業文化や経営資源、組織の仕組みなど。これらが背景にあって、同じ経営方針を採りたくても採れない現象が起こってきます。逆に、そこが企業の個性ともいえます。それを探るのが面白いのです」と言う。
例をあげれば、1920年代のアメリカのフォード社は、黒い箱型の大衆車を大量に生産し、アメリカ中に車を行き渡らせることに成功した。一時は市場の大きなシェアを誇ったフォード社だったが、ほとんどの家庭に車が行き渡った途端にトップの座から転落した。
なぜなら、車を買い替える時期が来ても、再び同じスタイルの黒い車を買おうとする人はほとんどいなかったからである。
これは社会が一種の成熟段階に達した証である。こうした変化にいち早く気づき、バラエティに富んだデザインの車を生産して成功を収めたのがジェネラル・モータース社だった。以来、フォード社は、現在までジェネラル・モータース社の後塵を拝している。
なまじ1つの車種の大量生産で成功してしまっただけに、時代やマーケットが変化しても、経営の方針を柔軟に変更することがフォード社にはできなくなっていたのだ。
「各社が採っている経営戦略の背景には、必ず目には見えない企業資源や企業文化、組織の仕組みが存在しているものです。それらを分析し理解しないことには、いくらマーケティング戦略を策定しても役には立ちません。だが、この分析はたいへん難しい。なぜなら、そこには理屈では説明しきれない存在である『人間』が関わっているからです」と、先生は言う。
顧客と企業の関連性、企業と企業の関係性を重視

- 小林先生は、ゼミ生から提出された卒業論文を1枚ずつCDに焼いて卒業時に渡している。ゼミ発表中や合宿などの記念写真なども加えられる。これはその1枚。恩師が焼いてくれた自分だけの1枚のCDは生涯忘れられない思い出となることだろう
70年までの企業分析においては、自然科学のように分析的な理論研究だけで十分だと思われてきた。理想的な経営戦略を立てて、それを実行しさえすれば、企業は儲かると信じられていたのだ。
しかし80年代に入り、分析的な研究だけでは、経営やマーケティングを十分に把握することができないのではないかという考えが出てくる。その理由は経営を行なうのが、ほかならぬ人間だからである。
「このようなマーケティング研究を、プロセス型戦略の研究といいます。従来の分析型マーケティング戦略の研究に替わる考え方です。同時にそこではリレーションシップ、つまり“顧客と企業との関連性”も重視されています。これがもう1つのテーマであるリレーションシップ・マーケティングの問題なのです」
顧客と企業との関係は、今や演劇と同じだという。演劇は芝居というサービスを提供しているが、観客もじつは舞台に参加している。例えばかけ声がかかったり、ノリがよかったり悪かったりする様子が、舞台の成功に影響してくるように。
「いまは不況に加えて成熟した社会というダブルパンチで、モノがあまり売れません。ですから企業は、舞台がお客さんをファンにするように、消費者を自分のファンやサポーターとして獲得していかなければなりません。よい例が、車の買い替えでしょう。具体的なこの車種が好きというよりも、営業マンの人柄やサービスをみて、またあの人から買おうという動機で車の買い替えを決める人がかなり多いことはご存じですね。すると、メーカーは従来のように、単にかっこいいイメージ広告を打っていればいいというわけにはいきません。客と双方向性のあるコミュニケーションを高め、他社が介入できないように密接に接していくような、従来にない新しい方法が必要になります」
「また、メーカーと流通業者・ディーラーとの間の企業同士の取引関係もそれに応じて変化しています。メーカーと流通業者はいわば一枚岩のように協同しつつ、今日の市場の変化に対応して行かざるを得なくなっているのです。現在、明治大学商学部では、この企業間の問題を解明するために、研究プロジェクトが組織されており、文部科学省からも学術フロンティア研究として認定されています。ぜひ明治大学のホームページもご覧になってください」
ところで、現在小林先生が熱心に取り組んでいることの一つに、ゼミにおける事例研究(ケース・スタディ)の活用がある。事例研究というのは、具体的な企業の事例を取り上げて、それを通じて、テキストに書かれている原理がどれほど通用するのかを確認するというものだ。
「単に、『この会社はこういうマーケティングを行なっている』という話で終わってしまうならば、いわば現象を記述しているだけとなります。私のゼミでは、もう一歩踏み込んで、なぜそういう行動を採用しているのかという理由を考えてもらいたいのです」
ゼミの勉強においては具体的な現実と向き合うことを重要視しているのだ。幸いなことに、今日、具体的な素材を集めることはそれほど難しくはない。インターネットを使えば、さまざまな素材・資料に簡単にアクセスすることができるようになっているのだ。
新装成った明治大学駿河台校舎はデジタル設備が充実していることでも知られている。マーケティングを専攻する学生にとっては、これ以上にない環境だろう。これらの設備を活用して、大学のフィールドを超えた有意義な学生生活をめざしてもらいたい。
こんな生徒に来てほしい
私のゼミでは、自分の意見を話せる人、やりたいことを持っている人、固定観念にとらわれない人、個性的な人を望んでいます。私が大学院に在籍していたころ、研究に面白味を感じられなくなり、やめようかと悩んだ時期がありました。そのとき私は、研究は一人で本や論文を読んでするものだと思っていたのです。しかし、ある勉強会に参加して、多くの人とディスカッションをするうちに、再び楽しさを見出せた経験をもっています。自分とは異なる視点の持ち主との意見交換がないと、研究は行き詰まってしまいがちです。考えを相手にぶつけることで自分の考えもさらに深まります。皆さんには、どんな考えでもいいから、とにかく口に出して主張できるような人になってほしいと思いますね。

