- 町田 和彦 教授
- 早稲田大学
大学院 人間科学部 人間科学研究科 町田 和彦(まちだ・かずひこ)教授
1944年東京生まれ。68年早稲田大学教育学部理学科生物学専修卒。76年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。順天堂大学医学部講師、国立公害研究所主任研究員、大分医科大学助教授をへて88年より現職。
主な著作に『忍び寄る感染症』(早稲田大学出版部)、『長寿科学事典』(共著・医学書院)などがある。
「理系研究でも文系的な素養のほうが大事」 人間をトータルで見た予防医学

- 町田研究室の入る研究棟
早稲田大学所沢キャンパスにある人間科学部は、環境・健康福祉・情報を研究基盤にして、人間を総合的に究明する学部である。ここは2003年春に学部の改組が行われ、スポーツ科学科が分離独立して学部になり、人間科学部は3つの学科に再編された。
「学科は新たに、人間環境科学科・健康福祉科学科・人間情報科学科の3つの学科に分かれました。それまでの人間科学部の各学科の名称では漠然としていましたが、3つの学科に分かれたことで、そこで何が学べるかのイメージが明確になったと思います」
そう語るのは人間科学部健康福祉学科の町田和彦教授である。先生が教鞭を執っているのは健康福祉科学科だが、人間科学部の場合はあまり学科の枠にとらわれなくても良いという。
「人間科学部には学科ごとの必修科目がありません。ですから、学生は自分が学びたい科目を自由に選択できます。他学科のゼミに参加することも自由ですし、複数のゼミを重複して取ることもできます。途中で他学科に転科することも可能なのです」
何とも自由度の高い学部である。最終的にどこのゼミに所属して卒業論文を書いたかで、その人のコースが決まることになる。学生それぞれの主体性が最大限に重んじられていて、学びがいのある学部といえよう。
「高校生が受験の段階で、学科からコースまですべて決めるというのは酷な話ですからね。この学科では、入学して学びながら、自分の進路を決めればいいわけです」と町田先生は語る。
10年にもおよぶ総合的高齢者疫学調査

- 広大な面積を誇る早稲田大学所沢キャンパス
その町田先生の専門は予防医学。じつは日本屈指の規模を誇る早稲田大学にあって、この分野を教えるのは同先生ただひとりであった。
先生の研究は非常に守備範囲が広くて、テーマも多岐にわたる。学部時代から前職までの研究テーマを追ってみても、DNAとヒストンの相互作用、網内系機能の日内リズム、麻疹ワクチンの研究に始まり、カドミウム代謝、微量金属の生体影響、無医村地区の健康管理、C型肝炎の血清疫学的研究等々と非常に多彩だ。
こうした守備範囲の広さは、大学院のときの恩師をはじめとする、人との出会い、時代の要請、それに先生自身の興味などから自然に広がってきたという。
「こうした研究を続けているうちに、細胞レベルの研究よりも、人間をトータルで見てみたいという思いが強くなりましてね。人間と環境との関係、健康と生きがい問題、さらには低成長時代に深刻な問題となってきた、医療や福祉政策などへの興味が徐々に高まってきたわけです」
それがいまの予防医学・健康福祉医療政策の研究につながることになる。そして、その研究は人間科学部にピッタリのテーマだったとも語る。 現在もなお多くのテーマを抱えて、旺盛な研究に取り組んでいる町田先生だが、そのひとつに高齢者疫学調査がある。
「これからの日本においては高齢化の問題が重要だろうと思います。それで10年前から高齢者の調査を始めて、現在までに埼玉県内の2つの市と村の65歳以上の高齢者を対象に調査してきました。私の場合は単に社会学的なアプローチだけでなく、それぞれの人の運動能力やストレスチェック・QOL(生活の質)・免疫機能・臨床検査など、高齢者の総合的な機能も調査しています」
一定地域の全高齢者を対象にする、これだけ総合的な調査を継続的に行なっているのは、全国でも珍しいばかりでなく、本年度より中国の天清市で医療行動調査も含めた健康増進運動を始めている。ここで得られた調査結果は、高齢者の医療政策などに反映されることにもなる。
「それで高齢者の方々が、生きがいのある生活ができるようになれば」と町田先生は語る。そのほか、人間の免疫機能であるQOLを高めるためのライフスタイル、運動習慣やストレスや機能性食品の免疫機能に与える影響など、多種多様な研究テーマに町田研究室では取り組んでいる。
理系研究でも文系的な素養のほうが大事

- 所沢キャンパスのシンボル「人とペガサス」像
早稲田大学人間科学部のゼミは1年次から実験実習法が始まり、3年次から演習が始まる。いままで町田ゼミでは例年15人ほどの学生を受け入れてきた。
「私のところは予防医学の研究室ですから、実験・実習が中心になります。単に知識を詰め込むだけでしたら、本を読めばいいわけでゼミは必要ありませんからね。実験実習法の前半は人体の構造や測定法など予防医学の実験・調査研究の基礎的なトレーニング。後半は高齢者を中心にした医療政策についての調査とディスカッション。3年次になると免疫・微生物などの高度な実験実習と、医療政策や福祉政策についての研究をしてもらいます」
町田ゼミの実験実習には動物実験もあるそうで、そう聞くと理系の研究室だと思われがちだ。しかし、必ずしも理系の知識は必要ないと町田先生は話す。
「人間について研究するのに、物理ですとか数学の計算式はあまり関係ありません。予防医学は社会医学とも言われ、そのカテゴリーには文化的な面や社会経済的な面もあります。また、文章力や語学力にも強いことからむしろ文系的な素養のある人のほうが向いているとも言えます。技術的なことは大学に入ってから学べばいいことだと思います」
先に町田先生は早稲田大学で予防医学を教える唯一の先生だといった。じつは2003年度から予防医学が専門の専任講師・鈴木克彦先生が人間科学部に着任している。なんと、この鈴木先生は町田先生の教え子なのである。鈴木先生は自分では文系の人間だと思っていたところ、町田先生の薫陶を受けているうちに理系への目が開かれたのだという。
それで町田研での大学院生活修了後、別の大学の医学部で学び直して今回の着任となったのである。こんな例もあるのだ。また師弟の2人が、母校の予防医学の分野を分担して担当するというのもいい話ではないか。
「高校時代にはスポーツしかしていなかったという体育系の学生でも、この学部に来てから自分なりのテーマを見つけて、研究に熱中する人は多いですよ。目の付けどころさえよければ、大学院生の先輩といっしょに研究できる環境をつくって引っ張ってあげます。要はやる気なんですね」町田先生は微笑みながらそう結んだ。
こんな生徒に来てほしい
大学というところは、自分の将来を見つけるところです。人間科学部では、学生にやる気さえあれば、かなりのところまで伸ばしてあげることができる環境があります。具体的な目標をもっている人は、ほぼ目標どおりのものを達成しています。大学に来ても、ただ漫然と過ごしたのでは何も得られませんしね。

