- 小林 英夫 教授
- 早稲田大学
大学院 アジア太平洋研究科 小林 英夫(こばやし・ひでお)教授
1943年東京生まれ。71年東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。71年同大学経済学部助手。74年駒澤大学経済学部講師。77年同助教授。81年同教授。96年より現職。
主な著作に『戦後アジアと日本経済』『日本軍政下のアジア』(ともに岩波新書)、『産業空洞化の克服』(中公新書)などがある。
「日本とアジアに求められる創造的経済研究」

- 晩秋を迎えた早稲田の象徴・大隈講堂
早稲田大学には「アジア太平洋研究科」という独立研究科がある。独立研究科というのはいわゆる大学院大学のことだが、受験生諸君のなかには耳慣れない人もいるだろう。そこで同研究科教授の小林英夫先生に、そのあたりから説明してもらった。
「普通の大学大学院は学部の延長としてありますが、大学院大学は学部から独立した大学院になります。ですから、早稲田大学の卒業生ばかりではありません。4年制の大学を卒業した人であれば、国内・海外の大学ですとか出身学部に関係なく入学することができます」
実際に、院生のうち早稲田大学の卒業生は5分の1ほどで、あとは他大学の卒業生や海外からの留学生となる。全体の半数は留学生で占められ、日本に居ながらにして国際交流の場になっているという。
この研究科の入学選抜には筆記試験がなく、原則的に書類審査と面接だけ。そこで問われるのは、研究に向かう意欲ということになる。いろいろな魅力に富んだ大学院大学であることについて、小林先生はこう話す。
「この研究科の目的は高度職業人を養成することにあります。
具体的には、国連をはじめ世界銀行や国際司法関係・WTO(世界貿易機関)・WHO(世界保健機関)・ユニセフなどの国際機関で働くための人材を育てることです。そのため普通の大学院のカリキュラムとは違って、学際的な研究が中心になっています」
『アジア版EU』構想への遠い夢
小林先生ご自身の専門は「アジア経済論」で、日本とアジアの経済関係が研究テーマだ。
「日本企業の海外展開、とくにアジアでの展開について、その摩擦と克服を私の研究テーマにしています。具体的には、韓国や中国・東南アジア諸国に進出している日本企業を学生たちと訪問して、それぞれの企業が抱えている問題、あるいは先進的に解決した例などについて調査・研究をしています」
現在の日本をめぐる経済問題には過去のさまざまな歴史が反映しており、歴史を踏まえて研究することが重要だと小林先生は説く。アジアの経済問題を研究している研究者は多いが、過去にまで目を向けている研究者は少なく、先生はこの分野の第一人者ということになる。
「これは企業経営についても言えることで、中国などの経営者には歴史に詳しい人が多いのに、日本の経営者は知らなすぎます。歴史的認識についてあまりに無知な人が多い。アジアで企業展開をするためには、アジア各国の歴史観などに留意しないといけませんが、歴史を軽く考えている人が多すぎますね」
現在のアジア経済に過去からの光を当てながら、そこから将来を見通すのも小林先生の研究テーマだ。その未来予測はEU(ヨーロッパ経済共同体)のアジア版のような構想ともなる。
「その中心になるのは企業だろうと思うのですが、残念ながら日本の企業や経営者にはバックグランドとなる歴史認識が欠けています。EUがどうして成ったのか考えますと、第1次・第2次の2つの世界大戦を経験して、ふたたび戦争を起こさないという反省のうえに立っています。『アジア版EU』を将来構築するにしても、そうした歴史上の痛みや喜びの共通認識がないと成り立たないのですが、まだまだ日本企業にはその認識がありませんからね」
なお遥かな道のりだが、しかしまたNGOやNPOなどを通じて、アジアの新しいネットワークも生まれつつある。小林先生はそうした新しい芽に将来への可能性を見たいとする。 研究について語る先生は、言葉を探しながら非常に理路整然とした話し方をされ、真摯に研究に取り組む姿勢が窺われる。
歴史を踏まえたアジア経済論
小林先生の研究室は大学院の研究室であるから、在籍しているのは修士および博士課程を履修する院生ばかりである。博士課程23人・修士課程30人の合わせて50人を超える大所帯だそうで、「少し多すぎるのですが」と先生も笑う。逆にそれだけ先生の薫陶を受けたいと寄り集まってくる院生が多いということでもある。 その院生への指導方針について、次のように語る。
「それぞれの研究については、大きな枠で日本とアジアの経済関係であれば、必ずしも私の研究テーマに沿っていなくても構わないと考えています。ただ、どんなテーマであっても論文の創造性は求めます。受験のための勉強などとは違いまして、自分で問題を立てて自分で解くということになります。そこから導き出された結論についても、その論理性と実証性はきびしく評価するようにしています」
大学院での研究は、皆さんの受験勉強などとは根本から違うと先生は語る。「受験のための勉強は与えられた法則に沿って、ひとつだけの解を求めるものです。大学院での研究というのは、その法則をまず疑い、あるいは崩してでも、自分で問題を掘り起こさなければなりません。最近の若い人には、一定の法則に沿って解を出すのは得意だけれど、自分で問題をつくり出すのは苦手だという人が多いようですね」
ただ、だからといって受験勉強が無意味ということではないという。自分で問題をつくるにしても、高校までの基礎的な知識が前提になるからだ。高校生のあいだに受験勉強を含めた基礎的なトレーニングを十分に積んでほしいと小林先生は話す。
ふたたび先生の研究のことに戻そう。「この研究をしていて私が喜びを感じるのは、いろいろな事実のあいだに連関しているものを見つけたとき、さらにその連関するものの規則性が見つけ出せたときですね。いま高校生のみなさんにも、ぜひその喜びを味わってもらいたいと思います」
大学での4年間を終えた先には、大学院大学に進むという選択肢がある。そして、そこには小林先生のような先生が待っていることをぜひ知っておきたい。
こんな生徒に来てほしい
いや応なしに現代はグローバルな時代ですから、狭い日本のなかだけに留まるのではなく、若いエネルギーを発散させながら、世界に向かって飛び出せる人がいいですね。といっても、闇雲に飛び出すのではなくて、その前に日本のことをよく知る努力をして、自らの歴史観くらいはちゃんと身につけてほしいのですが……。












