- 高山 節也 教授
- 二松學舎大学
文学部 大学院 文学研究科中国学専攻 高山 節也(たかやま・せつや)教授 21世紀COEプログラム「日本漢文学研究の世界的拠点の構築」拠点リーダー。二松学舎大学東アジア学術総合研究所教授。専門は漢籍書誌学。
日本における漢文研究の大いなる復興を

- 皇居のほとりに建つ二松學舎大学九段キャンパス
漢文教育に重点を置くことで知られる二松学舎大学。そんな二松学舎ならではの文部科学省21世紀COEプログラム「日本漢文学研究の世界的拠点の構築」は、長年散逸しつつある漢文漢籍の文献資料をくまなく調査しデータベース化することを目指すものとして注目を浴びている。そのCOEプログラムの拠点リーダーとして大活躍中の高山節也先生に今回ご登場いただこう。
いま現役高校生に立ちはだかる大学受験においても、漢文を必須科目に選ばない方式が幅をきかすようになって久しい。しかし、上古(大和朝廷時代)より中国大陸の漢字漢文の受容が始まった日本では独自の漢文読解法である「訓読」が知識人階級を中心に浸透する。上古・中古・中世・近世を通じてつい百数十年前まで、この国の思想・歴史・文学などの執筆・出版の多くが漢文形式の文体によって生み出されていたことを忘れてはならない。
ところが明治以後の西欧化・近代化に伴い漢字漢文の研究は次第に軽視されるようになる。先の大戦後以降はさらにその風潮が強まり、貴重な漢籍文献の散逸など深刻な状況のまま現在にまで至る。「まず文献調査についてですが、どの書物がどこに所蔵されているかを徹底的に調べて、書物の目録を作成することに尽きます。見つけたい書物がどこにあるかさえ分からないことも多いので、場合によっては我々自身の足で探さなければいけないことも多々あります」 国内のみならず世界中でバラバラになってしまった漢字漢文の書物を調べ尽くすことは、近代以前の日本文化そのものを探し出すことにほかならない。思想・文学等は言うまでもなく、当時の日本人の書きことばや話しことばを知るための手だてがそこにあるからだ。
「さらに、書物の中身の文章をすべてデジタル化・データベース化することによって、書物の中のある言葉がどこに全部で何度出てくるかといった膨大な情報について簡単に検索できるようになります。もちろん大変な作業になると思います。書物そのものの画像もデータベース化して、現時点でその書物がどういう状態にあるのかも分かるようにしたいです」
そして、これらの情報を国際的に共有する体制づくりまでが本プログラムの領域となる。どれくらいの量の書物が対象となるのかすらイメージするのは難しいが、時空を飛び越えた長大な国家級プロジェクトであることは確かだ。
漢籍の「中身」よりも「外見」に注目

- 初夏のある日のキャンパス前大通り。正面には靖国神社。
高山先生自身の専門は漢籍書誌学。といっても、高校生のあなたには何を指すのか見当がつかないかもしれない。
「書誌学について分かりやすく説明すれば、書物の内容というよりも書物の外形を調べて分類するというものです。用紙の種類や印刷造本の仕方といったところまで焦点を当てます。いわば博物学に近いものがありますね」
同じ木版で刷ったはずの書物でも刷り方の違いを見極めるなど細部にまで注目していく。それにとどまらず、その書物が出版されるまでに同じ分野でどんな書物が出版されていたのか等を徹底的に調べて系統づけるのも書誌学の領域となる。
実際に高山先生の研究室にある書物を一部見せていただいたが、実際に手にしてみると、用紙が和紙というだけあって想像以上に軽い。表紙の古びた質感から思わず扱いも慎重にならざるを得ない。江戸時代の『古文真宝』という書物だという。
「漢文での模範的な作文が書かれているもので、この古文真宝を参考に当時の人たちは作文を習いました。江戸時代にはこのような書物が山のように出版されていました。古文真宝だけでも100種類を下りません。そうした書籍を一つひとつ調査していくわけで、とことん派手さのない地道な学問です」
「面白いことに、この分野の研究者には収集癖のある人が多かったりします。書物に限らず昆虫採集が趣味なんていう人までいます(笑)。だからと言うわけではありませんが、コツコツやっていける性格の人に向いている学問だとは思いますね」
漢籍の分類法まで実際に学べるゼミ実習

- 二松學舎キャンパスの中庭。左の建物は体育館。
学部生の3年次から専攻できる高山ゼミでは、書物の取り扱いに始まり、調査カードでの書物情報の記入方法、解題(書物の著者や作品の由来等についての解説)の読み方などを逐一学んでいく。浅学者にすぎない筆者が調査カードを垣間見ても、「編著者」ぐらいはかろうじて分かるものの、「版心」「封面」「蓮牌木記」など理解不能な文字が立ち並ぶ。
「わたしのゼミはいわゆる人気ゼミではあり得ません(笑)。なので、多くて10人少ないときはマンツーマンになることすらあります。実習においては調査カードや解題を実際に書かせていきます。はじめは用語など難しく思えるかもしれませんが、漢籍にはそれに適した伝統的な分類の仕方があり、現代風に改めてしまうことはできません」
これらの地道な手続きを踏んで、書物は正確に分類されデータ化されていく。これらなくして歴史的書物は現代に生き返ることができず、日本文化の大事な部分の喪失にも直結しかねないのだ。高山先生を中心に「日本漢文学研究の世界的拠点の構築」COEプログラムを担う二松学舎大学はいま文字どおり漢文研究の拠点をめざしている。そして昨今の「日本語ブーム」の影響もあってか、現在少しずつではあるが、漢字漢文の価値を見直そうという動きが起こりつつあると高山先生は語る。
「そういう意味でも、時期的にもグッドタイミングでこのCOEが採択されたのではないかと思っています」
ただ、漢文訓読の素養だけでも日本人の常識となるべく全面的に見直される勢いまであるかというと、そうとばかりもいえない貧困なニッポン的教育事情も横たわる。高山先生は、漢文のもつ視覚的で明解な論理を忘れ去ってしまった先の日本語(そして日本文化)の将来を憂う表情も見せる。
「わたしが高校生のころは国語の教科書といえば現代国語・古文・漢文の3冊に分かれていましたが、いまは1つにまとめられてしまっているそうですよね。よしんば漢文を学習するとしても、受験対策レベルで終わってしまうのが現状です。少子化の影響でさらにこの分野から学生が遠ざかることも考えられます。しかし、現在の日本の書きことばや話しことばの根底には漢文があるわけです。研究者だけでなく、ぜひ一般の若い人にもそれを知ってもらいたいですね」
ちょっと見方を変えれば、漢文研究や漢籍書誌学という学問に進むことは、漢字かな混じり文として日常生活のなかで当たり前となっている私たち日本人の言語環境の由来、さらには未来の日本文化の姿を推し量ることにもつながる。日本語あるいは日本文化に興味のある諸君は漢籍書誌学についても進学希望の視野に入れてはどうだろうか。
こんな生徒に来てほしい
何事でも積極性のある方のほうがすばらしい研究成果が望めます。ただ、この学問にまず向いているのは地道な作業をコツコツやっていける人なんですね。

