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Good Professor

甲斐 素直

甲斐 素直 教授
日本大学
法学部 大学院 法務研究科・法科大学院

かい・すなお
1948年東京生まれ。70年日本大学法学部法律学科卒。73年会計検査院入庁。93年同院退庁。93年日本大学法学部専任講師。96年同助教授。02年同教授。04年同大学法科大学院教授を兼任。主な著作に『財政法規と憲法原理』(八千代出版)『予算・財政監督の法構造』『憲法ゼミナール』(ともに信山社)などがある。
甲斐先生のWebサイトアドレスはこちら → http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/index.htm

「憲法統治機構」の実際的研究のパイオニア

お茶の水キャンパスにある日大法科大学院の全景
お茶の水キャンパスにある日大法科大学院の全景

日本大学法学部教授の甲斐素直先生は実にエネルギッシュな先生だ。日大法学部(大学院法務研究科)と法科大学院双方の教授を兼任し、その本来の講義とゼミ指導だけでも多忙なところに、学内で「憲法研究会」を主宰し、雑誌に書評やエッセーを連載して、自身のWebサイトでは「江戸財政改革史」を連載形式で公開中。これらに加えて、学会や海外出張もあるという案配。そのため、朝の起床は連日午前4時という「モーレツ先生」なのだ。

そんな先生の専門は「憲法」で、その「憲法統治機構」が研究テーマとなる。統治機構論とは、国家の統治を担当する国会や内閣・裁判所といった国家機関がわれわれ国民から与えられた権力を乱用して国民の自由を侵害しないように上手にその活動を制限しつつ、なおかつ国民の利益をもっとも確実に実現させるように国家機関を効率的・経済的に活動させるためにはどのような制度であるべきか? そういうことを研究する学問のことだ。

「憲法統治機構に着目したのは大学生のときでした。ただ着目して研究しようとしても、先行の研究がほとんどありません。法律学の研究というのは、その分野に関する判例を調べるという形式を通して行なうのが一般的です。ところが統治機構論の場合、憲法に反する活動を国家機関がしても直ちにだれかの自由や権利が侵害されるわけではありません。裁判にもならないことのほうが大半です」

「ですから、憲法統治機構の研究をするには判例以外の何かから情報を収集するしかありません。その何かとは、統治機構に属する国家機関が現実に活動している現場を調べるほかありません。そのもっとも効率的な調査方法として、わたし自身が国家公務員になってその現場に立つという方法が一番容易だと考えたわけです」

そして大学卒業後、甲斐先生は会計検査院に入る。同院こそ、この国の統治機構としての各機関の現実を見通すのに最も適した役所と考えたからだ。

「ところが当時はひとつの検査課がひとつの省庁(機関)を専門に担当する縦割り検査が会計検査院の慣行でした。これでは限られた機関しか調査できません。そこで私は横断検査も取り入れるべきだと主張して、その有効性をアピールしつづけました」

その熱心さがやがて役所を動かし、「横断検査」も取り入れられるようになる。その実務の先鞭を付けたのも甲斐先生だ。その在任中に国のほとんどの機関についての会計検査を経験し、それぞれの統治機構についての調査も行なうことになる。

目下の研究テーマは「憲法統治機構論の比較法」。世界でも研究者の少ない分野の実際的研究にいま甲斐先生の手で光が当てられようとしている。

「世界最古の憲法を有するアメリカやドイツなどと日本との統治機構についての比較研究をしています。と言いましてもまだ研究者の少ない分野ですから、こちらから出向いてフィールドワークを行なっているところですね」

司法試験等の志望者のみが「入ゼミ」の条件

甲斐研究室のある日本大学法科大学院の玄関
甲斐研究室のある日本大学法科大学院の玄関

日本大学法学部のゼミ演習は3・4年次の学生が対象となる。甲斐ゼミでも例年10人前後のゼミ生を受け入れている。その条件は、司法試験か国家公務員試験・法科大学院のいずれかを目指している人。なんと「入ゼミ」には筆記試験と面接まであって、その意気込みのほどがうかがわれる。

「あえて私のゼミに入るには厳しい条件を課しています。そういう目的を掲げて指向性を定めることで、学習レベルが上がって知識が深まると思うからです」

ゼミ自体は3・4年次合同で毎週2コマぶち抜きで開かれ、毎回与えられたテーマについてグループ別に討議して発表していくスタイルをとる。最近のゼミで取り上げられたテーマを見ると、①都道府県条例で表現の自由を規制してよいか②総理大臣の権限強化における憲法上の問題点③憲法によって国会に与えられている国政調査権によって鉄道事故における私企業の責任を追及できるか――などの論題が立ち並ぶ。

そして、ゼミ生への指導方針について甲斐先生は次のように語る。

「疑問を感じる能力が身に付くようにということですね。どんな分野の研究でもいえることですが、疑問のないところに進歩などありません。大切なことは、そうした疑問を言葉にしてきちんと表現できるかどうかであり、言語化できた疑問は解けたも同然なのです。それを繰り返し学生たちには言って聞かせています」

甲斐先生はゼミとは別に学内で「憲法研究会」を主宰して開いている。司法試験か国家公務員試験をめざしている法学部学生であれば、1年次の学生からなんとOBまで自由に参加できる。

「希望する人はだれが来てくれてもいいと思っています。だからといってレベルは低くはないつもりです(笑)。あくまで司法試験や国家公務員試験に合格するのを目標にしていますからね。この憲法研究会に出ている人は私のゼミにも自由に出席できます」

超多忙を極める甲斐先生がわざわざ時間を割いて研究会の指導にあたっているのだ。学生指導に懸ける熱い気持ちが伝わってくる。

法科大学院の誕生で法曹界が大きく変わる

三崎町キャンパスにある日本大学法学部本館
三崎町キャンパスにある日本大学法学部本館

ここで、現役高校生諸君に向けて先生はいくつかアドバイスをしてくれた。まず、高校と大学の違いについて――

「高校と大学で一番違うところは時間割りでしょうね。ほとんどの高校ではどの先生のどの授業を聞くのかは学校側が決めます。たとえば英語の先生が3人いたとしても、どの先生の授業も同じ教科書を使って文科省の定めた指導要領に従って行なわれるのですから、少なくとも教わる内容自体はどの先生の授業を聞いても違いがないはずです。これに対して大学では指導要領などの規制はなく、その講義で何を教えるかはそれぞれの先生の自由です。だから、同じ名前の講義でも担当する先生によって教える内容は全く違ってきます」

「憲法についても、法哲学と非常に近い領域に力を入れる人、人権論だけに力を入れる人、また私のように統治機構論と人権論に均等に力を入れる人など様々なやり方があります。小さな大学だと憲法の教員が1人しかいないので、学生諸君としては選択のしようがありません。しかし日大の場合のような大きな大学だと、憲法だけでも何人もの専任教員がおり、それぞれが同じ『憲法』という名前で講義をしています。こういうやり方を『競争講義』といいます。こういう競争講義のどれを受講するかは基本的に学生諸君が自分で決定することになります」

「つまり、自分が大学を卒業して社会に出た後どのような生き方をしていくかを考え、どの講義がそれに必要な情報を提供してくれるかを判断する――それらはすべて学生の側の責任なのです。受講するあらゆる講義について、自分の一生との兼ね合いを考えながら自分だけの時間割りを立てなければなりません。そうしたことが大学と高校の一番の違いでしょう」

また、法科大学院の誕生で法学教育そして法曹界自体が大きく様変わりするだろうとも説く。これまでの『法学部 → 司法試験受験』というニッポン的かつ一元的な流れから、今後は『各種の学部 → 法科大学院 → 司法試験受験』という流れが増えていく。そして、それが主流になるのだろう。

「今後、法科大学院の誕生によって大量の司法試験合格者が輩出されることになります。これまで弁護士はもっぱらゼネラリストであることが求められてきました。これからは日本でもスペシャリストでないと弁護士として生き残れないことになるでしょう。医事専門や特許専門・企業法務専門――等々それぞれの弁護士に得意分野が必要になるということです」

さて、毎朝4時には起床するという甲斐先生だが、受験生諸君にもふだんから早起きを勧めたいという。「夜間に実施される大学入試はありませんからね」と先生。これについて説明の要はなかろう。

こんな生徒に来てほしい

ほとんど人にとって大学というのは人生最後の「学びの場」であり、大学を出ると社会人になって働くことになります。ですから、大学選びのいまの段階からどういう社会人になりたいのかイメージしておくことが大切です。漫然と進学すると、無為な4年間を過ごすことにもなりかねません。

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