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Good Professor

出口 弘

出口 弘 教授
東京工業大学
大学院 総合理工学研究科

でぐち・ひろし
1955年生まれ、東京都出身。東京工業大学大学院総合理工学研究科システム専攻博士後期課程修了。福島大学経済学部助手・国際大学グローバルコミュニケーションセンター助教授・中央大学商学部助教授・京都大学大学院経済学研究科助教授をへて現職。主な著作に『システム知の探求 1』『複雑系としての経済学』(ともに日科技連出版社)『デジタル社会の編成原理』(共著・NTT出版)などがある。
出口先生の主宰する「出口研究室」のWebサイトアドレスはコチラ → http://www.cs.dis.titech.ac.jp/

社会システム科学が拓く「文理クロスの新学問」

研究室メンバーと出口弘先生
研究室メンバーと出口弘先生
出口研究室のある東工大「J2」棟
出口研究室のある東工大「J2」棟

東京工業大学大学院総合理工学研究科の出口弘教授にお会いした第一印象として、非常にスケールの大きさ、それも人間的な大きさが強く残る。そんな先生の所属は知能システム科学専攻で、「進化経済学」「計算組織論」「エージェントベースモデリング」「社会システム論」などその専門分野も幅広い。

出口先生の現在の研究テーマは大きく2つある。そのひとつが「エージェントベース社会システム科学(ABSSS)の確立」だ。ちょっと聞き慣れない学問分野だが、どんな研究内容なのだろうか。

「社会というのは概念的な構成物ですから、リアルにとらえるのが非常にむずかしい。社会全体の様子を視覚的に拡大して見せてくれるのがコンピューターを駆使したシミュレーション(模擬実験)です。ただ私たちがやっているシミュレーションは計量的なものだけではありません。人間はもちろん組織・社会もふくめた主体(エージェント)が個別的に動き、相互に作用しながら社会全体が変化していく様子をとらえようというものです」

物理学や天文学における天体・宇宙船の軌道シミュレーションのような純科学的なものであれば正確なものが得られるだろう。しかし出口先生らが挑んでいる社会システムをめぐる想定実験には多種多様な個々の人間が想定外的に登場してくる。各人間それぞれに感情と意思があり、社会的役割もそれぞれ担っているのだ。

「たとえば朝夕のラッシュ時のターミナル中央駅で重大事故が発生したとき人々はどう行動するのか? また、鳥インフルエンザが発生・蔓延したら人々はどう行動するだろうか? これらについては以前よりかなり正確にシミュレーションによって追求できるようになっています」

21世紀COEプログラムリーダーとして

夏の日のすずかけ台キャンパス全景
夏の日のすずかけ台キャンパス全景

社会科学分野において今までにない画期的な研究手法だが、これが可能になったのは「SOARS」(Spot Oriented Agent Role Simulator)の開発で、これも出口先生たちのオリジナルの研究から生まれたものだ。そして、これが現在の先生第2の主要研究テーマとなっている。

「このSOARS(ソアーズ)はまったく新しいシミュレーション言語になります。これによって模擬実験内の人物などに社会的役割やその学習などを容易にインプットできるからです。これまでのシミュレーション言語とは比較にならない使いやすさが自慢で、コンピューターのプロばかりでなく、Web制作担当者やドメインエキスパートなど関連領域の専門家でも使用できるようになっています。現在も進化中でどんどん使いやすいものに改良されていますよ」

いったん研究の話を始めると捲し立てるように早口で話す出口先生。まさに〝マシンガントーク〟で、取材する者にとしても研究に懸ける情熱とみなぎるエネルギーに圧倒されそうだ。

これまで出口先生が研究してきたABSSSおよびSOARSの研究は、隣接分野の研究者も加えて文理融合・領域透過させた三位一体の統合的アプローチとして認められ「21世紀COEプログラム」に採択されている。COEというのは、世界的水準にある各大学研究プロジェクトに文部科学省が研究費助成をする制度のこと。先生が拠点リーダーを務めるこのCOEプロジェクト名は「エージェントベース社会システム科学の創出」というのが正式名称である。

「私たちの研究はある措定した結果に向かって進んでいるわけではありません。今後どんな展開になるのか分からないのがかえって面白いですね」

「最近は文理融合ということばが安直に使われていますが、我々の研究こそが文理がクロスするところで社会的知識の新しい学問を創出しているのだという自負もあります。これまでの学問で解けなかった諸問題に突破口を開いてやるという気概ですね」

04年から当面5年間を目標にして活動している巨大プロジェクトだが、出口先生よると「目標の45%は達成している実感がある」と語る。さらなるプロジェクトメンバーの精進にも期待したいという。

理論と実践の両面からの文理を越える

夏の日のすずかけ台キャンパス全景
夏の日のすずかけ台キャンパス全景

出口先生が所属する東京工業大学大学院の総合理工学研究科はいわゆる大学院大学である。それゆえ出口研究室のメンバーには学部学生はいない。いずれも修士課程・博士課程を履修している大学院生だけだ。取材当日は研究室ゼミ演習が行なわれていたが、それを見学させてもらった。

修士・博士課程の院生だけのゼミだけに、じつに落ち着いた雰囲気が印象に残る。この日は、修士課程のSさんと博士課程のIさんの2人が、ロシアで行なわれた学会の国際会議で研究発表した様子が報告された。2人とも国際会議において英語で発表したのは初めての経験だったそうで……

「途中から頭が真っ白になって、英語で質問されると何が何だか分からなくなっていました(笑)。でも発表内容に興味をもってくれる人もいて、またチャンスがあれば国際会議にはできるだけ参加したいとも思いました」(Sさん)

「私のところの指導の特色は徹底的な議論と徹底的な実践を行なわせることです。それによって物事を抽象的に見る力と、具体的に解決する力が養われます。何事においても両側から徹底的に見て検証することが大切です。そこを突き詰めていくと、文系でも理系でもない両方の力が出てくるように思いますね」

「伝統的にも東工大はそういう学校で、それは今も変わっていません。そこには工学も理学も違いはない。徹底的に一所懸命やることで道は開かれる。研究生諸君には常々そう言っています」

例によって立て板に水で語ってくれた出口先生。東工大入試の難関を乗り越えて学部4年間を終えたら、こんな熱い先生の下で徹底的に学んでみるのもいいだろう。そのスケールの大きな人柄に触れるだけでも啓発されるものは多いはずだ。

などと感想を語った。そのあと首都圏における人々の動きと某都市ターミナル駅を中心にした人々の動きのABSSS手法によるデモアニメーションを筆者のために特別に見せてくれた。その院生たちへの指導方針について出口先生は次のように話す。

こんな生徒に来てほしい

基本的に「来る者拒まず、去る者追わず」でやっています。来てほしい人といえば、やる気があって新しい時代を切り拓こうという積極性と意欲のある人ですね。とにかくやる気と意欲――若い人はそれに尽きます。

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