- 住吉 孝行 教授
- 首都大学東京
大学院 理工学研究科
首都大学東京 住吉 孝行 教授
すみよし・たかゆき
1952年大阪生まれ。76 年京都大学理学部物理学科卒。81 年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。82 年文部省高エネルギー物理学研究所(現・文部科学省高エネルギー加速器研究機構)入所。95 年同研究所助教授。02 年同研究機構を退所し、東京都立大学大学院理学研究科教授。05 年より首都大学東京への改称・改組により現職。02 年より高エネルギー加速器研究機構客員教授を兼任。99 年に第16 回高エネルギー加速器科学研究奨励賞受賞。
世界初のニュートリノ振動実験に挑む

- 住吉研究室のある首都大学東京8号館建物
今週ご紹介する首都大学東京大学院理工学研究科(学部としては都市教養学部理工学系物理学コースを担当)教授の住吉孝行先生は、長く茨城県つくば市にある文部科学省高エネルギー加速器研究機構(高エネ研機構)で世界最先端の研究実験に携わり、その主導的立場として活躍してきた。
「高エネ研機構には20 年ほどお世話になりました。ああした国の研究機関というのは、長くおりますと研究実験の現場を離れて管理職になっていくというコースが敷かれています。しかし私は研究実験が大好きでして、どうしても現場を離れたくなかったわけです。学生を教育しながら実験ができる大学に活路を求めました」
そこで住吉先生は02年に高エネ研機構を辞めて、当時の東京都立大学の教授職に転ずる。大学教授であれば定年まで研究職として実験現場にいられるはずという「現役宣言」ともいうべき人生の選択だった。
そんな研究一筋に貫く姿勢がすがすがしい先生の専門は「素粒子物理学の実験的研究」。その研究テーマは「衝突加速器を用いた素粒子実験(高エネルギー実験)」ということになる。
「すべての素粒子にはその反粒子が存在します。衝突型加速器を用いた高エネルギー実験においては、真空の加速器のなかで電子とその反粒子である陽電子を衝突させてB中間子と反B中間子というものをつくり出し、それによって物質世界と反物質世界の違いについて探求していきます。B中間子はクォークと呼ばれる素粒子で作られています。また、これとは別に物質をつくっている素粒子にはレプトン(軽粒子)の世界というのもあります」
レプトンの中にはニュートリノと呼ばれる粒子があり、これまで質量がないとされていた。しかし近年になって3種類あるニュートリノがお互いに別の種類のニュートリノに変身する振動現象が発見された。振動するということは質量をもっているわけで、いま世界中の物理学者が競ってその振動実験に挑んでいる。
「レプトンというのは3世代で構成されていて、このうち第1~2世代と第2~3世代の振動実験はほぼ成功しています。しかし第1~3世代への実験はまだ誰も成功していません。それを我々でやろうということになり、07 年から本格的な準備に入ったところです」
「生涯一研究者」にふさわしい研究現場

- 首都大学東京南大沢キャンパスの南門
これを「Double-Chooz」計画といい、フランスとの共同実験で、日本からは東北大学や首都大学東京はじめ8大学の研究者が動員される大プロジェクトだ。この日本側代表3人のうちの1人が住吉先生で、この世界初の実験の陣頭に立つ。
ついでにいうと住吉先生は07 年「日本物理学会春季大会」の実行委員長で、また同年秋から日本物理学会誌の編集委員長に就任することも決まっている。押しも押されもせぬこの分野の重鎮なのがわかる。
「私ぐらいの年齢になると、役職が交代で回ってくるだけですよ」
謙虚で誠実な学究らしい雰囲気を周囲にただよわせる住吉先生はそう一笑に付した。そして「物理学オンチ」の記者にも丁寧に対応してくれる。
住吉研究室には上記のほかの実験施設として、①国際協力による次世代加速器実験(ILC) ②陽子の内部構造を電子で探る国際実験(ZEUS)③レーザー光子を高エネルギーの電子ビームと衝突させる「レーザー・コンプトン散乱実験」――など12 にもおよぶ項目が列挙される。現場での研究実験を続けるために教授職に転じたという先生の「現場」だけのことはある。
住吉ゼミが週2回も開かれる理由とは

- インフォメーションギャラリー前のアーケード
いま住吉先生が所属しているのは首都大学東京の都市教養学部理工学系物理学コースだが、同コースの特徴については次のように語る。
「物理学コースは『素核宇宙理論』『物性基礎理論』『粒子宇宙物理実験』『物性物理実験』の4つのグループから成っていますが、学生定員45 人に対し教員が34 人もおります。マンツーマンとまではいきませんが、教育環境は非常に恵まれています。いずれも優秀な教官がそろっていて世界レベルの最先端の研究実験が行なわれており、それも大きな特徴ですね」
このうち住吉先生は「粒子宇宙物理実験」グループの所属となる。理工学系物理学コースの学部生は、4年次の1年間を各教員の研究室に配属されて卒業研究を行なう。住吉研究室の定員は4人だが、例年それを上回る応募があり、採用は成績順にしているという。同研究室の特徴として文系学科並みに週2回のゼミが開かれていることがある。
「物理学を学ぶ者にとってもっとも大切なことは何事にも興味をもつということです。いま研究実験しているテーマに関連する問題を次から次へと課題にして、大学院生を含めた学生たちに調査研究させ、ゼミで発表してもらっています」
世界的な研究で多忙を極める住吉先生が後進の指導のためにわざわざ時間を毎週割いているのだ。
「物理への興味を失ってほしくないですからね」
そう笑って語る住吉先生。物理学と学生たちへの愛情に並々ならぬものが感じられる。
最先端めざす首都大学東京「物理学コース」

- 冬のある日の首都大学東京の図書館
05 年4月、首都大学東京は旧「東京都立大学」から改称・改組されて新たなスタートを切った。このときの改組によって、それまでの「理学部物理学科」が「都市教養学部理工学系物理学コース」に改められた。
「学部名に教養学部と入ったことで、首都大学東京の物理学コースは教養程度の内容しか学べないなどと誤解されないかと心配しています。1年次から基礎ゼミを必修にするなど質・量ともに旧都立大時代に勝るカリキュラムが実際にはなされており、最先端の物理学も学べるようになっています。ですから安心して当コースに来ていただきたいですね」
このことがとにかく心配だから記事のなかに必ず記述してほしい――そう幾度も念を押す住吉先生なのであった。まじめで律儀な先生の人柄が伝わってくる。インタビューの最後に物理学を学ぶ上でのキーポイントについて語ってくれた。
「物理学で新たな研究や実験を始めるときは、基本的な根本に戻ってスタートすることが肝要です。とくに新技術・新製品の開発に携わるときなど、この基本を忘れてはいけません」
「物理学の表現言語は数学ということになります。物理学自体には非常に関心を寄せながらも、数学が苦手なために立ち往生してしまう学生が時々おります。それでは本末転倒で大変に残念なことです。そうならないためにも数学の基本には精通しておくべきでしょう」
こんな生徒に来てほしい
物理学で扱うのは自然現象ですから、そうしたことに興味や関心があって好奇心旺盛な子がいいですね。この学問を学ぶためには、学校の成績などよりも自然現象に対する興味や好奇心のあることの方が決め手となる気がします。さらにいえば自分の手や身体を動かしてモノをつくることが好きな人にも向いていると思います。

