- 山口 高平 教授
- 慶應義塾大学
理工学部 管理工学科 1957年大阪生まれ。’84年大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻博士後期課程修了。’84年大阪大学産業科学研究所助手。’89年静岡大学工学部助教授。’97年同情報学部教授。’02-’03同大学評議員。また、’96年米・南カリフォルニア大学情報科学研究所客員研究員。’04年より現職。現在、人工知能学会理事(編集委員長)・情報システム学会理事(編集委員長)。主な著作に『データマイニングの基礎』(オーム社・’07年大川出版賞)『情報システム学へのいざない』(培風館)『eビジネスの理論と応用』(東京電機大学出版局)などがある(著作はいずれも共著)。
山口先生が主宰する研究室のURLアドレスはコチラ → http://www.yamaguti.comp.ae.keio.ac.jp/
21世紀最強リテラシー「管理工学」と次世代Webテクノロジー

- 山口研究室のある矢上キャンパス24号棟

- 矢上キャンパスへはこの坂道を登っていく
今週の一生モノのプロフェッサーは、慶應義塾大学理工学部管理工学科の山口高平教授である。現役高校生のみなさんにとって「管理工学」というのは耳慣れない学問分野で、あるいは初めて聞いたという人もあろう。そこで、まずは「管理工学とは何か?」という基本的なところから山口先生に説明していただいた。
「人やモノ・資金・情報の4つのリソース(要素)をシステム化して、最適な組織づくりを考えていくための工学的アプローチが管理工学です。我々の学科は4つの教育研究分野を設定し、①数理的な手法について研究する『応用統計と最適化』②システムと人間との関係を研究する『システム工学と人間』③Webインターネットやデータマイニングを研究する『情報科学』④数理的手法を使って経営モデルなどを研究する『経営と経済』から成っています」
管理工学の大きな特徴にその汎用性が挙げられる。工場における生産システムから企業経営・公的組織運営・交通システム・都市システム・金融システム・世界経済・環境問題・哲学・文化、はては国家運営にまで活用可能なのである。
「慶應義塾大学理工学部には11の学科がありますが、それぞれが機械や化学などに特化した研究に取り組んでいます。ところが管理工学科だけは特定の分野を特化するのではなく、さきに挙げた4つのカテゴリーについて満遍なく研究し、人材育成においては技術リーダーとともにマネジャーの育成にも力点を置いています」
すでに日本の大手企業の社長・取締役には慶應義塾大学管理工学科出身者が幾人もいるという。この学科の特徴的な教育の成果のひとつでもあろう――そう山口先生は評価する。
ところで、山口先生自身のご専門は「次世代Webの研究」だ。先に挙げたカテゴリーでは情報科学の分野に属する。
「わたしは学生時代から人工知能について研究していました。その人工知能をインターネットに組み込むことで、さらに高度なことが実現できるのではないかと考えたわけです。それで開発したツールが「DODDLE-OWL」になります。このツールは、英語や日本語のテキストから、人間ではなくソフトウェア自身がことば・概念の意味を理解するために利用する階層型ネットワーク辞書(オントロジー)を半自動的に生成します。このオントロジーを整備することにより、後で述べるセマンティックWebの世界が開けてきます」
山口先生はこれをオープンソースとして公開し、だれでも無料でダウンロードできるようにしてきた。この種のツールは世界初の開発になるが、そのことで個人的な利益を得ることなど先生は意に介していないらしい。
次世代IT社会を方向づける「セマンティックWeb」

- 人工知能搭載中のヒューマノイドロボットNAO。ちなみに実験全体の動画は下記アドレス参照(http://www.yamaguti.comp.ae.keio.ac.jp/japanese/obstacle.wmv)

- サービスイノベーション人材育成プログラムの模式図
というのも、いまや次世代Webの研究開発は、もっとも猛烈な競争が日々なされている場なのだ。ひとつの開発に満足することなく、すでに山口先生の関心は次のツール開発に向かっている。
「いま取り組んでいるのは、人工知能搭載のロボットとWebとを融合させて、複数のロボットがいろいろ考えながら協力してサービスを提供するシステムの開発です。現在は、コンピューター内の膨大なWebドキュメントについてコンピューター自身がその意味を理解するというオントロジーを整備しています。これはまだ開発段階ですので、それが理解できる次世代ツール『セマンティックWeb』の完成までにあと5~10年くらいはかかるだろうと思われます」
この次世代Web開発が実現すると、利用者が質問を与えるとコンピューターが答えてくれるQ&A方式の本格的利用ができるようになる。たとえば、ある特定地域の住宅価格の平均についてWebサイト上で問えば、瞬時に答えてくれるようになる。
「ただ全ての利便性にはリスクが伴いますから、セキュリティーの面も併せて考えていかないといけません」
管理工学は人類最強のリテラシーなのかもしれない

- オントロジー半自動生成ツール「DODDLE-OWL」

- 丘の上にそびえる14号棟「創想館」
慶應義塾大学のほかの理工学部各学科と同様に、管理工学科の学部生たちも4年次になると各教員主宰の研究室に配属されて、卒業研究に臨む。
「4年生の選抜はわたしが面接をして決めています。研究能力として情報分析能力やプログラミングスキルが必要となりますので、それらの基礎が十分に理解できているかどうか? 我々の目標は10年後のインターネットですから、それにどんなイメージを描いているのか? そしてこの研究に向かう意欲などを見て選抜しています」
プログラミング技術などは教わって上達するものというよりは、それこそ寝食を忘れて熱中するほど好きであるというのが重要となる。そうした雰囲気が自然に伝わってくるような人が向いているらしい。
4月に研究室入りした学部生には、まず「セマンティックWeb」について書かれた原書の文献輪読、さらに高度なプログラミングについて学ぶゼミ演習から始められる。
「わたしの研究室では、国家的プロジェクトや企業との共同研究のなか、大学院修士学生と学部生がチームを組んでプロジェクト制で研究を進めています。学部生たちも各プロジェクトにおいて責任あるテーマが与えられ、それらが各人の卒業研究ともなります」
これは、いきなり高度な研究開発を学部生にさせるのは無理があるという配慮からだ。あらためて学生指導にあたっての方針について山口先生は次のように語る。
「管理工学は理科系・文科系の枠に収まらないような広い視野が必要な学問分野ですが、あまりそうしたことに囚われ過ぎますと、どこか地に足の着かない浮ついた研究内容に陥ってしまう危険もあります。なにか基軸となる、自分なりの方向性を必ずひとつ持ちなさい。そのうえで広く物事を見るようにしなさい――いつもそう指導しています」
これを「T字型タイプの人材」とも呼ぶのだそうだ。縦に深く根差した基軸となる専門分野と、横に広がる広い視野を備えた理想的な人材というほどの意味らしい。
こんな生徒に来てほしい
「好きこそ物の上手なれ」という格言があります。何かひとつでいいので、これだったら自分は時間を忘れて夢中になれるというものを持ったうえで、大学に来てくれたら素晴らしいと思います。
また最近の学生たちを見ていますと、そうした、何か自分なりのこだわりを持つ人が少なくなってきたような気もしています。素直な優等生ばかりでは教える側にとっても何か寂しいですね。ひと昔前にくらべても精神的な弱さが目立つというか、ちょっとした失敗ですぐに落ち込んでしまう人が多くなっているようにも感じています。そのあたりから指導しないといけない時代になって来たのかなぁとも考えています。









