- 田島 淳 准教授
- 東京農業大学
地域環境科学部 生産環境工学科 たじま・きよし
1958年東京生まれ。’83年東京農工大学大学院農学研究科農業工学専攻修士課程修了。’83年東洋運搬機(現TCM)入社。研究所勤務。’85年東京農業大学農学部農業工学科助手。’98年学部改組により地域環境科学部生産環境工学科に変更。’04年同助教授。’07年より現職。主な著作に『地域環境科学概論』『地域環境科学概論Ⅱ』(前著ともに理工図書)『コンピュータと実験で学ぶ振動・計測入門』(学界)などがある(著作はいずれも共著)。
農業ロボット開発が人類農業史を一変させる?

- 田島研究室のある世田谷キャンパス7号館

- 農大世田谷キャンパス点描
今週ご紹介する一生モノのプロフェッサー・田島淳准教授は東京農業大学の地域環境科学部生産環境工学科の所属である。あまり耳慣れない学部と学科名だが、ここでは一体どんなことが学べるのか? そのあたりから先生に説明してもらった。
「地域環境科学部の母体は農学部農業工学科で、農業生産の補佐について研究してきた学科です。つまり農作業で使用する機械類の開発など、農業生産を工学的手法で補佐してきた分野ですね。戦後の農業復興からその後の生産性向上まで、大きく貢献してきたと言っていいと思います」
去る98年に東京農業大学は学部改組を全面的に行ない、農業工学科は農学部から独立して地域環境科学部となった。
「ここでは今までの農業生産のために開発していた技術を、環境修復あるいは環境保全のために応用していこうということになりました。最近になって先進国最低の食料自給率(08年度カロリーベースで41%)など、食や農への関心が高まり、もう一度本来の農業生産補佐のための技術について考えようと方向転換されています」
田島先生が在籍する生産環境工学科の統一的なテーマに、「生物生産(農業や畜産など)を支援するエコ・テクノロジーの追究」が掲げられている。具体的には、①農業生産の基盤技術②農業生産のための機械システムの開発③環境についてのシステム工学的考究――などだ。
そんななか、田島先生ご自身が研究開発しているのは農業ロボットである。
「現在の日本農業の主流は『全面耕耘』という栽培法です。これは作業効率が高く均一性がありますが、自然環境への負荷が非常に大きいというマイナス面もあります。農業ロボットのおかげで作業効率が上がっても、マイナス面が増大するのでは意味がありません。わたし自身そうしたロボットの開発はしたくないですからね」
環境負荷に留意した局所耕耘栽培式の農業ロボット

- 東京農業大学生の「知の拠点」大学図書館

- 農業ロボット作業車を囲む研究生たち
現在、田島先生が考案試作中なのは、なんと太陽電池駆動による『局所耕耘栽培』をめざしたロボットだ。駆動エネルギーを太陽電池に求めたのは、自然環境対策であることは説明するまでもない。では、局所耕耘栽培とは一体どんな栽培法なのか?
「これは地表の植生はそのままにして、野菜個々の栽培について必要最小の面積だけを耕耘し、周囲の雑草などと共存を図っていく栽培法です。こうすることで従来からの農作業体系が組み変えられるのではないかと思っています」
これまでの大規模な集約型農業では、土壌浸食や農地の劣化、地下水の汚濁、病害虫の大量発生など、さまざまな問題を抱えざるを得ない。これを局所耕耘栽培法に転換すると、農地や自然環境に与える負荷が大幅に軽減されることになる。このような栽培法の普及を実現させるため、田島先生は農業ロボットの開発に心血を注いでいるのだ。
「ここは農業機械メーカーではありませんからね。あくまで大学の研究室ですから、単に作業効率を上げるだけの機械の開発ではなく、なにか別の観点も加味して開発するべきだと思いますよ」
この取材のあと実験圃場で田島式農業ロボットの、実際の作業状況を見せてもらった。直径8mmの耕耘器具「Shaft Tillage」が、土中に小さな穴をうがち、そこに水を投入してチンゲンサイの苗を植え込む。それをロボットが自動的に繰り返していく。
そうした機械の一連の動きは実にスムーズである。ただ、ここまで来ても開発はまだ途半ばだとも。
「まだまだ分からないことばかりですからね。耕耘器具のシャフトにしても、土中に小石や木の根があると規定の深さまで掘れません。その対策としてシャフトを氷の柱にする案を検討中です。氷柱にすれば強い力で打ち込むことができ、引き抜く必要もなく、水の投入工程も省略されて一挙両得なのですが……。ただ、これも検討を始めたばかりで未知の部分が多いですからね」
さらに、太陽電池で駆動させる計画のほうも、今の技術ではロボットを自在に作動させるだけのエネルギーを確保できていない。というわけで、人類史上初の農業ロボットの前途はなかなか遥遠でもある。しかし、田島先生はこう言い切る。
「あとは執念だけですよ」
もっと地に足をつけた農業研究者を育て上げたい

- ロボット部分の調整をする田島先生

- 野菜の苗が次々と植えられていく
次に、厳しさの上でも学内では知れ渡る、田島ゼミの実態に迫った。
「東京農業大学地域環境科学部のゼミ演習は、3~4年次の学生が対象となります。ゼミは3年次と4年次で別々に行ない、3年次は、農作業から農業機械やディーゼルエンジンのメンテナンス、さらには古い機械の修復など何でも体験してもらうようにしています。4年次ゼミ生は卒業研究に集中することになります」
そうしたゼミ学生たちへの指導方針についてはこう語る。
「たとえば4年次の卒業研究では、各自それぞれで研究テーマを決めていきます。研究計画を立て、栽培試験をして、論文にまとめる――それらを自分ひとりの力でやり抜きなさいというのが私の指導方針です。まずは自身の力で考えてやるということですね。もちろんゼミ生のほうから相談にくればいくらでも乗りますが、私のほうから『こうしなさい。ああしなさい』という指示などは極力しないようにしています」
最近の学生の一般的傾向として、知識は豊富だが、どうも知識偏重で地に足が着いていない人が多いというのが田島先生の印象らしい。もっと知識を自らの骨肉にして、自力で考えて行動できる農業実践者・研究者を育てたいがために、あえて突き放した指導法をとっているのだという。
こんな生徒に来てほしい
自分で手を動かして何かをやりたいという人は大歓迎ですね。大学アカデミズムの存在を支えているのは「知的好奇心」であると言われますが、これには私も同感です。農業の未来に関心をもつ学生さんたちが知的好奇心を持てるように、研究テーマなり教材・環境なりを用意してお待ちしたいと考えています。










