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Good Professor

戸田 浩人

戸田 浩人 教授
東京農工大学
農学部 地域生態システム学科

とだ・ひろと
1961年東京生まれ。’84年東京農工大学農学部林学科卒業。’86年東京農工大学農学研究科林学専攻修士課程修了。新潟県庁林務課林業職での林務行政(林道設計など)をへて、’90年東京農工大学農学部フィールドサイエンス教育研究センター助手(演習林管理研究・フィールド実習指導)。’91年同学農学部地域生態システム学科助教授。’09年より現職。専門は森林土壌学・森林生態学。主な著作に『森林・林業実務必携』(「2章森林土壌」「4章育林」担当・朝倉書店)『緑の環境設計』(共著・エヌジーティー)ほか。

森林土壌を通した自然システムを解明する愉しさ

戸田研究室のある府中キャンパス1号館
戸田研究室のある府中キャンパス1号館
東京農工大学府中キャンパス正門。シンボルのケヤキ並木や時計台が見える。時計台のある農学部本館は国の登録文化財
東京農工大学府中キャンパス正門。シンボルのケヤキ並木や時計台が見える。時計台のある農学部本館は国の登録文化財

今週の一生モノのプロフェッサー・戸田先生のご専門は「森林土壌学」と、それを応用した「森林生態学」、また主に土壌中の「物質循環」解析である。
森林の土壌中の物質循環システムを解明し、そこから生態系を維持管理する理想的な方法とは何かを探り出す。
豊かで健康な森林の基礎であり、水資源とも密接なかかわりを持つ「森林土壌」を研究し、健全な維持管理に役立てようとする本当のナチュラリストなのだ。

「わたしは山歩きが好きで、そこにいられれば幸せというタイプ。自然のなかで、これは不思議だということを見つけ、そのプロセスを調べるのが好きだったのですね。木や葉など目に見えるものにも惹かれましたが、土に関しては、どの本を読んでも『こうなっているはず』としか書かれていない。『はず』って一体なんだ! こうした疑問がわたしの学問の始まりです。千年万年にわたる自然の成り立ちの不思議が土の表情に出るのです。見ていて本当に楽しいですよ」

現在の研究は、森林環境の物質循環にさまざまなフォーカスを当てること。
大テーマとして、すべての生命に直結する部分を形づくる物質「窒素」と、その生命を燃やすエネルギー源「炭素」の循環を明らかにする点を掲げている。

「物質は、固定されず常に循環して動いていなければ健全とはいえないのです。それも『バランス良く』です。富栄養化や枯渇などの異常なしにバランスよく循環するシステムを解き明かし、それを実際の森林維持管理に役立てるのです」

そんな戸田先生のところには、日本向けの輸出エビなどの養殖池を作るための伐採で再生不能となり、放棄されて防波や漁礁の機能を失ったフィリピンのマングローブ林や、急激な開発で砂漠化した中国奥地の乾燥地植生など、瀕死の森の回復という難題が持ち込まれる。
とくに汽水域(淡水と海水が入り交じった地域)のマングローブ林は、もともと限界状態で植物が生きており、破壊されたら容易には戻らない。
回復のための方法論など何もない現状なのだ。
そこで先生は、NPOがエコツアーなどで植えた、繁殖力が強く根付きやすい植物の苗をまず植えて育てた後、根付かせるのが難しい元の林にあった苗木を地元の人と一緒に育て、林を維持する方法を整えていく。

「研究所で苗が育ってもしょうがないのです。その地域の人が自分たちの手で育て、森林が維持できなければ意味はないのですね。もっとも私のやっている活動は昔からのいわゆる『林業』そのものなのですけど」

百年余の歴史ある「造林学」の中の「森林土壌学」

その昔ひろいキャンパスに響き渡り時を知らせた鐘
その昔ひろいキャンパスに響き渡り時を知らせた鐘
大樹が茂る風格のあるキャンパス
大樹が茂る風格のあるキャンパス

最近のエコブームで、従来木材生産が主だった森林は、「水資源を蓄える」「二酸化炭素を固定して温暖化を防ぐ」「土砂の流出を防ぐ」など、地球環境の根幹を形作る役割のほうが強調されるようになった。
だが一方で、熱帯雨林などがここ2~30年で半減していっている現実は変わらない。

「’92年の地球サミットで、熱帯雨林が乱伐で急激に姿を消していることと、地球環境の悪化の関連性が問われ、『持続可能な森林経営』が言われたのがクローズアップの端緒でした。でもこの『持続可能な……』という概念もまた、日本では100年以上前から意識されてきた林業の精神と一致するのです」

戸田先生のご専門は、歴史ある造林学の中でも、未知の森林土壌の生態を明らかにする「森林土壌学」。
森林を育てるのは足元の土だ。
ところが、雨水を蓄え水源となり、様々な物質を循環させて多様な生物をはぐくむ森林土壌のシステムは、意外にもほとんど解明されていない。
土中では、微生物も動物も元素もみな動くのだ。

「その循環システムを科学的に解き明かしていきます。なかでも窒素と炭素の循環に専門的に追っています。炭素は、地球規模でも生命体の中でもエネルギーの動きのコアに携わる。窒素は、生物が多量に必要とする栄養素でありながら鉱物には含まれていない。初めは大気中に存在する窒素を固定できる微生物が取り込み、植物の栄養となり、再び落葉などとして土壌に還える物質循環が長い時間をかけて大きくなっていき、生態系に窒素が蓄積されていきます。一方で土壌から流出する水は浄化されるようになっていきます。このように森林の中でさまざまな物質はとてもうまく巡っています。しかしどこか生態系のバランスが崩れると、水をきれいに出来なくなったり、炭素を固定しなくなったり、土砂が流出するなどの異常が起きます。悪い流れを健全な方向へ変え、より良い土壌が形成されるようにしたいですね」

フィールドセンスを磨き自然に答えを教えてもらう

大久保利通の記念碑。維新の政治家・大久保利通は農学振興を説いた「農学の祖」なのだ
大久保利通の記念碑。維新の政治家・大久保利通は農学振興を説いた「農学の祖」なのだ
輸出用養殖池開発で衰えた植生を回復させる。まだ方法論が確立していないマングローブ林(フィリピン)
輸出用養殖池開発で衰えた植生を回復させる。まだ方法論が確立していないマングローブ林(フィリピン)

戸田ゼミ生の研究は「(大気中の窒素を取り入れる緑化木ハンノキなどの根につく)根粒菌はどういう状況で、どれだけ窒素を固定するか」「有機肥料が少なくても耐えられるコナラの木に付く糸状菌(キノコの仲間)菌根菌の機能特性」など、「緑化」の根幹にかかわるテーマも数多い。
その卒業後は、半数は林野庁や農林水産省や地方自治体の森林関係、その後は民間の緑化造園関係へ順調に進んでいるという戸田ゼミの具体的な活動内容とは?

「その活動は、野外と室内でする実験や発表とに大きく分かれます。研究室での実験も大事ですが、一番大事なのはフィールドのセンス・感覚を身に付けてもらうことだと思っています。自分で何か不思議だと思ったら、外へ出て自然に向かって森林と対話できるかが重要です。机上でチマチマと万巻の本など読むより、フィールドのセンスをいかに磨くか、それこそが将来の現場解決能力につながるといえます」

最後に戸田先生に、日本の森についてもお尋ねしてみた。

「日本の国土は、気候も土壌も本当に奇跡的なほど良いのです。木材を伐採しても、森は比較的早く回復します。対して世界では、厳しいギリギリな状態で生きている森林がほとんど。日本は恵まれていると自覚すべきでしょう」

こんな生徒に来てほしい

いまは気持ちの余裕がないかもしれません。
しかし自然の成り立ちは不思議で、実にうまくできています。
虫や土壌中の虫や菌類も含めて、森が生きている仕組みは「何だろう」と興味を持ってください。
そして不思議を見つけたら、座って本から知識を得るだけでなく、フィールドに出ていきましょう。
目を見開いて自然に教えてもらう「森林との対話」を経験してみてください。

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