- 芳賀 繁 教授
- 立教大学
現代心理学部 心理学科 はが・しげる
1953年大阪生まれ。’77年京都大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。’86年カナダ・トロント大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。’79年日本国有鉄道(現JR)・鉄道労働科学研究所研究員。’87年(財)鉄道総合技術研究所主任研究員。’95年東和大学工学部経営工学科助教授。’98年立教大学文学部心理学科助教授。’02年同教授。’06年より現職。
著作は『絵でみる失敗のしくみ』(日本能率協会マネジメントセンター)『失敗のメカニズム―忘れ物から巨大事故まで―』(角川ソフィア文庫)『ヒューマンエラーは裁けるか』(訳書・東京大学出版会)など多数。
芳賀研究室のURLアドレスはコチラ→
http://www2.rikkyo.ac.jp/web/haga/
ヒューマンエラーのなぞに迫る「科学としての心理学」

- 芳賀研究室が入る新座キャンパス6号館

- 立教大学新座キャンパス全景
立教大学の心理学の学部には、頭に「現代」の2文字が冠せられ、「現代心理学部」となっている。
今週の一生モノのプロフェッサーとして紹介する同学部教授の芳賀繁先生に、まずその意味するところから聞いてみよう。
「立教大学の場合『文学部心理学科』として長い伝統があったのですが、’06年に文学部から独立して『現代心理学部』となりました。そのときに従来の『心理学科』に加え、目がとらえる映像(あるいは身体と心)の問題を研究する『映像身体学科』も新設しました。映像と身体の研究は心理学においても新しい領域ですので、学部の名称に現代をつけることにしたわけです」
芳賀先生自身が在籍する「心理学科」については次のように語る。
「本学の『臨床心理学』と『産業心理学』の研究は、伝統があって定評があります。さらに、非常に幅広い分野の教員がそろっていて、基礎から応用・臨床までの全体を学べるのが特徴になっています。また、それだけバラエティーに富んだゼミ演習なども用意されているわけですね」
さらに、1~2年次の早期から心理学の専門教育が受けられるのも立教大学心理学科の特徴といえるらしい。
さて、芳賀先生のご専門は「産業心理学」「交通心理学」「人間工学」だ。
具体的には、ヒトが引き起こすミス「ヒューマンエラーの心理」についての研究を長年してきた。
この分野でのオーソリティーとしても知られる。
「さきほど立教大学心理学科の特徴に『産業心理学』研究を挙げました。実は心理学科で産業心理学が学べて、しかもゼミ演習まで開講されているのは非常にめずらしいことなんです。これは本学の伝統的な特徴ともいえます」(経営学部や商学部などで講義やゼミを開講している大学はある)
「人間がおかすうっかりミスや、ちょっとしたルール違反によって起きる事故。それらが交通や医療機関の現場であれば、小さなミス・違反が重大事故につながる可能性も出てきます。そうしたヒューマンエラーがなぜ起きてしまうのか? それを防ぐためにはどうすればいいのか? わたしは、こうしたことを心理学的に研究しています」
そもそもなぜヒトという生物はミスをおかすのか?

- 学生のオアシス「新座学生食堂」

- 「蔦の緑」は新座でも立教大学のシンボル
それでは改めて、なぜヒトという生物はミスをおかすのか?――
「ヒトはものを見て認識したり判断したりするときに、それまでの経験や状況から予測して行動します。その判断はほとんどの場合で正しく、またヒトは予測行動をしないと生活できないようになっているのです。大半の行動は自動化・習慣化されていて、一つひとつ確認しないで行動しています。その仕組みがうまくいかないときにミスが発生するのです」
「なお、もうひとつのヒトがルール違反をおかす理由ですが、ヒトは本来危険なことを好む特性をもっているというのも要因です。遊園地の絶叫ジェットコースターに人気があるのを見ればわかるでしょう」
ヒューマンエラーを防ぐためには、どうすればいいのか?――
「見間違えの対策としては、色を分けたり形を変えたりするという方法(あるいは「指さし称呼」)も有効です。そうしたことを実験して科学的に証明していくのも心理学を研究する者の役目です。たとえば医療の現場で薬品の名前の類似度を指標にして、類似度の高いほど投薬ミスが多いというような客観的なデータですね」
「わたしは指さし称呼をすることでミスがどのくらい軽減するのか、実験したことがあります。その結果、ミスは6分の1に軽減されることがわかり、指さし称呼の有効性が科学的に実証できました」
さらに、こうした人間工学的対策を上回って重要なのが、仕事に就く人それぞれの気持ちなのだという。
「どんなに対策を施しても、安全に作業をしようという気にならない限り、人間によるミスは減りません。そのためには今の仕事に誇りがもてるようになることが大切です。懲罰的な安全対策はむしろ逆効果になりがちですね」
まさにヒューマンエラー対策のポイントであろう。
芳賀先生はこうした実績から、JR西日本や日本航空の安全対策の委員を務めている。
「心理」の「理」(科学)にも関心をもって学ぼう
次いで専門ゼミについて伺った。
立教大学現代心理学部の専門ゼミ演習は3年次から始まる。
芳賀ゼミは1学年10人前後のゼミ生で構成されるのが通例だ。
「3年次のゼミ生には、まず前期にヒューマンファクターやヒューマンエラーに関する日本語のテキストを読んでもらいます。それについてレジュメをつくり、全員の前で発表し、ディスカッションするというのを交代で行います。さらに夏休み中に英語の専門論文を読んでもらって、夏合宿で発表してもらいます」
3年次後期になると、4年次の先輩ゼミ生について卒業論文作成の手伝いをするのだそうだ。
「これは一昨年度から始めたのですが、3年次のゼミ生に意外に好評でしてね(笑)。つまり先輩の作業を手伝うことで、翌年なにをすべきかがよく分かるというのです」
芳賀先生もこのスタイルをしばらく続けてみたいと語る。
その4年次の卒論のテーマだが、「産業心理学」「交通心理学」「人間工学」の範囲からであれば、原則的にゼミ生の自由だ。
例年かならず誰かが「指さし称呼」をテーマに取り上げるそうだが、この技法実験が学生たちに与えるインパクトの大きさが窺える。
あらためて学生たちへの芳賀先生の指導方針については――
「心理学系の学部を卒業しても、大半の人は一般の企業に就職します。企業のなかには心理学を文系の一分野としか見ないところが多いのも実態です。非常に残念ですし、これをいつか打破したいとも考えています」
「そのためには良い学生を育てて、心理学を学ぶとこんなことも出来るのだというのを示せるようにしたい。ですからゼミ生の諸君には、いまの社会で問題になっている諸問題の解決に応用できるスキルを身につけて卒業していってほしいと思いますね」
こんな生徒に来てほしい
心理学は人間の心の喜怒哀楽から、思考や知覚・認知・記憶・行動までを科学的に探求する研究分野です。
ですから心理に対する関心と、科学に対する関心の両方をもっている人が向いています。
ともすれば「心理」の前半の「心」にだけ関心のある人が入って来がちですが、「理(科学)」にも関心をもって来てほしいですね。










