一人ひとりの学びが世界を変える
教育を通じて日本を豊かにしたい

NPO法人青春基地・代表理事 石黒和己

一人ひとりの学びが世界を変える
教育を通じて日本を豊かにしたい

NPO法人青春基地・代表理事 石黒和己

Profile/Wako Ishiguro

早稲田塾33期生。慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業後、東京大学教育学研究科修士課程へ進学。SFC在学中に立ち上げたNPO法人青春基地では代表理事を務め、 公立高校を対象とした学校改革や中高生向けのウェブマガジンを制作。

FASIDを受講したくて早稲田塾に入学

私は、中学・高校時代をシュタイナー学園で過ごしました。この学校は、制服や試験が無い、ちょっと特殊な学校です。同級生は私を含めて7人で、卒業後すぐに大学入学したのは私だけ。当然のように、高校のクラスに一切の受験ムードはありませんでした。

そんな私が早稲田塾に入ったのは、高1のとき。目的は、未来発見プログラム「FASID国際開発プログラム(以下:FASID)」を受けるためでした。当時は国際協力に関心を持っていて、学校以外の場所で、学校以外の友人と、学科や受験に一切関わらない“学び”がしたいと考えていた私にとって、まさにピッタリのカリキュラム。今まで本の中や二次情報でしか得られなかった知識が、その分野の最先端で“メシを食っている”人から直接、鮮度の高い言葉で与えられる。疑問に思ったことは自分で調べたり、仮説を立てて、それを講師とディスカッションすることで、その分野の“暗黙知”が言語化され、自分の中の“道”が開ける。“専門性の中で学ぶ楽しみ”とはこういうことなのだと、FASIDを通じて知ることができました。


早稲田塾で得た「仲間」と「行動力」

FASIDを通じて、たくさんの仲間ができました。共に学び、授業後に夢中で話し合う時間は、本当に楽しかった。FASID終了後には、「国際協力の現場を知りたい」と受講メンバーの約1/3くらいが集まって学生団体を作り、助成金を得てカンボジアの孤児院への支援プログラムなどを実行しました。東日本大震災の際は、募金活動をして約100万円を集めました。「何かをしたい」と思ったときに一緒に動ける仲間は、早稲田塾生活で得た最大のものかもしれません。

また特別公開授業では、国際教養大学(当時)中嶋嶺雄先生やジャーナリストの蟹瀬誠一さんをはじめ、様々な分野のトップランナーの方々から、素晴らしい話をたくさん伺いました。今でも強く印象に残っているのは、糸井重里さんと動物保護活動をしている友森玲子さんの対談。「めっちゃ、カッコいい!」と心を動かされました。そうして毎週いろいろな方の授業を受けていくうちに、あるとき「講師の控室がある」ということに気付いたんです(笑)。講義でわからなかったことやもっと知りたいことは、直接訪ねて質問すればいい。

これは、新たな発見でした。「会いたい人には、自分から会いに行けばいいんだ!」と気付いてからは、話を聞きたいと思った人には自分でアポイントをとって、直接会いに行くようになりました。

AO・推薦入試対策での“バトル”を経て
思考が言語化された

高1のときからずっと、SFCのAO入試しか考えていませんでした。塾のスタッフからはかなり心配されましたが、私の思いはずっと変わらなかった。高3のAO・推薦入試対策での書類作成は、大変でしたね。毎日、講師やTA(担任助手)とバトル(笑)。当時の私は、「こうしたい」という思いはあっても、それを言語化できていなかった。もどかしくて、理解してもらいたいのに、伝わらない。そんな私の言葉が、講師やTAとのやりとりを通じて言語化され、再構築されていきました。AO・推薦入試対策を通じて、“思考の壁打ち”をしてもらったのだと思います。

また、「物事には“守破離”がある」と学んだのも、AO・推薦入試対策を通じてだと思います。 “型”のないオルタナティブな学校に通っていたので、型を守った上でそこから物事を発展させていく方法について教えてもらえたことは、まるで“闘う武器”を手に入れたようで、私にとって大きなことでした。

AO・推薦入試対策を担当していた講師は、私のことを120%全面的に信頼してくれて「とにかく頑張れ」とずっと応援してくれました。高校がまったく受験モードではない環境だったので、「受験を頑張れ」と言ってくれる人の存在が、とても心強かったことを覚えています。

フィリピンのフィールドワークで気付いた、
豊かになるための課題

高2のとき、国際協力の現場が見たいと考えてフィリピンへフィールドワークに行ったことが、私にとって大きな転機となりました。「国際協力を通じて人々を豊かにするのだ」と考えていたのに、現地の小さなコミュニティの中で協力しながら生活している人々の姿は、とても幸せそう。「もしこの家族が経済的に豊かになったら、きっとコミュニティを出て首都マニラに行ってしまうだろう。それは本当に、彼らにとって幸せなことなんだろうか?」と考えてしまったんです。そして私が考えていた国際協力は、経済的には成功したと言われている国が“正解”だと思っていることを押し付けているのではないか、と疑問を抱きました。一方で日本に住む私たちの現状はどうかと振り返ってみると、豊かな国で生きているはずなのに、若者は未来に期待が持てず不安感を抱えている。まずは日本の社会を変革して、若者の抱える問題を解決しよう! と思うようになりました。そして「日本の若者が精神的に豊かになるために必要なのは何か?」と考え、行き着いた答えが「教育」でした。

自分が自分らしく生きられる学校を作りたい

FASIDやAO・推薦入試対策で出会った仲間たちは、みんな自分の夢や目標を熱く語っていました。でも彼らは口をそろえて、「こういう話は学校ではできない」と言うんです。早稲田塾では自分の未来をつくるための努力を“カッコいい”と思ってもらえるけれど、学校ではそうじゃない。だったら、一人ひとりが自分の夢に向かって努力して、自分らしく人生を選択できる、そんなコミュニティとしての学校を作りたい。それが私の夢になりました。

私は今、東京大学の教育研究科に通いながら、NPO法人青春基地の代表理事を務めています。青春基地のキーワードは、「想定外の未来をつくる」。 現在は、公立高校のなかで『会いたかったあの人』に会うために、企画やインタビューを実施するための、授業を行なっています。早稲田塾時代の私のように、たくさんの大人に出会い、育ててもらう。 そんな体験を、今の高校生にもして欲しいと思っています。

たとえば東京都の公立高校では、3年間にわたった長期改革として進めており、教育プログラムの開発だけでなく、先生や関わる社会人・学生などかかわる全ての人の学びを設計しています。 まだ始まったばかりですが、モデル校として実証を重ね、プログラムを普及させていきたいと考えています。

何かがしたいけれど、何をしていいのかわからない。そんなときは、自分が直感的に良い、面白い、やりたい、と思うことを選択すればいい。自分の思いは、誰にも奪われない自分だけの宝物です。どうか大切にしてください。不安はあるかもしれませんが、自分が面白いと思った方向に、ときにはあちこち揺れながら、それでも前を向いて経験していくことが、きっと自分の未来を作ることにつながっていきます。

石黒和己

NPO法人青春基地・代表理事
NPO法人 青春基地
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