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GOOD PROFESSOR

横浜国立大学
大学院 国際社会科学研究院

近藤 絢子 准教授

こんどう・あやこ
2001年東京大経済学部卒。03年同大学院経済学研究科修士課程修了。09年コロンビア大学大学院経済学研究科博士課程修了。09年大阪大学社会経済研究所講師。11年法政大学経済学部国際経済学科准教授をへて、13年より現職。

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横浜国立大学の正門付近
横浜国立大経済学部新研究棟

気鋭の若年雇用「世代効果」研究者

――今週ご登壇ねがうのは、労働市場へ初めて参加するタイミングで「就職氷河期」を経験した「失われた世代」(Lost Generation)は就業率や年収が他の世代より低くなる傾向がある――とした、「世代効果」研究でつとに知られる横浜国立大学大学院国際社会科学研究院(学部は経済学部を担当)の近藤絢子准教授だ。まずは、その横浜国立大学経済学部のことからお聞きしていこう。

とにかく本学経済学部はカリキュラム選択の幅が広いんですね。必修科目の数が少なく、与えられた科目群のなかから必ず何単位以上とりなさいという形で履修する科目を選択できるので、自らがやりたい勉強ができます。学部の間の垣根も比較的低く、経済学部の学生でも公認会計士の資格などに興味がある人は経営学部の授業も受けられますし、逆に経営の学生も経済の授業も受講可能です。もちろん学部が違うとカリキュラム構成は別なんですが、純粋に興味があるからと別学部の授業を受ける学生もいます。

――このほかの特色としては……

経済学部にかぎらず大学全体として国際化に力を入れています。経済学部生の場合、だいたい10人に1人弱は短期留学をしているのでは。大学院生を中心に留学生も多くいて、とても国際的な環境です。

日常的な英会話を気軽に使ってみたいという人は、留学生センターを通じて、役所の事務手続きを手伝うようなアルバイトの募集などもあって、そういうものを活用すれば留学生とじかに触れあう機会も増やせます。日本にいながら英語も上達するし、視野も広がる一挙両得のチャンスかもしれません。留学生の多くがアジアやアフリカからも来ているので、欧米諸国に留学するのとはまた違った異文化交流の機会があると思いますよ。

――近藤先生の専門は労働経済学ということになる。

労働経済学(labor economics)というのは、その名のとおり労働に関係するいろいろなテーマについて経済学の研究手法を使って分析していく学問分野です。資本主義社会において大多数の人々は、自らの労働力を商品として売ってお金をもらって生活していますが、この商品としての労働力は、コンビニに売っている文房具やパンなどとは違う特殊な性質をもちます。

まずひとつ「持ち主と切り離せない」という性質があります。たとえば読み終えた漫画本を古本屋に売ってしまったら、所有権が移ってしまうので、その後その本がどこに売られてしまうのか元の持ち主にはわかりませんよね。ところが労働力の場合は、工場なりオフィスなりに本人が出かけて働かないといけません。

また生産能力についても、機械の場合はその性能スペックさえわかれば事前にどの程度の生産性かほぼわかりますが、生身の人間による労働力の場合、本人の能力や努力によって生産性が左右されてしまうので、生産性の高低が事前にわからないことが多いのです。どれだけ労働者の努力を引き出せるかを左右する一因が、企業(資本家)と労働者との契約の仕方ということになります。

雇用主側である企業は、なるべく労働者をサボらせないような形の契約の仕方を考え、いかに労働生産性を最大限に引き出すかを考えて、賃金や労働環境を設定しようとします。このように労働経済学では、労働力が普通の商品とは違うとところに着目しつつ、「人々は自らの効用を最大化するように行動するはずである」という経済学の基本的な考え方に基づいて、労働に関する様々な問題を考えていきます。

近藤研究室内の本棚のようす
横国キャンパス内のロゴモニュメント

ニッポン若年者雇用に希望はあるのか

――そもそも近藤先生が労働経済学をやろうと思ったキッカケについては……

わたし自身が、不景気だった2001年に大学を卒業したことが大きいと思います。就職難に苦しむ先輩や友人たちをみていると、おのずと雇用問題に興味がわいてきました。そのころはまだ「近ごろの若者はやる気がなくてブラブラと仕事もしない」「フリーターはわがままで好き放題に生きている」というよう論調が優勢で、でもそうではなくて「正規雇用の仕事に就きたくても仕事がない」のではないかと思いました。

そういうことを何とかして実証できないか――そのための研究手法として労働経済学がふさわしいと考えました。そして具体的なテーマとして浮かんできたのが、いわゆるフリーター(契約社員・派遣社員・アルバイト・パートタイマー等ふくむ和製英語「フリーランス・アルバイター」の略)など非正規雇用者についてなのですね。

――その具体的な研究内容としては……

たとえば新卒で就職活動に失敗すると、ふつうフリーターで働かざるを得ません。いったんフリーターになってしまうと、その後なかなか正社員になれない——こう聞くと、多くの人は「当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが、これを経済理論できちんと説明しようとすると結構たいへんなのです。いろいろ理由を考えた結果、この国ではとくに一度フリーターになってしまうと、同じ新卒で就活に成功した人と比べて能力が低いというレッテルを貼られてしまうからではないかという仮説にたどり着きました。

実際の労働者の能力は、高い人から低い人まで緩やかに分布しているはず。運良く正社員になれた人と運悪く非正規雇用にしかなれなかった人との境目のあたりでは、それぞれの能力はあまり大きくは違わないはずなのです。しかし雇用する企業側から見ると、その労働者がどれだけ働く能力があるかを判断する基準がないので、なんとなく「フリーターになるような人は働く能力が低いのではないか」ということに落ち着いてしまう。

そうして境目あたりでギリギリ非正規になってしまった人たちの能力が実際よりもすごく下に見られてしまって、正規の労働市場に戻って来られないのではないか――そういった理論的な仮説が成り立つわけです。

――近藤先生の研究手法として、理論仮説が本当にそうなのかデータを使って実証分析をすることにあるという。先述の「フリーター就職難」説についての実証結果はどのようなものだったのだろうか?

こうした実証分析をするのは意外に大変なのです。なぜかというと、そのフリーターの人が「能力が低そう」というレッテルを貼られただけなのか、本当に能力が低いのか、その判別が実にむずかしい。雇い主でもあいまいなものは研究者である私たちにもわかりづらく、それぞれの労働者の能力そのものをデータとして手に入れることは出来ないからです。それでも元々から安定的な雇用に不向きな人なのか、それとも最初の就活で運悪く失敗したことが影響しただけなのか、そのあたりを何とかして見極めないといけません。

そこで考え付いたのが、景気が悪かったために多くの新卒者の就活がうまくいかなかったとして、不景気自体は本人の能力とは関係ないという点です。つまり、たまたま運悪く景気が悪い年に当たってしまった人は、フリーターなどになりやすく、しかも一度なると抜け出しにくい――そういう仮説を立てて、この仮説が実証できるようなデータを手に入れて分析していくことにします。こうした分析の結果、不景気のせいでフリーターになった人は実際になかなか正規雇用に移れなかったということがわかりました。

横浜国立大学キャンパス点描
横浜国立大学キャンパス点描

統計データで浮き彫りになる労働問題

――近藤先生の最近の研究内容については……

いま力を入れているのが高齢者の雇用延長の問題です。13年には改正高年齢者雇用安定法が施行されて、希望者全員に対する65歳までの継続雇用制度導入が企業に義務付けられました。まず、この法改正で本当に65歳まで働く人は増えたのかという点を実証したところ、どうやら増えたらしいという結果でした。これを踏まえた今後の研究テーマとしては、65歳まで労働者を雇うために、あらたに雇う人を減らしているのか、あるいは代わりにだれかを解雇しているのか――そうしたことを調べようと思っています。

よく言われる「若者の雇用を犠牲にしている」という説がありますが、それが正しいという証拠はありません。データを見ている限り、高齢者の雇用を増やす代わりに若者の雇用を減らしているという感じには見えない。それぞれの企業が何人雇いましたとか、今年何人辞めましたという統計があるのですが、それらをみる限り、60歳くらいの雇用者が多めの企業がとくに若者世代の人を減らしているわけでは必ずしもない。

いくつか可能性を提示して、それぞれどの程度データと整合的なのかを逐一調べていきます。現時点での可能性としては、若い正社員ではなく、パートタイム労働者を減らして「再雇用」社員と置き換えていることがあり得ます。再雇用制度の下では、定年となった正規退職者はそれまでとは違う条件で労働契約をし直します。ですので仮に主婦のパートタイマーと同じような雇用条件になるとしたら、現パートの人たちを減らして、代わりに定年退職後の「再雇用」社員(その大半は男性)に置き換えている可能性があるのです。ただし、この点はまだ分析を進めている最中ですので確実にそうだとは言えません。

――このほかに興味がある研究テーマについては……

いま興味あるのは「労働移動」の問題ですね。これは、労働力の企業間や産業間や職業間の移動のこと。日本政府も「失業なき労働移動」ということで、国の成長戦略の主要テーマとして掲げている政策でもあります。心情として、転職をする時はそれまでと違う業種に転職しにくかったりしますよね。しかし国全体の労働力分配を考えると、雇用が減っている産業分野から雇用が増えている産業へと移ってもらわないと困ります。

産業や職種の違う仕事に移りにくい——ということは実感としては理解できるし、データの上でも数が少ないことはわかっているのですが、その原因については究明できていない面があるのです。そこで実際に転職を経験した人たちを対象にした統計調査を利用するなどして、移る前の産業と移ったあとの産業との特徴などの比較分析などをやっています。

――近藤先生の学部における講義内容については……

わたしは財政学(public finance)を担当しています。政府の役割とか税金を投入することによってどういうコストがかかるのか。税金をかけることによって様々な社会的ゆがみが起こってしまいますが、どこに税金をかけると果たしてどんなゆがみが出てくるのか。使った税金が本当に役に立っているのか。こうしたことを扱う経済理論や、データを集めて検証する方法などについて教えています。

――最後に、近藤先生のゼミの内容については……

わたしは本学に移ってきたばかりで、いまは3年次生しかゼミに在籍しておりません。来年度の卒業論文に向けては、その研究テーマについて本人の希望をもとにアドバイスをしたり、卒論を書くために必要な知識を勉強してもらったりしています。

労働経済学分野で論文を執筆するためには、いまやデータ分析が必須となります。高校や教養科目で統計学の基本理論を習う機会はたくさんありますが、実際に自らの手を動かしてデータ分析する機会というのは意外とありません。そこで、実際に論文を書こうする際には、どこからデータを集めて、どうやって収集したデータを分析していくのか――そのようなことを、パソコンを使って実習するなどしています。

こんな学生に来てほしい

社会全体の仕組みに興味がある人に来てほしいですね。世の中がどうしてこうなっているのか、そういう素朴な疑問をもてる人には経済学がすごく向いていると思いますよ。

あと現実的な問題として、ふつう経済学部は文系とされますが、経済学では数学を多用する傾向にあるので、ある程度は数学の勉強をしてきて欲しいなと思います。中学や高校で習うことをきちんと理解していれば難しいことまでできる必要などありません。たとえば、横浜国立大学は入試科目に数学があるので、入試を突破できれば十分でしょう。経済に限らず、現代の社会科学ではある程度の数学は避けて通れないので、文系だからと手を抜かないでほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。