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GOOD PROFESSOR

東洋大学
経済学部 総合政策学科

川瀬 晃弘 准教授

かわせ・あきひろ
1999年法政大学経済学部卒業。2002年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2005年大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。2007年博士(経済学)。法政大学大学院エイジング総合研究所研究員、東洋大学経済学部講師などを経て、2009年04月より現職。2008年に日本計画行政学会論文賞を受賞。著書に『日本の医療保険制度と財政問題』(三菱経済研究所)、編書に『官僚行動の公共選択分析』(勁草書房)など。

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2014年夏合宿のゼミ生集合写真

国の政策立案過程を知る若手「財政学」研究者

――今週は、財政学・公共経済学の若手研究者であり、ゼミで行うプレゼンテーションやグループディスカッションが評判の東洋大学経済学部総合政策学科の川瀬晃弘准教授に登場ねがう。まずは、一般的な経済学とやや趣向を異にする、先生の専門分野について教えていただいた。

私の研究分野は財政学とか公共経済学とか呼ばれている分野です。経済学はマーケットを相手にするものと思われがちですが、実はそうではない分野も少なくありません。市場だけではうまくいかない部分に、政府や公共部門がどう介入していくのか、また介入した効果がどうなのかを、私は研究しています。

少し具体的に話をしましょう。

例えば喫煙は当人にとっては嗜好の問題です。しかし副流煙や医療費などを通じて他の人たちにも影響を及ぼします。そのためプラス・マイナスを考慮して行動する必要があるのです。だからこそ公的に、どう介入していけばいいのかを考える必要がでてくるのです。そこにたばこ税といったアプローチがでてきます。同じような図式は、混雑や公害などを引き起こす車とガソリン税の関係にも見られます。最近は子どもなど、自分で意思決定ができない存在に対する公的な介入についても研究しています。

「公共選択学会学生の集い」にて

目指すのは研究成果を社会に還元すること

――ワクチンの接種についても先生の研究分野であり、日本はワクチン接種の後進国だとも教えてくれた。

ワクチンを開発することに関して、日本はかなり進んでいます。ところが接種に関してはかなり遅れているのです。定期接種のワクチンについては、国なり自治体で費用も補助され経済的負担の少ない形で打つことができます。副作用(副反応)がでても補償されます。しかし任意接種ワクチンは費用なども基本的には自己負担で行います。インフルエンザの任意接種はよく知られていますね。

米国では国などが接種を推奨しているワクチンの種類が日本よりも豊富です。日本の定期接種のワクチンの数は、WHOの勧告と比べてもかなり限られています。その要因の一つと考えられるのが、接種したワクチンの副反応に対する補償問題です。将来的な訴訟の可能性によって、後ろ向きの意見がでやすくなるのでしょう。ここ数年でいくつかのワクチンが定期接種に組み込まれ、先進国とのギャップは埋まりつつありますが、まだまだといえるでしょう。

ワクチン接種の問題でもそうですが、私の研究分野は、さまざまなアクターが登場します。行政を取り仕切る官僚組織や法律を成立させる政治家、あるいは政策が実行されるまでに大きな影響を及ぼす圧力団体など。一筋縄ではいきません。経済学部経済学科で教えるような純粋な理論だけではないのです。政策に応用することをイメージしながら、どうしたら社会に研究成果を還元できるかを常に意識しています。

――では、どうして先生は、この分野の研究をしようと思ったのだろうか?

学部時代、当初は開発経済を勉強しようと思っていました。将来は開発援助などをしたいと思っていたので。ところがゼミを選ぶときに、『AERA Mook』に掲載されていた黒川和美先生の記事を読み、ゼミ見学に行ったのです。黒川先生の話が面白くて決めました。そこで学んだのが公共経済学や公共選択論と呼ばれる分野だったのです。政治家や官僚が何を選択して、結果としてどうなったのかを、黒川先生は研究しておられました。先生は国の審議会に出席したりしていましたから、毎週、永田町や霞ヶ関で何が起きているのかを聞けたのです。それも刺激的でした。

――川瀬先生が意識している研究成果の社会還元については……。

当時、阪大には財政学を専門とする教員が4人(本間正明先生・山田雅俊先生・齊藤愼先生・跡田直澄先生)もいました。私は財政の実証研究を勉強したかったので跡田先生と齊藤先生に師事したわけですが、後期課程に進学する頃には本間先生は経済財政諮問会議の民間議員でした。そのため諮問会議に出す資料作成のお手伝いなどをする中で、政策立案過程を垣間見る機会に恵まれました。

そのとき感じたのは、アカデミックな研究と実際の政策の「距離」でした。政策を立案するとき、こうした研究成果がでているから、こんな政策が望ましいのではないかといった提案が、なかなか出てこないのです。もちろん実際に選ばれる政策と研究は別物だとは思います。ただ、研究成果を基に議論することが大切ではないかと考えています。

例えば、消費税率引き上げの議論で、生活必需品の税率を下げる「軽減税率」が議論にのぼりました。ただ、この制度は望ましくないと、多くの財政学者が主張していました。何を非課税にするのかで混乱するからです。海外の事例では、喫茶店でドーナツを3つ購入して店内で食べると外食なので課税、10個を自宅に持って帰って食べれば食料品なので非課税といった例がありました。プレーンのクッキーは非課税だけれど、チョコレートクッキーは贅沢だから課税といった例も。このようなわけのわからないことが起こる上に、利権争いの元にもなります。ところが、そうした議論もなく選挙公約に掲げられてしまうのです。

私は30代なので、まだまだ基礎固めの時期です。アカデミックな批判にも耐えうる研究を蓄積し、将来的にそうした研究が政策立案などにつながればと思っています。

先生の研究室がある白山キャンパスの2号館

問題の発見から解決まで考えるゼミ

――川瀬先生のゼミの内容については……

プレゼンテーションやディスカッションを重視しています。

プレゼンテーションやディスカッションをするためには、きちんと準備が必要になります。学生自身が興味のある社会問題を見つけてきて、何が問題なのかを解説し、それをどうやって解決したらいいかも提案してもらいます。卒業後に経済学の知識を活用する人は少数でしょう。だからこそ経済学的な考え方を身につけ、実社会でも役立ててほしいのです。

仕事をする上では、何が問題であり、どうクリアしていくのかを、自分で考えなければいけません。誰かが教えてくれるわけではありません。もちろん答えが複数ある場合もあるでしょうし、未知の問題にぶつかるかもしれません。そのときに一人で解決するばかりではなく、誰を巻き込めば解決できるのかも含めて考えられるようになってもらいたいのです。

――ゼミでの発表の仕方については……

うちのゼミ生は、かなりの時間をゼミに費やしています。パソコン室や図書館で、よくグループワークをしています。

まず年2回、春と夏に合宿があります。この合宿では、4〜5人ぐらいでグループを組み、休暇中に準備してきたことを合宿で発表してもらいます。それ以外に個人のプレゼンテーションが年2回あり、さらにグループでの単発の発表があります。他大学生との討論会も行います。

ゼミ生が研究するテーマは自由ですが、経済学で分析できる内容、つまり手法で縛っています。

統計的な方法はわりと重視しています。データを集めて統計分析を行うことで、男女で違いがあるかを提示したり、政策の効果があったかどうかを検討するとかです。

献血をテーマに選んだ学生もいました。日本では高齢化と人口減少によって、献血する人の比率が変わらないと、どんどん血が不足していく。これは「血液」という希少な資源をどう配分していくのかという経済学の基本的な問題に重なります。しかも売血まで話を広げることで、過剰な献血、いわば体を切り刻んで生計を立てるのがいいのかといった哲学的な問題にまで発展しました。また、心理学と経済学の融合した行動経済学で卒論を書いた学生もいます。自分をどれだけ許容できるのかという「自己肯定感」と経済パフォーマンスの関係について研究しました。

ゼミ生たちは実に多様なテーマを選んできますから、私も学生からいい刺激をもらっていますね。

――ゼミでは読書会も

ゼミでは1ヵ月に2回、読書会を開いています。1回は小説だろうが、ノンフィクションだろうが、就活の本でも、何でもいい自由図書。もう1回は、新書などで比較的簡単に読めそうな経済学に関連する課題図書を読みます。どちらも要約と感想を書いてゼミ出席者に配り、みんなで議論するのです。

自由図書の会は、時間をオーバーするぐらい盛り上がりますね。何を感じたとか、自分も読んだことがあるとか、感想の違いが明らかになって話が盛り上がるのです。

この読書会を通じて、ゼミ生同士の理解が深まり、グループワークの質も高めてくれればと考えています。また学生がいろんな書籍に興味を持ってもらえるよう、私の部屋の入り口近くの棚には一般書を並べてあります。そうすると「先生はこんな本を読んでいるんですね」と話題にもなりますので。

――学生の成長については……

当たり前のことですが、コツコツ努力した学生は、すごく成長しています。ゼミは2年生からですので、学生の3年間の成長度合いを実感します。わかりやすいのは、プレゼンテーションですね。入学当初から話し方のうまい学生はいます。一方で原稿を読んでいるだけなのに心配になる学生もいます。ところが2年次に心配した学生でも、努力した人は努力しなかった学生を追い抜いていきます。論理の組み立て方などもハッキリと差が出てきます。

近年、さまざまな情報に対して批判的な思考を働かせて分析する「クリティカル・シンキング」が話題になっています。これを身につけるのは、なかなか時間がかかります。実際、2年生の発表だと、スライドの2枚目、3枚目あたりで質問したくなることが多々あります。どうして、そんな方向に考えたのかがわからないからです。しかし勉強する中で学生は成長し、考え方を身につけると、成長の速度も上がっていきます。「すぐに役に立つことは、すぐに役立たなくなるから、基礎となる土台をしっかり作りなさい」と、よく学生に話しています。今役立つ知識は来年には役立たないかもしれませんが、努力して身につけた方法論は長期にわたって役立つと思うのです。

OG・OBもよく遊びに来てくれますが、ゼミでの経験が仕事でも役立っているという話は聞きますね。うちは就職活動対策ゼミではないのですが、就職も決まりやすい傾向にはあるようです。

――総合政策学科の特徴とは……

総合政策学科のスタッフは純粋にアカデミックな人たちだけではありません。国家の政策だけではなくて、地方自治体や企業で実務に携わってきた人も多いので、経済学を実社会でどうやって応用するかについても学べると思います。

こんな学生にきてほしい

まずは、やる気です。知識や学力は後からついてくるのでどうでもよくて、「4年までやり通すぞ」と思う学生に入ってきてもらいたい。学生時代に何かに打ち込みたいと思っている学生。それから社会問題に興味を持てることも重要でしょう。新聞やテレビはもちろん、日常的に起こっている問題もたくさんあると思うので、そこに関心を持って観察できるのかが重要だと思っています。たとえ不本意な選択だったとしても、学生生活を通して自信をつけて卒業してもらいたいです。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。