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GOOD PROFESSOR

東京工業大学
火山流体研究センター (理工学研究科化学専攻 兼 地球惑星科学専攻)

野上 健治 教授

のがみ・けんじ

岡山県出身。東京工業大学教授、理学博士。岡山大学理学部、岡山大学大学院理学研究科修士課程、東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程を修了し、東工大の草津白根火山観測所(現火山流体研究センター)助手に。助教授、教授。間に東京大学地震研究所客員助教授、京都大学防災研究所非常勤講師。火山の化学的観測と分析、とくに水蒸気爆発予知、海底火山の専門家として知られる。論文多数。火山噴火予知連絡会の委員の1人。

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草津白根山にある火山流体研究センター。
白根山は水蒸気爆発だけが連続的に起こり
続ける活火山だ
大岡山キャンパス正門、構内 1年のうち半年、
大岡山キャンパスで地球化学の講義を行う

火山の化学的総合診断と海底火山のトップランナー

――昨年9月、長野と岐阜の県境にある御嶽山が噴火。山頂付近にいた登山客が突然の噴火に巻き込まれ、死者不明計63人の被害者を出した。この噴火が水蒸気噴火。前兆現象が微弱で、いきなり起こる危ない噴火だ。

今回紹介する野上教授は、火山噴火予知の専門家で、海底火山の専門家でもある。西之島の海底火山の研究者としてコメントするのをテレビで見た人もいるかもしれない。

僕の研究は大学の研究者としてはちょっと変わっているかもしれません。噴火予知のために群馬県にある観測所でずっと草津白根山を観測しています。噴火予知の実用化を目指しているわけです。

火山の観測手法には3つあって、1つめが「物理の観測」。地震波動や地盤変動、磁性変化など物理的な変化を観測する。最も歴史が古く、この方法を採る研究者が一番多い。次が「地質観測」。岩石学や地質学、鉱物学でもあり、火山は研究対象の1つです。僕は3番目の「化学的観測」という手法です。研究者は国内で僕のほかに3人。海外でも少数です。

恩師小坂教授から引き継いで10年以上観測を
続けてきた西之島
火山噴火予知連絡会が定めた要観察の火山47
(気象庁サイトより)。
火山を継続観察している大学、研究者は12人。
イタリアは600人

「噴火」は火山活動のごく一部

――どうして火山に化学の観測法が必要なのでしょうか。

「火山活動=噴火」だと思うかもしれませんが、実はそうではないんです。山頂からガスが出るのも火山活動。温泉もそうです。僕らの観測する白根山の周りの草津温泉ではいろんな温泉が出ていますが、これも全部火山活動。「噴火」は火山活動のごく一部なんですね。

常時放出している物質と熱エネルギーが一時高まるのが噴火だと僕は考えます。だから火山が出すいろんな物質を計器で測り続けて変化を捉えようとしているのです。

噴気や温泉からサンプルをとって化学的に調べることで、連続的な火山活動の動きを見ることができるんですね。

――1つひとつ火山はまったくタイプが違いますか。

違います。その火山がどういう噴火を起こすのかはだいたい知られていて、たとえば僕らの草津白根山はマグマ爆発には移行せずにいつも水蒸気爆発だけ。桜島は水蒸気爆発はなしでずっとマグマ噴火を起こし続けています。

ただし水蒸気爆発では、噴火による火口周辺の破壊と、群発地震、地盤変動がほとんど同時に起こるので動態の把握が難しい。

変化がわからないマグマ噴火はまずないけれど、水蒸気爆発は変化がわからないもののほうが多い。だから予知が難しい。

――日本の噴火予知は、短期的な噴火ならほぼできるようになっていると聞きましたが。

ふだんちゃんと調べられている火山ならば、かなり詳しくわかるようになってきました。

たとえば鹿児島の桜島は、物理の方法を使って京都大学の井口正人先生が徹底的に調べています。化学の方法でも物理の方法とほぼ同時に噴火を予測することができます。でも、僕らのような化学的な観測が得意とするのは、さっきわからないといった水蒸気噴火の予知のほうです。化学的観測法が「おかしなことがおこっている」という変化をつかむのが時間的に早いからです。

水蒸気噴火はマグマ本体が関与しない爆発で、マグマから出たガスが火山の浅いところにある地下水の帯水層に入って、そこで気体が膨張し、圧力に耐えかねて爆発するわけです。バランスが取れれば爆発しないが、入る量が増え、出る量が少なければ破綻する。このときは噴火の原動力になる火山ガスの組成変化の観測が有効です。

僕たちの化学観測法の長所は、ものすごく移動速度が速く、化学反応自体も速い火山ガスを測ることで微弱な変化を刻々と捉えられること。観測がちゃんとできれば、わかることが非常に多いのです。ただし、やっている人がすごく少なく、全国を完全に網羅することは非常に難しい。

1976年3月にあった白根山の噴火は、事前にもう火山ガスの化学組成が変化していましたので、わかっていた。直前予知に成功しています。1990年の雲仙普賢岳の噴火も3ヶ月前に火山ガスの組成変化が出ていて、化学の方法で直前予知に成功しています。

水蒸気爆発からマグマ爆発に移行するケースはかなり多いですが、いかずにとまることも多い。逆にマグマ噴火から水蒸気爆発にはまず移行しません。最初の水蒸気爆発さえ予知できて人が避難した後なら、マグマ爆発が起こっても関係ない。逆に水蒸気爆発を当てられないと被害がでることが多くなる。

また水蒸気爆発を起こすような山は人を集めるような構造になってるんですよ。

箱根の大涌谷を立ち入り禁止にしましたが、それはあそこが人を集める場所だからです。ガスが出ている景観を見て黒卵を食べる。火山活動はそれだけで売り物になるんですね。

草津もそうです。草津の湯釜はきれいなエメラルドグリーンの火山湖なのでみんな見に行きますが、底は噴火口です。昨年爆発した御岳もそうです。山頂火口に集まっていて爆発したでしょう。山の上の休憩所近くが火口なわけです。そこでお昼を食べようと人が集まって事故に遭ったわけです。

今も現役のボーイスカウト(指導者)

総合的化学観測と海底火山観測でオンリー1に

僕の恩師、小坂丈予先生(おさかじょうよ・東京工業大学名誉教授)から学んだ研究手法——多種のサンプルを自分でとってきて観測する——を行う人は日本では僕1人のようです。イタリアにサンプルを測る人が少しいるようですが、ガスなどの特定の1分野で複数の分野はとらないようです。専門化しているんですね。

あともう1つ、化学観測が得意とするのが、海底火山の噴火状況の把握です。僕は小坂先生から引き継いでもう10年、西之島の状況を海上保安庁とともに観測を続けてきたんですが、海底火山で何が起きて今どんなフェーズにあるかを判断できる人はヨーロッパにもいないようです。

2011年秋にスペイン領のカナリア諸島のエルイエロ島沖10キロで海底火山が大噴火して、一時新島ができ、全島の住民避難かという事態になりました。

スペインの研究者の友人がインターネット上にほぼリアルタイムで写真とデータを上げていたので、僕は海底で起こっていることを伝えた。すると2012年の正月に現地の研究所INVOLCANから「すぐ来い」と呼ばれたのですが、研究者にも話が通じなくて結局そこで2時間講義しました。向こうの自治政府の関係大臣にも僕が現状説明して防災上の注意をした。そのとき、海底火山はヨーロッパでも誰もわからないらしいぞ、と知ったんです。

今日本の海底火山なら100%僕のところに来ます。海底火山の観測は小坂先生が最初に手がけて、2人で完成させました。

――危ない火山は、必ず大学の研究者が見ているのでしょうか。

そんなことはまったくなく、研究者が見ている火山はごく限られます。今現在観測が必要な47火山には気象庁がモニターをすえて連続観測しています。大学は火山の研究者がいるところが研究観測をするだけ。それも基礎研究が主で、噴火予知のために火山を継続的に見ているのは全国の大学におよそ12人。

気象庁は機械でデータがとれる物理観測(地震計など)に重点を置いてきたんです。それでは水蒸気爆発の予知は難しいですから「化学の観測法も取り入れる」とは言っていますがなかなか難しい。人がいないからです。

――こんなに噴火が活発化しているのに?

そう。化学観測に限らず、日本には噴火予知学者のポストが削られて今大問題になっているんです。ドクターまで取っても研究者への道が非常に厳しいという現実があります。それを生かす道を用意できなくなっているのが現状です。何とかしなければなりません。

4年後にかなりの研究者がリタイアして、火山防災の研究者は半減します。4年でどれだけ研究者を残せるか。

僕は「もうすぐ火山活動活発化のリスク評価ができなくなります」と産業界に訴えています。いろんなところで講演するときに、直接聴衆や、講師に招いてくださった方に訴える。すると「それはまずい」「少しずつでも何とかしよう」という反応が返ります。手ごたえがあります。

こんな学生に来てほしい

火山観測に適性があるのは観察力がある人です。子どものころにいろんなことを経験している人のほうが強い。いろんなことをやって、いろんな経験をしている人には本当の基礎学力があります。あとは野外が好きな人。それと何でもいい、何かがとても好きなオタクですね。

最近は卒業生で研究者になる人は少ないですが、面白い仕事をしている人は多いですね。マスターを出て石油メジャーに行き、石油精製工場の設計をしている人。海上保安庁に行き、様々な調査観測を担当している人。学生の売り手市場ではあります。ただし同じ東工大だったら他の分野のほうが就職にはいいでしょう。うちの研究室にはちょっと変わった人しか来ませんが、変わった人は大歓迎です。

僕は、うちの大学は「真のオタク大学を目指すべきだ」と同僚に言っているんです。僕は「観測オタク」というわけです。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。