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GOOD PROFESSOR

桜美林大学
リベラルアーツ学群

芳沢光雄 教授(学長特別補佐)

よしざわ・みつお

1953年東京生まれ。小学校から高校まで慶應義塾で学び、75年学習院大学理学部数学科卒。80年理学博士(学習院大学における数学での最初の博士号取得者)。以後、慶應義塾大学商学部助教授・城西大学理学部教授・東京理科大学理学部(理学研究科)教授をへて、07年より現職(同志社大学理工学部数理システム学科講師も兼任)。これまで国家公務員採用1種試験専門委員(判断・数的推理分野)・日本数学会評議員・日本数学教育学会理事・日本学術会議第4部数学研究連絡委員会委員・「教科書の改善・充実に関する研究」専門家会議委員(文部科学省委嘱)などを歴任。

おもな著作に『新体系中学数学の教科書(上・下)』(講談社ブルーバックス)『新体系高校数学の教科書(上・下)』(同)『群論入門』(同)『数学的思考法』(講談社現代新書)『算数・数学が得意になる本』(同)『反「ゆとり教育」奮戦記』(講談社)『算数が好きになる本』(同)『論理的に考え、書く力』(光文社新書)『置換群から学ぶ組合せ構造』(日本評論社)などがある。

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桜美林大キャンパスの正門付近。送迎バスは
昼間ほぼ10分おきに運行
芳沢研究室のある「理化学館」建物

ニッポン文系数学観に革命を起こしたい

――桜美林大学リベラルアーツ学群には「この人あり」とも言うべき名物教授にして学長特別補佐の先生がいる。数学教育に並々ならぬ情熱を傾けるあの先生、『新体系高校数学の教科書』などで現役高校生にもおなじみの芳沢光雄先生である。

前職の東京理科大学時代から大人気教授として知られる芳沢先生だが、07年度「リベラルアーツ学群」が開設と同時に桜美林大学リベラルアーツ学群に転籍し、自然科学分野における数学教育全体の責任者として活躍。現代の「数学の伝道師」たる芳沢先生――。そのリベラルかつアカデミックな活躍の場がさらに広がりつづける。桜美林大学に来て8年目の今年度からは、大学学長特別補佐(広報担当)として全国を飛び回わる日々。オープンキャンパスには全日参加して講演するという。

なによりも桜美林大学リベラルアーツ学群というのは、数学をも基礎に置いた本来のリベラルアーツ教育に立ち戻り、学問分野の壁を越えて複雑化した問題の本質に迫ることを目標にしています。かつての国際学部・経済学部・文学部を廃止して、そのうえ10人以上の数学や理科の専任教員をそろえました。文系の学生にも理数科目の素養を学ばせる一方で、理数が得意な人向けにもきちんとコースを設け、文・理を越えた幅広い教養とともに数学をふくめた自然科学分野も1年生から4年生の卒業研究ゼミナールまで楽しく学べます。一般教養的なリベラルアーツ諸分野を学びながら、最後に数学を専門的に学んで卒業しようというコースも用意されています。

ちなみにリベラルアーツ学群では、英語・中国語・日本語日本文学・日本語教育・言語学・コミュニケーション学・英米文学・中国文学・現代世界文学・キリスト教学・宗教学・哲学・倫理学・文化人類学・アメリカ地域研究・アジア地域研究・日本地域研究・歴史学・国際関係・国際協力・社会学・心理学・教育学(教職教育)・国際経済・ビジネスエコノミクス・公共政策・数学・物理学・化学・生物学・地球科学・情報科学・環境学・メディア(ジャーナリズム)・博物館学・日本地域研究――といった各プログラムメジャーから自由に文理融合的な形で幅ひろく勉強していくなかで、自ら深めていけるコースを選ぶことができます。

――じっさいリベラルアーツ学群のなかで芳沢先生は、高校数学を別視点から学び直す「数学概論」を中心に、就職活動にも利する「数の基礎理解」、リベラルアーツ色の濃い「自然科学基礎(数学の発想)」「中等数学科教育法Ⅰ~IV」、先生本来の専門的な科目である「離散数学」、さらに「専攻演習(ゼミ)」「卒業研究」などを担当。これら前期後期にわたり週8コマにおよぶ講義のほかに、今年度からさらに学長特別補佐業務が加わったわけで、まさに「1年365日で休む日はほぼない」という超人的なスケジュールをこなす日々が続く。

わたしが着任時における数学概論の受講者は10人前後だったものが、現在は150人以上で教室がほぼ満杯になっております。また教職課程も用意されていて、数学分野はわたしが教科教育法など含めて全責任をもってやっています。本学群で数学を学ぶことは、よくある理学部数学科のようなゴリゴリとも違いますし、教育学部数学科のような教育理念優先ということでもありません。

わたしが担当する数学の専攻演習ゼミ(3年次と4年次=卒業研究は必須ではない=各10人定員)でも、数学のほか社会学・国際関係学・日本語日本文学などを主専攻とする学生が実際多く集まっています。これは「同じゼミに数学の教員志望もいれば、国語の教員志望者もいるところは他にあるのか」というほどに珍しいと思いませんか。

――そう笑顔で語る芳沢先生の専門はといえば「置換群論」と「数学教育」ということになる。90年代半ばまでは置換群論についての研究が中心だったが、最近は数学教育についての研究や発言を続けている。

置換群論というのは、たとえば4×4のマス目のなかに1~15のコマを順番に移動させていく『15ゲーム』やルービックキューブ・アミダくじなどを具体例として、それらを数学的に抽象化させた概念のことだと言えます。

――この分野に関心をもたせるために芳沢先生は球体上の10色を合わせるゲーム「マジック10」を自ら考案・制作(世にあるのはそのひとつだけ)し、「偶置換・奇置換の一意性」という大学初年級の定理をアミダくじ的な別証明も与えている。さらに今年5月には最新刊専門書として「高校生にも十分に理解できるほど丁寧に書いたつもり」という『群論入門—対称性をはかる数学』を書き上げるなど、芳沢先生自身における専門分野の研究も精力的に日々進めているのだ。

芳沢研究室前にはこんな案内掲示も
「縦書き掛け算」における2桁と3桁の
仕組みの説明模式図

「数学無用論」がまかり通る教育現状に警鐘

――ところで大学生(そして小・中・高校生)の学力不足問題が巷でかまびすしいニッポンの教育状況において、芳沢先生が今いちばん力を入れているのは数学教育についての研究だ。

そもそも明治以来の日本教育制度における最大の問題点は各教科がタテ割りになっていることです。とくに文系領域において幅をきかせる数学不要論は学ぶ者の視野を狭めています。これは、今後の日本社会のあり方にとってもマイナスだと思われます。元々わたしは純粋数学の群論や組み合わせ論の研究者として一生やっていくつもりでしたし、まさか数学教育に首を突っ込むなんて夢にも思っていませんでした。しかし次第に「数学不要論」が幅をきかすようになり、どんどん「ゆとり化」することに危機を感じて数学教育に関する研究に軸足を置くようになっていったのです。

――また、こうした隘路からの打開策のひとつとして、「3」に着目する数学学習を独自に提唱もしてきた。

なぜ『3』に着目すべきかといいますと、たとえば小学校では2つの数字による計算ばかりを教えていますが、3つ以上の数字を使った計算で――3+2×4=20――などと誤ってしまう生徒は小4生より小6生のほうが多く4割にも達する、という国立教育政策研究所の調査結果も発表されたことがあります。また、高校2年生における積分の計算では2次の多項式までしか扱わないことになっています。しかし3次(以上)の多項式こそが面積などを求める積分計算の醍醐味なのです。さらには図形の学習も3次元の空間図形こそが本当は大切なのです。このほかドミノ倒しやアミダくじの規則等を子どもたちに説明するにも「2」個や「2」本の縦線だけでは不十分で、「2」を「3」にするだけでずっと理解しやすくなります。女性が好きな指輪の3連リングも「3」以上だからこそ意味をもつのです。

――このほか現下の数学(算数)教育の問題点をいくつも指摘し、それらが数学嫌いをつくり出してもいると訴えつづけてきた。そして、その対策として子どもたちに数学の真の面白さを教えるべく、全国各地の教員研修会での講師として数学教育関係者に改善策を訴えつづける「数学伝道者」としての役目も手弁当で自ら担ってきた。なかでも算数における3桁以上の掛け算学習が教えられなくなった弊害が「ゆとり教育」最大のポイントだと強調する。

ゆとり教育下の指導要領改訂ではついに2桁同士の掛け算しか教えなくなってしまいました。とくに縦書き掛け算のドミノ的な仕組みを理解させるためには3桁同士の掛け算に習熟させることが必須なのです(【別図】参照)。

――ますます国際化・デジタル化していく21世紀は、暗記力よりも論理力を重視する教育が大切などと言われて久しい。基本となる国語や英語をはじめ他の科目においても、結果や結論よりプロセスを大切にしなくては――芳沢先生はそう力説する。しかし、相変わらず遅々として前に進まないニッポン教育行政を批判するだけの芳沢先生ではない。

わたしの縦書き掛け算についての見解は当時だれにも相手にされませんでした。しかし、その後の国立教育政策研究所の成績調査報告でも正しさが事実上証明され、文部科学省から「教科書の改善・充実に関する研究」専門家会議委員に任命されて08年度最終答申に盛り込み、現指導要領に部分的に反映することにもつながりました。

――もうひとつ昨今の数学試験におけるマークシート形式出題にも根本的な欠陥があるとも語る。

そもそも数学とは、いくつかの公理系からなる世界で「何が成り立ち、何が成り立たないか」を厳密に証明していく学問です。その一般論を積み重ねていくプロセスこそが重要なのですが、一般論を展開していく良問をマークシート形式で出題すると、具体的な数字を代入すると答えがしばしばバレてしまいます。要するに、ちゃんと問題を解けなくても正解だけは見つかってしまうという欠陥があります。答えを当てさえすれば良いという数学のマークシート式問題は、そもそも数学の問題と言いがたいものなのです。何年か前に東北大の理学部入試では、1次のセンター試験の数学と2次筆記試験の数学との結果に相関関係がほとんどないという発表があったほどです。

この弊害は意外なほどに根深く、大学数学科の学生でも本来の数学的論証とマークシートとの違いを理解できないことも多々あるということにつながっています。ちなみに桜美林大学リベラルアーツ学群では、2013年度から一般入試における数学問題で全問記述式を導入しました。これは大学受験界の一大衝撃ともなり、中央教育審議会が昨年末に大学入試改革について答申した大学入試センター試験の廃止や記述式問題の導入にも一部影響を与えたのかも知れません。

――とはいえ受験科目でもっとも点差が開く「嫌みな教科」として、また「サイン・コサインなんになる」とばかりに「実社会で役に立たない学問」として、数学(算数)に対する困ったイメージが定着して久しい。そして「科学立国」「教育立国」以外に希望が当面見えないこの国に「数学アレルギー」がますます蔓延する。この悪循環をなんとしても断ち切らなくては――芳沢先生はそう決意し教育実践の努力を日々続けているのだ。

数学の対称性についての最新入門書
『群論入門』(2015)と、
教育改革提言をまとめた
『論理的に考え、書く力』(2013)
高校数学各教科のアラカルト的枠組みを乗り越えて
一本化させたロングセラー
『新体系高校数学の教科書』(上・下)

東京理科大から桜美林大へ転籍した理由

――ここで東京理科大から桜美林大へ転籍した理由についても聞いておこう。

東京理科大は、今回ノーベル賞をとられた大村智先生が出身であることからも分かるように、ある意味では堂々とした実力主義を基本とした都会的な理系大学です。じっさい東京理科大で恵まれた環境で研究も教育もやらせてもらいました。ただ、いくら数学教育の現状を憂えても、「しょせん芳沢さんは数学が得意な学生に囲まれている」という外部からの声もつきまとい、わたしの数学教育活動の場として若干の限界も感じていたのは事実でした。

いっぽう桜美林大は、学園創立者の清水安三先生による「親切心」「ホームライク・コミュニティー」「『愛人如己』の精神に基づく語学」などを強調する教育理念による「心」の伝統がキャンパス内の学生・教職員たち各自の心掛けに脈々と息づいています。わたしは大学教員として38年間で、非常勤講師をふくめ延べ1万3千人余の学生を指導してきました(学習院大・慶應義塾大・城西大・東京理科大・岩手大・東京電機大・東京女子大・法政大・同志社大ほか)が、学生のハート面の優しさ美しさでは本学が日本一だと思っております。

本学の学生は3分の2が女子ですが、その大半は数学嫌いの状態で入学してきます。これは東京理科大の学生とは対照的です。しかし逆にいえば、数学教育を研究・実践する者からすればうってつけなのです。附属の幼稚園・中学校・高校をもつ桜美林学園の魅力もあります。数学アレルギーは小中学校から育まれるわけで、いろいろなアンケートや実地調査がやれるフィールドを確保することにもなりました。また、リベラルアーツの視点から数学をうったえることに特段の魅力も感じました。

――芳沢先生は、要望さえあれば全国どこでも小・中・高校へ積極的に出かけていって、数学(算数)の出前授業を実践してきたことでも知られる。こうした授業において、数学は正答に至るプロセスについて心を込めてきちんと理解することが大切――そうしたアドバイスを悩める子どもたちに飽きることなく説きつづけてきた。

小学生向けの授業においては、データからのジャンケンの有利な方法、アミダくじの仕組み方などの身近な話をすることが多いですね。また高校生対象の出前授業では、なかなか理解しにくい対数計算の説明にヤミ金融の高金利を例にして説明したりします。消費者金融のグレーゾーンが廃止されてどの程度返済が違うのかなど、等比数列の和の話にも生徒たちは目を輝かして聞いてくれます。

幼い子どもの頃から積み木やあや取りで遊び、あるいはハサミを使って展開図をつくってみる。中学生・高校生になったら自ら図形の作図をやって楕円や放物線を描きながら実際に手を動かして学んでいってほしい。ところが、そうした具体的な経験を積まずに算数・数学を学んできた人が以前にも増して多くなっています。そして、どうもスマートフォン世代以降の学生は幾何学的センスがより弱い傾向になるようです。

――桜美林大に移ってからは、出前授業よりも、桜美林大学内での教育実践に力を入れている事情もあるという。

今年度から学長特別補佐にも就任して更にそういうことにはなっています。多少ともキツさは感じますが、大学側も協力してくれますし、心掛けがしっかりしている本学学生の多くはちょっとしたキッカケで劇的に数学好きに変わっていきます。そもそも数学ほど心が重要な学問はないのです。

――数学無用論などがまかり通っている先進国など、日本のほかに世界に存在しないとも喝破する芳沢先生。あなたの数学アレルギーの原因、それはもしかするとハートレスなニッポン数学教育の被害者だけということなのかもしれない。将来はニッポン文系学生の数学観の未来に革命を起こしてやろうと思っているぐらいの意気込みでやっているつもりなんです――そうエネルギッシュに語る姿が印象に残るインタビューとなった。

こんな学生に来てほしい

本学は伝統的に教職員から学生まで心優しい人が多く、これまで学校と少し距離を置いていたような人でも明るく居場所を見つけやすい大学だと思います。これまで人間的にも学問的にも入学時とは見違えるようになった卒業生たちを何人も見てきました。いま数学の成績自体はちょっと苦手であっても、数学本来の魅力が心の底のどこかに触れていて、じっくり大学で学び直してみたい。そして、芳沢とかいう面白そうな数学教授の話を聞いてみたい。そういう高校生がもしいたら、ぜひ桜美林大学のリベラルアーツ学群を目指していただきたい。たとえば人生の目標が見えてこないモラトリアム型の人であっても、リベラルアーツ学群であらゆる世界を広く学び直すことで何かが見えてくるかもしれません。

本学入試制度にも一般入試のほかに、AOや推薦やセンター試験併用など複数あり、仮にひとつの試験での合格率が30%程度の学力だとしても、すべて4回うけたら80%以上合格というのが確率計算の帰結ともなります。この計算も参考にして、桜美林大を目指してくれれば誰でも大歓迎いたします。朋あり遠方より来たる、また楽しからずや!



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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。