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四谷校レポート

私の人生を変えた本・映画~神崎麗衣編~ 西加奈子『i』


みなさん、こんにちは!

早稲田塾四谷校担任助手の神崎麗衣(一橋大学社会学部2年・広尾学園高等学校卒)です。

本日は、私の人生を変えた本を紹介します。

私の人生に影響を与えた作品は、西加奈子さんの『i』です。

【あらすじ】

この小説は「この世界にアイは存在しません。」という高校の数学教師の言葉から始まる。これは、シリアで生まれ、アメリカ人 のダニエルと日本人の綾子の夫婦の養子になった主人公アイの物語である。アイは自分は養子であることも、世界で起こる様々な不幸も、幼い頃・からずっと両親から教わっていた。アイは養子の自分が恵まれすぎた生活をしていると感じ、世界で不幸な出来事が起こるたびに、なぜ自分がそー の不幸の対象にならなかったのかと胸を痛める幼少期を送った。両親はたくさんの愛情を注いでくれたが、それはかえってアイを苦しめ、数学教・師の「この世界にアイは存在しません。」は呪いのようにアイの心のなかに残り続け、決して消えることはなかった。アイは自分のアイデンティティを模索し、親友のミナや恋人のユウに認められることで自分の存在を認識できるようになった。しかし、流産と親友との関係から再び「この世界にアイは存在しません。」という呪いがよみがえることとなる。それでもそれを乗り越えて、最後にはずっと敬遠していたルーツのあるシリアのこと、両親のことを知ろうと決意する。

【この作品と当時の私】

この物語の大きなテーマとして「普通」と「普通ではない」、「渦中の人の苦しみ」と「渦中にいない人の同情」があるように、この作品を読んだ高校生のときに感じた。それは当時、私がセクシュアル・マイノリティを含む様々なバックグラウンドを持つ人たちと接するなかで考えていたことと似ていたからだと思う。アイの親友のミナのセリフには、以下のようなものがあった。

「渦中の人しか苦しみを語ってはいけないなんてことはないと思う。もちろん、興味本位や冷やかしで彼らの気持ちを踏みにじるべきではない。絶対に。でも、渦中にいなくても、その人たちを思って苦しんでいいと思う。その苦しみが広がって、知らなかった誰かが想像する余地になるんだと思う。渦中の中の苦しみを。それがどういうことなのか、想像できないかもしれないけど、それに実際の力はないかもしれないけど、想像するってことは心を、想いを寄せることだと思う。」

当時この言葉に救われたのを今でも覚えている。私もある点では、アイと同じ「恵まれた環境」にいて、渦中のなかの苦しみよりもそれに同情する側に立っていると思っていた。TIME CUPにてセクシュアル・マイノリティについて話した際も、東北へ復興ボランティアに行った際も、これは私の自己満足に過ぎず、渦中にいる人たちは私がこのようなことをすることを望んでいないのではないか、むしろ嫌がっているのではないかと不安に思っていた。当時セクシュアル・マイノリティについて語ると、「あなたはセクシュアル・マイノリティではないんでしょ。あなたに何ができるの?」と言われたこともあった。このミナの言葉は、渦中のなかにいない私が「想像することで想いを寄せ、他の誰かがそのことについて想像する余地をつくれるかもしれない」という希望、ちょっと前を向いて頑張ってみようと思うことができた。

【最後に】

私はこの作品に救われ、前を向いて頑張ってこれた。そして「差別の構造を明らかにする。」という遠大なテーマをもって一橋大学に入学した。

しかし、大学入学がゴールではなく、今でもこのことについて考えることがある。当事者でない私に何が語れるのか。この問いは私の一生の問いかもしれない。

大学での学びや日々の経験を通して、今は「もっと広い視野で物事を考えてみよう。」と「語ることより知ることや熟考することから始めよう。」と考えが変わってきている。

文学作品は、そのときの「わたし」が何を考え、何に悩んでいるかによって全く違うように受け取れる。ときに、それは悩める人を救い、考えを深めさせると思う。

みなさんもひとつ本をとって読んでみてください。私のようにある言葉に救われるかもしれません。そしてその言葉を片隅に置きながら、生活してみてください。何か気付きが得られるかもしれません。

カテゴリ:

    投稿者:神崎麗衣

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