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安倍首相が参院選で「3分の2」を公言

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●改憲勢力を束ねられるかが課題

安倍晋三首相は2016年1月、今年行われる参議院議員通常選挙で憲法改正を持論とする勢力による「3分の2」の議席を目指したいという意向を公言しました。
憲法96条は憲法改正について

1)衆議院・参議院それぞれの総議員の3分の2以上の賛成で発議(国民への提案)
2)国民投票の過半数の賛成

の二段階でできると定められています。そのうち2)の国民投票は第一次安倍政権の際に国民投票法という手続き法が可決成立しました。
自民党は結党以来、憲法改正を主張しているので同党総裁(トップ)でもある安倍首相がそれを目指すというのに別段違和感はありません。ただ訴え方に独自のカラーがにじんでいます。
現在の与党(首相の味方)は自民党と公明党です。両議院の勢力は

1)衆議院は自民党単独で過半数。公明と合わせて3分の2
2)参議院は自民党単独で過半数に及ばず公明党を含めて過半数

です。したがって仮に公明が自民に改正でも追従するか、妥協が成立したとしても参議院で野党(首相の味方以外)がすべて反対したら発議できません。野党にカウントされている「おおさか維新の会」(参議院議員7人)と、「日本のこころを大切にする党」(同4人)は改憲を訴えているので発議に賛成すると仮定しても「3分の2」には及びません。そこでこうした改憲勢力を束ねて参議院でも「3分の2」を獲得しようという腹づもりのようです。

●参議院の過半数は高いハードル

参議院は総定数242議席を半数(121)ずつ3年ごとに改選していきます。前回の2013年選挙は自民65議席と過半数を上回り、公明11と合わせると約63%。安倍首相が指揮して圧勝といわれた選挙でさえ「3分の2」は達していません。高いハードルなのです。
当初、安倍首相は憲法改正を公約には掲げたものの、具体的な発議要件まで示して改正を争点にしないのではないかとの観測が強かったのも、意外性を感じさせる要因でした。15年の安全保障法制をめぐる国会で反対派が一時勢いを増し、友党公明最大の支持基盤である宗教法人「創価学会」のなかですら反対論が噴き出したほどです。内閣支持率も一度は低下しました。したがって可決成立後は「新3本の矢」を打ち出すなど、一転して「経済の安倍」の顔に戻り、17年4月から10%に上げる予定の消費税へ軽減税率を導入したり、所得が低い高齢者に3万円を配る「臨時福祉給付金」を発案したりするといった態度でした。民主党など主要野党は軽減税率に「軽くした分の財源が示されていない」とか、3万円を「ばらまき」「買収」と攻め立てていますが、上手なケンカとはいえません。誰でも税は軽い方がいいし、3万円もらえる高齢者はニッコリであるには違いありません。与党もこのまま行くとみていた矢先の「3分の2」発言だけに動揺が広がっています。
なぜ首相は踏み込んだのでしょうか。本人の宿願である上に支持率が下げ止まり自信を深めたのが大きいのでしょう。衆議院選挙(12年、14年)と参院選(13年)に三連勝しているので「今度も行ける」と考えたのかもしれません。

 ●自民が回避したい野党結集

「おおさか維新の会」が党の存亡をかけて昨年末戦った大阪府知事と市長のダブル選挙で完勝したのも刺激になっているようです。同党の名を首相は明言しています。
憲法について各党の姿勢は公明が自衛隊の存在を明記する「加憲」の検討をするとしています。最大野党民主党も「未来志向の憲法を構想する」と絶対反対ではありません。だとしたら本来、民主党を巻き込んで議論するのが一番手っ取り早い上に、議会制民主主義の本道でもありましょう。具体的に改正を持ちかけられたら民主党内に激震が走るのは間違いなさそうです。ところがそうせず「おおさか維新の会」という迂回路を選択したら野党結集を招きかねません。参議院選挙は7月、国会は3月まで予算審議が中心なので憲法論ができるのは2か月ぐらいしかありません。与党内の調整すら時間が足りないのが現状です。
「おおさか維新の会」が躍進しても、どの程度「3分の2」に役立つか微妙です。同党は名前の通り大阪府を中心に集中的に票を集める傾向が高いとみられます。したがって衆議院ならば19議席ある大阪府と最大29人の比例近畿ブロックならば大量得票も望めそうですが参議院はそうもいきません。大阪選挙区は改選定数4。大勝利しても2議席がやっと程度。4議席独占できたとしても、それは近年の傾向から自公候補を破ると同義になるので「3分の2」には貢献しません。全国一律の比例区は相対的に大阪票が希釈されるので数議席といったところです。
憲法改正は賛否が真っ二つにわかれています。それを「3分の2」という現実的な争点として掲げれば「維新」と「こころ」を除く野党も「反対」でまとまるかどうかはともかく「拙速だ」「横暴だ」などの意見が出て、とまらざるを得なくなる可能性が浮上します。そんなの怖くない。野党はどうせまとまらず自滅する安倍首相が踏んでいて、その通りになれば「3分の2」もあり得ましょう。逆にとことんコケにされている(といわざるを得ません)民主党など首相のいう「改憲勢力」に含められていない野党が意地をみせて「3分の2阻止」の具体像を有権者に示せれば「おごる平家も久しからず」の思いを安倍首相に味あわせられそうです。

※記事の内容は執筆者個人の見解であり、早稲田塾の公式見解ではありません。