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甘利大臣が辞任。TPPのこれからと条約のありよう

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●TPP協議に不安視の声も

2016年1月、甘利明甘利明経済再生担当相が金銭スキャンダルで辞任しました。甘利氏は2012年に政権復帰した第二次安倍晋三内閣発足からの閣僚(国務大臣)で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)担当大臣も兼ねており、参加国との微妙なかけひきをほぼ1人で引き受けていました。TPPは15年10月、参加国の「大筋合意」はまとまったものの、経緯や内実は甘利氏ら限られた者しか知り得ません。そうしたキーパーソンが抜けて今後のTPP妥結への審議ができるのかと不安視する声もあります。

ところで「協定」とは何でしょうか。広い意味では条約と同じです。

条約とは国際法のもとで原則として国家同士が文書で明らかにした合意です。最近では地球温暖化阻止に向けた国連気候変動枠組み条約のように、国連など国際機関が当事者になるケースも目立ちます。協定以外にも「憲章」「議定書」「覚書」とさまざまな名称で表現されますが、「条約」の定義からははみ出さないので「条約」と同等と考えていいようです。

 

●条約締結のステップは

条約にもいろいろあります。数だと2国間(日米安全保障条約など)と多国間(国際捕鯨取締条約や南極条約)があります。国際機関が当事者になるものとしては一連の人権条約が有名です。人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約などが当たります。性格によっても政治条約(日中平和友好条約など)や経済条約(TPPなど経済連携協定が近年話題となる)、軍事条約(北大西洋条約)と分類できるのです。

条約は結びたい2国間ないしは多国間の政府(日本の場合は内閣)がそうと意思表示して交渉が始まります。各国から代表が選ばれて話し合いがスタートします。だいたいこの辺でいいだろうという内容まで煮詰められたら、「大筋合意」または「合意」に至るのです。

しかしこれだけでは終わりません。署名(調印)という段階が必要です。国家の代表者が条約文へサインする儀式です。TPPの場合は16年2月4日、ニュージーランドで予定されています。甘利大臣が辞任を発表した記者会見で、「正直言えば署名式には出たかった」とくやしがったのも交渉の大きな山場であり、かつ担当者にすれば華やかな舞台だったからでしょう。

署名すれば即刻効力を持つ条約と、まだ終わらない条約があります。20世紀に入った頃、日本はロシアに抵抗すべきか強調すべきかで国論が二分しました。そうしたなか、前者を希望する勢力は当時世界最強国であったイギリスとの同盟に傾きます。反対勢力があるので交渉は秘密裏に進められ1902年、ロンドンで日英同盟を駐英日本公使と英外相が調印して即日効力を持ちました。これなど前者の代表的な例です。

「そうでない」とは国内手続きの完了を控えている場合で、TPPはこちらです。条約は国同士の決めごとですから国内に賛否両論を抱えていても政府が「とりあえずGOだ」と定めたら意に沿った代表が話し合います。それはどの国でも同じです。国内の賛成派と反対派が複数で押しかけてはメチャクチャになってしまいますから。したがって署名(調印)した後に国内の手続きに入るのです。日本は内閣が選んだ代表が署名してくるので、その次に立法府(国会)で話し合って、衆参両院の過半数で「OKだ」といってもらわなければなりません。条約の締結は衆議院の優越が認められているので(詳細は後述)参議院が否決しても最終的に衆議院の議決で成立します。

また条約を引き受けるに当たって国内法を整備する必要もあります。TPPが効力を持つと特に農林水産業や酪農・畜産関係者が安い輸入品の増加で苦しくなるといわれています。そこで赤字が出たら補って埋めてあげたり、反対に輸出競争力を高めるための法律を作ったりする予定です。

TPPの決まりが国内法と異なる場合の対処も必要です。例えば、日本の著作権法は音楽や書籍などの保護期間を作者の死後50年としていました。しかしTPPは70年としたので当然改正が必要です。また同法違反は親告罪、つまり著作者や権利の継承者が訴えない限り取り締まらないとなっていたのをTPPは非親告罪とします。他にもTPPを受け入れるにはかなりの法改正や新設が必要で「唯一の立法機関」である国会がどう対応するのかが焦点です。

こうした手続きが完了すると通常「批准」という確認行為を行います。正式なやり方は同意した旨を示した批准書を作って2国間ならば交換します。TPPではそこまで厳密ではなく、国内手続きの完了が証明できればいいという方向で調整しているもようです。


●TPPは柔軟な手続きが特徴

参加国のなかには手続きがうまくいかなかったり、下手をすると否決されてしまったりする場面もあり得ます。そこでTPPは柔軟な対応をするような仕組みとしました。

まず参加12カ国のうち6カ国以上としました。大国でも小国でも国の数でカウントします。これは小国への配慮とみられます。

もう1つの条件は域内を占める国内総生産(GDP)の割合85%以上。域内1位のアメリカと2位の日本を合算するだけで約78%を占めます。大国が入らないとスタートできないという制度でTPPという経済連携協定が実際に意味ある役割を果たせるようにと考えられたとみられます。

このような条件がすべて整って最終的な「妥結」「発効」(効力を生じる)に至るのです。

ところで条約と、憲法、国内法(法律)の関係はどうなっているでしょうか。日本では条約は「法律以上」「憲法以下」と解されるのが普通のようです。いったん批准した条約は法律より優位です。したがって条約を受け入れるために国内法を整備し直さなければならない場面が出てきます。憲法違反の条約を批准しても条約そのものは有効。他の参加国にとってはどうでもいいことで、むしろ憲法改正を迫られます。こうした事態を避けるために少なくとも署名までの段階で憲法に反しないかという確認をしないと、とんでもない事態を招きかねません。

ウィーン条約などで定められた外交特権、公館(大使館や領事館)に国の権限が及ばないとか、外交官は逮捕も起訴もされないといった内容は、ある意味で「憲法以上」ですが、どの国でも認め合っているので大きな問題になりません。しばしば「不平等条約」との指摘を受けるのが日米安全保障条約に基づいて、日本に駐留するアメリカ兵などの法的な立ち位置を示す日米地位協定(1960年に効力を持った)です。日本にあっても米軍基地内ではアメリカの法律が適用されるとか、公務中であれば罪に問われても優先的な裁判権は米軍にあるといった決まりです。

この問題でわきたったのが砂川事件でした。東京・米軍立川基地(1970年代に日本へ返還)の砂川町(当時)などへの拡張に反対する「砂川闘争」最中の1957年7月に、反対派が基地内に立ち入ったとして日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反(施設または区域を侵す罪)で学生ら7人が裁判にかけられます。被告人は根拠法、すなわち安保条約やそれに基づく米軍の駐留が憲法に違反しているから無罪と主張。東京地裁は憲法9条に駐留米軍は違反するとして全員無罪の判決を出しました。いわゆる「伊達判決」です。

法律や行政のあり方が憲法に照らしてどうなのかという「違憲審査権」は地方裁判所も持っています。ただ「違憲」の場合は通常の高等裁判所への控訴を飛び越して最終判断する最高裁へ上告でき、検察官はそうしました。その判決(59年)で「憲法は」「自衛のための措置を」「他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではな」く、「外国軍隊は」9条の「『戦力』には該当しない」とし、地裁判決は破棄差し戻しとなりました。再びの地裁判決は有罪(罰金2000円)で上告棄却された63年に確定します。

いったん条約を結ぶと永久に拘束されるのでしょうか。そうとはいえません。まず2国間条約であれば、1カ国が破棄した時点で終了です。多国間条約でも脱退すると言い出した国を、どうでも止めるという手段はないのが実情です。

※記事の内容は執筆者個人の見解であり、早稲田塾の公式見解ではありません。