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安倍首相の憲法改正意欲

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●首相の悲願

安倍晋三首相は、今年の参議院通常選挙で憲法改正を争点とする姿勢を明確にしてきました。憲法は衆議院、参議院のそれぞれ3分の2の賛成で改正を発議(国民への提案)でき、後の国民投票で過半数を占めたら成立します。現在、衆議院は与党(首相の味方)である自民党・公明党で3分の2を満たしているので、「次は参議院でも」と意気込んでいるようです。

安倍首相の自民党総裁(トップ)の任期は2018年9月まで。2016年3月、国会で首相は「私の在任中に成し遂げたい」と願望を口にしています。16年参院選で3分の2が取れなければ次は19年になってしまうので、「今度の選挙で」という意気込みが伝わってくるのです。

ただし自公だけで成し遂げるのが難しいという認識らしく、改憲を考えている野党(首相の味方以外)とともにハードルを越えたいとも発言しています。念頭にあるのは「おおさか維新の会」(参議院7議席)のようです。突破口としたい「緊急事態条項」は、友党の公明が態度を明らかにしていません。今は何を改正したいのかハッキリしないまま、「改正したい」と訴えているのが現状です。さっそく最大野党の民主党、枝野幸男幹事長から「どの条文をどう変えたいかという話を抜きに『変えたい』というのは論理矛盾だ」とかみつかれています。もっとも枝野氏は改憲のいわば釣り餌ともいうべき「緊急事態条項」に「議論をする余地がある」とも発言していて相変わらずの党体質なのですが。


●首相の本意は9条改正

ただ、安倍首相が何もいわなくても彼がやりたいのが9条改正であるのは明らかです。ただそこをズバリ明言すると昨年の安保法制審議の時のような世論を二分する事態になりかねず、今は自重しているのでしょう。

ところで首相が「おおさか維新も(改憲案を)一部示している」と秋波を送っているおおさか維新は、綱領で確かに改憲をうたっているものの、第一が「統治機構改革」で一院制への移行などです。次が「地方分権」で道州制の導入などを求めています。安全保障については「現実的な外交・安全保障政策を展開し世界平和に貢献する」とある程度にすぎません。おおさか維新を味方につけたければ道州制の議論が欠かせないはずです。

というのも一院制はおそらく参議院の廃止あたりがメドになるでしょうが、いくら3分の2を占めても参議院議員が「参議院を廃止する」に同意するとは思えないからです。

道州制は47都道府県から全国を9~13のブロック(道州)に再編してアメリカの州のように国の仕事や立法権、課税権の一部を移し、その土地に合った行政サービスを提供していこうというアイデアです。例えば東北6県を「東北州」とすれば人口約900万人。これだけの規模になって権限が大きく移されれば何かができそうです。半面で大きすぎて都道府県より住民へのサービスが下がるとか、「東北州」で仮に州都を仙台に置くとなれば他の県庁所在地が力を失い「仙台一極集中」になるといった反論があります。

憲法は地方自治に関して「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」とザックリしたものです。 立法権を条例の範囲内で済ませるならば改憲の必要はないという意見が多いようで、やろうと思えば可能です。一方、立法権を一部以上するとなれば改正が必要です。

「極点社会」「消滅可能都市」。日本創成会議・人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務大臣)が位置づけた将来像は衝撃的でした。今後全国の市区町村の約半分が、自治体としての機能を果たせず消滅するという内容でした。

すでに日本の人口は減少しており2050年頃には1億人を割り込むと予測されます。現在、大都市では少子化は進んでも高齢者が増えています。地方の多くは高齢者も増えていません。一部にはどの世代も減っています。高齢者まで減ると年金で支えられていた経済まで崩れてしまい他に産業のない場合は若者が働き口を求めて大都市へと移住する結果、地方の「消滅」と大都市の「極点化」が同時に進むという試案でした。


●少子化対策も頼りない

合計特殊出生率とは、1人の女性が一生で生む子の数の推計です。いうまでもなく子どもは女性からしか生まれず、男女の比率はおおむね同じなので、女性が2人以上生まないと現在の人口は維持できません。こうした人口置換水準を国は2.07としています。0.07は早世のリスクを含んでいます。

少子化対策も打つ手がない状況が続いています。子どもの数が多かった第2次ベビーブーム世代(1971年~74年)は同時に母親になる人数も多かったわけですが、すでに40歳を越えています。実は翌75年から人口維持に必要な合計特殊出生率2.07を下回って今日に至っています。つまりこれからは少子化世代の母親が子を生むので、多少「率」が上がっても分母の減少により「数」は減ります。「率」を上げる方策がいまだみつからないまま「数」が減る要素だけはハッキリしているというのが現状です。

日本全体の合計特殊出生率は約1.4で2.07に遠く及びません。なかでも人口の多い東京都1.15、神奈川県1.31、大阪府1.31、愛知県1.46と愛知を除いて全国平均を下回っています(2014年)。特に一極集中の様相をていしている東京の低さが際立っています。つまり当面は介護のニーズなどがある大都市へと集中しても、やがてそこでも減り始めるのです。

考えてみれば62年の全国総合開発計画以来、地方へ雇用をという発想は何度も浮上しては失敗を繰り返しています。やみくもに若い女性へ「子どもを生め」と唱えても、子育ての環境や経済力などがともなわなければ難しく、個人の選択に口をはさむような行為はふさわしくないともいえます。

ずいぶん昔から地方分権の切り札のように訴えられてきた道州制もメドが立っていません。反対でも別の何か手を打たないと地方自治の推進どころか消滅が待っています。あまり時間は残されていません。

 

※記事の内容は執筆者個人の見解であり、早稲田塾の公式見解ではありません。