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TPP法案が国会提出。「協定」とは何か?

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●条約には「2国間」と「多国間」

2016年度予算の年度内通過が確実になって、政府はいよいよTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の承認案と関連法案を国会に提出しました。

「協定」とは条約の一種で、国際法のもとで原則として国家同士が文書で明らかにした合意です。最近では地球温暖化阻止に向けた国連気候変動枠組み条約のように、国連など国際機関が当事者になるケースも目立ちます。「協定」「憲章」「議定書」「覚書」とさまざまな名称で表現されていても「条約」の定義からははみ出さないので「条約」と同等と考えていいようです。

条約にもいろいろあります。数だと2国間(日米安全保障条約など)と多国間(国際捕鯨取締条約や南極条約、TPPなど)があります。国際機関が当事者になるものとしては一連の人権条約が有名です。人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約などが当たります。性格によっても政治条約(日中平和友好条約など)や経済条約(TPPなど経済連携協定が近年話題となる)、軍事条約(北大西洋条約)と分類できるのです。

条約は結びたい2国間ないしは多国間の政府(日本の場合は内閣)がそうと意思表示して交渉が始まります。各国から代表が選ばれて話し合いがスタートします。だいたいこの辺でいいだろうという内容まで煮詰められたら「大筋合意」または「合意」に至り文書が作られるのです。

しかしこれだけでは終わりません。署名(調印)という段階が必要です。国家の代表者が条約文へサインする儀式です。日本現代史上最も有名なのは1951年のサンフランシスコ講和条約における吉田茂首相の調印でしょう。この条約で日本は第二次世界大戦で激突した連合国との戦争状態を終結させるとともに、GHQの占領下から脱して独立を回復しました。交渉の大きな山場であり、かつ担当者にすれば華やかな舞台です。

署名すれば即刻効力を持つ条約と、まだ始まらない条約があります。20世紀に入った頃、日本はロシアに抵抗すべきか協調すべきかで国論が二分しました。そうしたなか前者を希望する勢力は当時世界最強国であったイギリスとの同盟に傾きます。反対勢力があるので交渉は秘密裏に進められ1902年、ロンドンで日英同盟を駐英日本公使と英外相が調印して即日効力を持ちました。これなど前者の代表的な例です。

「そうでない」とは国内手続きの完了を控えている場合で、サンフランシスコ講和条約など多くはこちらです。TPPもそうであるので国会審議にかけられるのです。条約は国同士の決めごとですから国内に賛否両論を抱えていても政府が「とりあえずGOだ」と定めたら意に沿った代表が話し合います。それはどの国でも同じです。国内の賛成派と反対派が複数で押しかけてはメチャクチャになってしまいますから。したがって署名(調印)した後に国内の手続きに入るのです。日本は内閣が選んだ代表が署名してくるので、その次に立法府(国会)で話し合って衆参両院の過半数で「OKだ」といってもらわなければなりません。条約の締結は衆議院の優越が認められているので参議院が否決しても最終的に衆議院の議決で成立します。サンフランシスコ講和条約は国内で、アメリカを中心とする陣営のみと結ぶ多数講和論とソビエト連邦や中国も含む全面講和論で割れており、前者を決断したため国会で論戦が繰り広げられました。最終的には吉田首相率いる自由党など衆参両院の多数派が全面講和を訴える日本社会党や日本共産党を振り切って承認を得ました。


●手続き完了は「批准」

こうした手続きが完了すると通常「批准」という確認行為を行います。正式なやり方は同意した旨を示した批准書を作って2国間ならば交換します。

条約加盟のため国内法を整備する必要が出てくるケースもあります。ハーグ条約(1983年から効力を持つ)は正式名称を「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」といって結婚が修復不能になった際、片方の親が了解なく子を国外へ連れ出して、もう一方の親が「返せ」と要求したら、元の国に戻して子の今後を決めるというルールを定めています。日本が加盟に及び腰であったのは特に外国で外国人と結婚した日本女性が、夫(または元夫)の家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス)に耐えかね母国に逃げ帰るとの事情を重くみていたからです。日本は離婚したら単独親権で、その大半が母親という慣例もあるので「夫がある日帰宅したら『実家に帰らせていただきます』との書き置きとともに妻と子が消えていてぼう然」というシーンも珍しくありません。しかし外国の多くは離婚しても共同親権で無断に連れ出したら誘拐罪にもなりかねないのです。そこで2013年「外国の親が子の返還を求める裁判を日本で起こせる」「暴力の恐れがあれば裁判所が返還を拒否できる」という手続き法を作って14年に加盟しました。

2008年に効力を持った障害者権利条約もさまざまな法改正や13年の障害者差別解消法成立を受けて14年に批准しました。条約が義務づけた「合理的配慮」を解消法に反映させたのです。合理的配慮とは身体障害者が勤めたい会社が3階にあるから働けないと門前払いをするのではなく、1階に引っ越せないかとかエレベーターは設置できないかと「配慮」するという考え方です。弱視の小学生や中学生のために文字の大きな教科書を用意するとか、目の不自由な方へ横断歩道に音声ガイドを用意するといったのも「合理的配慮」です。

多国間の条約となると批准段階で国内手続きがうまくいかなかったり、下手をすると否決されてしまったりする場面もあり得ます。そこで多くの条約は参加国のうち何カ国以上がOKすれば効力を持つとか、経済条約の場合は域内を占める国内総生産(GDP)の割合何%以上に達すればいいというように必ずしも参加国の全員一致を条件としない既定をあらかじめ盛り込む規定が多く存在します。このような条件がすべて整って最終的な「妥結」「発効」(効力を生じる)に至るのです。


●条約と法律、憲法の立場は

ところで条約と、憲法、国内法(法律)の関係はどうなっているでしょうか。日本では条約は「法律以上」「憲法以下」と解されるのが普通のようです。いったん批准した条約は法律より優位です。したがって条約を受け入れるために国内法を整備し直さなければならない場面が出てきます。TPPでは著作権法や独占禁止法の改正が必要です。憲法違反の条約を批准しても条約そのものは有効。他の参加国にとってはどうでもいいことで、むしろ憲法改正を迫られます。こうした事態を避けるために少なくとも署名までの段階で憲法に反しないかという確認をしないととんでもない事態を招きかねません。

ウィーン条約などで定められた外交特権、公館(大使館や領事館)に国の権限が及ばないとか、外交官は逮捕も起訴もされないといった内容は、ある意味で「憲法以上」ですが、どの国でも認め合っているので「お互い様」と大きな問題になっていません。しばしば「不平等条約」との指摘を受けるのが日米安全保障条約に基づいて日本に駐留するアメリカ兵などの法的な立ち位置を示す日米地位協定(1960年に効力を持った)です。日本にあっても米軍基地内ではアメリカの法律が適用されるとか、公務中であれば罪に問われても優先的な裁判権は米軍にあるといった決まりです。

この問題で注目されたのが砂川事件でした。東京・米軍立川基地(1970年代に日本へ返還)の砂川町(当時)などへの拡張に反対する「砂川闘争」最中の1957年7月に、反対派が基地内に立ち入ったとして日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反(施設または区域を侵す罪)で学生ら7人が裁判にかけられます。被告人は根拠法、すなわち安保条約やそれに基づく米軍の駐留が憲法に違反しているから無罪と主張。東京地裁は憲法9条に駐留米軍は違反するとして全員無罪の判決を出しました。いわゆる「伊達判決」です。

法律や行政のあり方が憲法に照らしてどうなのかという「違憲審査権」は地方裁判所も持っています。ただ「違憲」の場合は通常の高等裁判所への控訴を飛び越して最終判断する最高裁へ上告でき、検察官はそうしました。その判決(59年)で「憲法は」「自衛のための措置を」「他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではな」く、「外国軍隊は」9条の「『戦力』には該当しない」とし、地裁判決は破棄差し戻しとなりました。再びの地裁判決は有罪(罰金2000円)で上告棄却された63年に確定します。

いったん条約を結ぶと永久に拘束されるのでしょうか。そうとはいえません。まず2国間条約であれば1カ国が破棄した時点で終了です。多国間条約でも脱退すると言い出した国を、どうでも止めるという手段はないのが実情です。

留保という方法もあります。条約には加盟しても一部分だけ差し控えるのです。例えば日本は人種、民族、出身国などによる差別を禁じる国連人種差別撤廃条約に1995年に加盟していましたが、処罰義務の規定に関しては「憲法の表現の自由を妨げない限り」と制限付きでの受け入れとなっています。表現の自由とは憲法21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」を根拠とします。アメリカも同じです。ただこの国は良くも悪くも自由と民主主義の中心と自認するだけあって、ヘイトスピーチのような言動が生じたら、すかさず徹底的に批判する側が大声を上げるという「対抗言論」が育っている社会というのが日本との違いかもしれません。

※記事の内容は執筆者個人の見解であり、早稲田塾の公式見解ではありません。