早稲田塾
GOOD PROFESSOR

一橋大学
経済研究所附属 社会科学統計情報研究センター

北村 行伸 教授

北村 行伸(きたむら・ゆきのぶ)教授
1956年京都生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒。82年米ペンシルバニア大学大学院修士課程修了。88年英オックスフォード大学大学院博士課程修了。88年経済協力開発機構(OECD)エコノミスト。91年日本銀行金融研究所研究員(現職兼任)。99年一橋大学経済研究所助教授。02年同教授。

主な著作に『テキストブック経済統計』『実践ゼミナール日本の金融』(ともに共著・東洋経済新報社)、『複雑系の経済学入門と実践』(共著・ダイヤモンド社)などがある。

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世の中の動きを数字で追いかける応用計量経済学

一ツ橋経済研究所社会科学統計情報研究センターの建物

一橋大学の付属研究所である「経済研究所」は、世界経済と社会科学を総合的・実証的に研究している機関で、戦前から続く伝統ある研究所だ。その研究所にさらに付属する「社会科学統計情報研究センター」。そこで教授をしている北村行伸先生が、今回紹介するグッド・プロフェッサーである。

北村先生は経済学の先生だ。最近の近代経済学といえば難解な理論と数式の世界というイメージがある。実際に先生の専門も「応用計量経済学」「マクロ経済学」「金融財政学」「公共経済学」と何やらむずかしそうな分野が並ぶ。

「経済学というと、とっつきにくい印象があるようですが、基本的には社会のさまざまな動きを数値化して表わそうという学問です。ですから社会学や社会科学に近い分野で、やってみると非常に面白いものなんですよ」

と語る北村先生。その語り口は非常にソフトで穏やかだ。さっそく経済学の面白さを説き明かしてもらおう。

「私の研究分野である応用計量経済学というのは、ある経済現象について統計的手法を用いて中心原理は何かを探るものです。つまり各種のデータや個別の家計から、企業・国・地域あるいは時系列のものまで集め、そこから特殊な要因を除いて分析していきますと、根源的な経済関係が見えてくるわけです」

さまざまな社会事象を調査し数値化していく

文系受験生のあこがれの一橋大学の正門

まだまだむずかしいようだ。そこで先生は具体的な研究について話してくれた。これがすこぶる興味深い内容なのだ。

たとえば、個人の貯蓄・資産蓄積行動の要因を家計から探る研究。戦前の農家の家計からたどるライフヒストリー。あるいは特定の女性1500人について、仕事や暮らし・意識・消費行動など10年間にわたって追跡調査する研究――等々。

先生は、これらデータ個票の1つひとつにまで遡って調査しているという。

「こうした幅広い経済研究ができるようになったのも、政府が個別のデータを公表するようになってきたからです。そうしたミクロのデータから共通項を抽出して、マクロの視点でとらえる経済研究ということになります」

「女性1500人の追跡調査では、そのなかにパラサイトシングルといわれる人々が含まれています。社会学では、それをパラサイトシングルと定義し分類すれば終わってしまうところがあります」

「一方、経済学では、パラサイトシングルの人々が10年間でどう変化したのか、10年前はリッチだった人が今はそうでもないことが分かったりするわけです。そこが経済学ならではの面白さになります」

いまや「世界における日本経済は……」などと、大上段に構えるだけが経済学ではない――と北村先生はそう強調する。

日銀政策の裏付けとなる基礎的研究の数々

一橋大学国立キャンパスの全景

一橋大学教授である北村先生は、また同時に日本銀行金融研究所の研究員でもある。同研究所は、日銀が出す政策について各種データや資料からその政策根拠を構築する研究所で、「日銀政策のバックボーン」と呼ばれる主要な部署だ。

「ここでは日銀政策の裏付けとなる基礎的な研究をしています。最近では04年3月に財務省が販売を始めた物価連動債(物価に連動して元本と利率を調整する国債)について、その価格付けや評価、通常の国債とのあいだに内包される期待インフレ率抽出のプログラム作成などの作業に参加しました」

日本の金融・財政政策の中枢セクションで働く北村先生だが、これからの日本経済の見通しについては次のように語る。

「日本経済はこの10年ほど試行錯誤を繰り返してきましたが、ここにきてデジカメやDVDなど日本発の売れる商品がいくつか出てきました。まだまだ若年層の失業問題や団塊世代の年金問題など懸念材料はありますが、方向としては明るい兆しが見えていると思います」

英米式以外の経済制度を模索する国々もある

一橋大学の象徴である兼松講堂

もうひとつ、北村先生には「ケニア中央銀行金融学校」アドバイザーという肩書きもある。
「アジア経済の研究者は日本にも多いのですが、アフリカ経済についてはまず専門家がおりません。それで、いい機会だと思ってお引き受けしました」

「ケニアもそうですが、世界には英米式の経済制度に懐疑的な国が多くあります。そうした国々の多くは日本の制度に関心があったりして、ケニアでも日本への期待を感じますね」

ケニア中央銀行には金融マンを養成するための金融学校があって、北村先生はその設立に携わり、現在も社会人クラスの教壇に立つ。アフリカ経済という未知の領域に自ら赴いて、パイオニア的研究に先鞭をつけているのだ。

さて、北村先生が一橋大学で講義を担当しているのは大学院からで、ゼミも修士・博士課程を履修している大学院生が対象となる。その院生への指導方針について、次のように話してくれた。

「経済学にかぎらず、学問というものは本質が何かを見ないといけません。それもイデオロギーや先入観などバイアスに引きずられたものではなく、事象を客観的に観察した本質でなければなりません。それに昨日より今日、今日より明日と、常に質的改善を続けることが大切だとも教えています」

さらに、混沌とした現実のデータからその本質を読み取る直感力も育てたいと語る。

「データから何が本質かを見つける直感力を養ってほしいですね。経済学ではその本質は変わり得るものです。ですから先入観などに引っ張られるのはよくありません。常に心をフレキシブルにしておくこと、それが正しくデータを読み解くカギになります」

そして現役高校生のみなさんへ、次のような熱いメッセージを寄せてくれた。
「経済学は面白い学問です。ただ、その面白さに到達するためには、その前に経済理論や統計学を学んでもらう必要はあります。そこを我慢して勉強すれば、きっと面白い世界が広がります」

「経済学というのは世の中の原理を求める学問です。その原理も時代とともに変化していきます。数学や物理など普遍的は原理と違って、変化し得る原理を追い求めていく。そこが経済学の面白いところでしょうね」

こんな生徒に来てほしい

経済学を学んでも、何の資格も取れません。逆に博士号などなくても、エコノミストを名乗ることはできます。実力勝負の世界なんです。また自分で面白いと興味を感ずれば、現代に限らず歴史的なことから海外のことまで、経済学の研究対象はほぼ無限にあります。それに数式が出てくるからといって、理数系が苦手な人でも敬遠する必要はありませんよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。