早稲田塾
GOOD PROFESSOR

慶應義塾大学
大学院 理工学研究科 生命理工学専修

柳川 弘志 教授

柳川 弘志(やながわ・ひろし)教授
1944年神奈川県生まれ。69年横浜国立大学工学部応用化学科卒。74年東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。74年三菱化成(現三菱化学)生命科学研究所入社。2000年同研究所退社。この間80年米レンスレアー工科大学客員助教授。00年より現職。

著作は『RNA学のすすめ』(講談社ブルーバックス)、『遺伝子情報は人類に何を問うか』(ウエッジ)、『生命の起源を探る』(岩波新書)など多数。

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ゲノムネットワーク解析の第一人者

柳川研究室のある 矢上キャンパス14号棟創想館

慶應義塾大学矢上キャンパスは、同じ慶應義塾大学日吉キャンパス奥の小高い丘にそびえ立つこじんまりとしたキャンパスだ。ここで学んでいるのは理工学部3、4年次の学生と大学院生で、そのためか落ち着いた学究的雰囲気に包まれたキャンパスでもある。

同学部に生命情報学科が誕生したのは2002年で、その創設1期生が04年4月に学部4年次に進級したばかりの新しい学科だ。

「この学科ではその名のとおり、生命科学(バイオテクノロジー)と生物情報(コンピュータ)が同時に学べます。遺伝子工学の実験とITの両面から学べるということでは先駆的な学科だろうと思いますね」
そう語るのは同学科教授の柳川弘志先生である。

その柳川先生は「生化学」と「分子生物学」が専門で、遺伝子間のネットワーク解析を研究テーマにしている。

「ご承知のように03年にヒトゲノムの配列解析が一応終わり、ほかの生物の塩基配列もたくさん解析されています。ただ、これらはデジタル情報がそろったというだけに過ぎません。我々が本当に知りたいのは機能情報で、ゲノム遺伝子がヒトの体のなかでどんな役割をしているかを解明したいわけですね」

生命科学の世界はゲノム配列の解析の段階から、その機能解析の新たな段階「ポストゲノム時代」に入った。柳川先生はそれをけん引する世界的トップリーダーのひとりだ。

「生命を本当に理解するためには、いわば構成部品であるタンパク質を網羅的に調べる必要があります。個々の遺伝子がつくり出すタンパク質は単独で働くことがまれで、たがいに相互作用しながら機能しています。私は、その相互作用についての研究をしています。遺伝子ネットワークとかゲノムネットワークといわれているものの解明研究ということになります」

柳川先生は、タンパク質の相互作用を試験管内で解析できるIn vitro virus法を開発している。これはタンパク質に遺伝子の情報タグをつけて増幅することで、タンパク質の配列解析を容易にしたものだ。

これは世界初の開発である。これによって、大規模で迅速・確実な解析が可能になった。それだけ遺伝子機能が解明される日も近くなった。

21世紀COEプログラムの拠点リーダー

日吉の丘にそびえる慶應大学矢上キャンパス

ヒトゲノム配列解析から機能解析の時代に入っているが、その次に来るのは遺伝子や代謝ネットワークなどのシステム解析の時代である。じつは柳川先生らはすでにその研究にも着手している。

21世紀COEプログラム(COEプログラムは大学の優れた研究拠点を文部科学省が支援する制度)の「システム生物学による生命機能の理解と制御」がそれで、その拠点リーダーを務めているのが柳川先生である。

「この研究はシステム生物学という分野になります。遺伝子の構造や機能情報をコンピュータに読み込ませ、モデル化・シミュレーション化して生物のシステムを理解しようという試みです。2年前から始められたプログラムで、現在はコンピュータに入力するたくさんのデータを収集している段階になります」

このCOEプログラムには柳川先生の所属する理工学研究科はじめ、医学研究科・SFC・先端生命科学研究所など慶應義塾大学の研究者が分野を超えて動員される大規模なものだ。

「この研究によって生物のシステムを理解し制御できるようになりますと、人口赤血球の開発、腸内細菌・腸内循環の制御、神経変性疾患の制御、薬剤の反応予測、バイオプロセス・エネルギー生産の制御など未知のさまざまな分野への応用への道筋が見えてくるはずです」

まさに人類の夢を乗せた研究プログラムといえよう。研究について語るときの柳川先生は、やや早口になる。いかに研究に打ち込んでいるか、またいかに楽しんでいるが伝わってくる話し方だ。なおこのCOEプログラムに参加できるのは、大学院博士課程の院生からとなる。

実験科学はタフでないと続けられない

理工学部生命情報学科では、4年次の学生から各教員の研究室の配属になって1年間を卒業研究に充てる。その第1期生が04年4月に4年次に進級し、柳川先生の研究室にも5人の学生が配属となる。

「僕の研究室では実験科学が主体になりますので、細かく観察することを学生には要求します。たとえ実験に失敗しても、その事実を観察してネガティブなデータもしっかり解析することが重要であると常々教えています。失敗が思わぬ研究成果に発展するのが実験科学の世界です。簡単にあきらめないということですね」

とにかく実験科学に臨むときの基本的な心構えが大事なのである。柳川先生はさらにこう続ける。

「実験科学はタフでないと続けられません。精神的にも肉体的にもタフでないとやっていられない。じっくり食らいついて集中することが大切なんです。いくら学力が優秀であっても、飽きっぽいタイプの人は向きません。この世界では、集中力を持続できる人が優秀な人ということになります。実験科学は根気と努力の世界なんです」

研究のだいご味についてはこう語る。

「思わぬところから新しい発見がある。実験科学の楽しさはそこですね。おそらく実験の99%は失敗ですよ。しかし、その失敗をきちんと整理して解析することが大切で、そこから思わぬ発見につながることがある。ノーベル賞を受賞するような大発見には、失敗から生まれたものが多いでしょう。そこが面白いんですね」

最後に、大学で学ぶことの意義について、柳川先生から高校生諸君に向けてのアドバイスである。

「大学で4年間学んでも何かの資格が取れるわけではありません。ノウハウが教えられるわけでもない。大学で学ぶ意味は、自分の頭で考える能力を付けるということだと思います。そのためには絶えず疑問をもって、人の意見を鵜呑みにしないこと。自分から新しい切り口を見つけて、新しい発見につなげていく。そのような能動性を自らに身に付けるということです」

こんな生徒に来てほしい

地道にコツコツ努力できる人。自分の頭で考えられる人。自然現象などに興味のある人。なぜそうなるのか疑問に感じられる人。そういう人に来てほしいですね。最近の学生を見ていると、おとなしくて指示待ちの人が多いような気もしています。ぜひ積極的・能動的な人を望みます。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。