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GOOD PROFESSOR

東京農業大学
バイオサイエンス学科 動物発生工学研究

河野 友宏 主任教授

河野友宏(こうの・ともひろ)
1953年東京生まれ。東京農業大学大学院博士課程終了後、新設の同学総合研究所の助手、講師、助教授を経て、現在バイオサイエンス学科動物発生工学研究室主任教授。主な研究テーマは「クローン」と「哺乳動物の単為生殖」。

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クローン技術の最先端研究が「生命」のふるまいを解きあかす

英国の体細胞クローン羊ドリーなどで「クローン」という言葉を、最近良く耳にするようになった。

「言葉が一人歩きしているかもしれませんね。クローン動物とは、自然では一卵性の双子などでしか見られない、完全に同じ遺伝形質を持つ生命体のこと。そしてクローン技術とは、単純に言えば、受精していない卵子に他の細胞の核を移植して、このクローン動物を得る技術のことなんですね。一般に遺伝子には手をつけない。野菜などで言われる遺伝子操作ではないのですよ」  

ニコニコと整理してお話しくださる東京農大の河野先生は、実はこの「クローン研究」の世界最先端を走る第一人者だ。論文が生物学で世界一の権威をもつ「Nature Genetics」誌などによく掲載され、河野研究室の研究には、農学分野だけでなく、医学や基礎生物学分野からも注目されている。


主な研究内容は二つ。「一つは、クローン動物が『なぜできるのか』を解きあかすこと」。クローンはもう現実にできてしまっているが、実は、なぜ、どうしてできるかの解明はまだだ。しかもクローン動物は、胎仔での死亡や奇形などの異常が非常に多いという。この異常がなぜ起きるか、つまり闇の部分を解明すれば、クローンの仕組み全体をあぶりだすことができる。  

そこで先生は、「遺伝子の刷り込み」(遺伝子の発現が精子と卵子由来のゲノムで異なるように調整する現象のこと)とクローンとの関係に目をつけた。この世界でも初めの試みが、クローン技術に新たな光を投げかけることになる。 「異常原因を究明することで、不確かな今のクローン技術をもっと確かなものにすることができるのです。追っているのは、仕組みが解き明かされないままに行われている“クローン”という生命現象の全体像です」と、先生は静かに語った。

生命誕生のメカニズムを探る

もう一つの研究の柱は、なんと「哺乳動物は、どうしてオスメスの両親がいないと生まれないのか」という素朴な疑問。進化上、哺乳類の前段階、鳥類までは、母親だけ、卵子だけで子供を作ることができるという。しかし哺乳類ではまったくできない。「これにもさっきの『遺伝子の刷り込み』、哺乳動物だけにある現象が係わっているのです」

これは哺乳類が、完全に母親の体内で受精を行い、子供を作る方法を取ったため、「お母さんは長期間お腹に子供を入れ、出産後も育てる。子供の成熟の確率は上がりますが、母体の負担はすごく大きい。それで母体保護のため、より頻繁に数多くの子供ができる方法である、メスだけの生殖という方法を捨ててしまったのだろうと思います」

しかし、河野研究室では、生まれたばかりの若いメスマウスの卵子の遺伝子の一部にフタをし、オス化したものに、別のメスの卵子をかけあわせると、何と最長出産三日前までマウスの胎仔を成長させることに成功している。「オスなし」でだ! 説明を聞くだけで知らず知らずに興奮してくる。それと河野先生のお話には、クローンということばから連想される、試験管の中だけの無機質な冷たさがない。

「クローン動物といえども工業製品ではなく、一個の“生命”です。生まれてすぐ死ぬような生命を大量に作るようなことはしたくない。私はそう思う。しかしまた一方で、先端の研究は小さな理屈や一時の倫理で規制すべきものでもない。そこから何が生まれるかは未知数なのですから。また研究者の好奇心はそんなことでは止まらない」と言う先生。 「私自身が知りたいのは、“クローン”という生命現象の全体像、それに哺乳動物の“生命発生システム自体の不思議さ”なんです」。

研究の支柱はハートの論拠

「自分なりの“出会い”や、発見までの“過程”こそが大切」という先生。農学を志望されたきっかけは、小学生の頃、白黒テレビに映ったアメリカの広大な牧場だった。「牛だ。牧場だ。牧場経営をしたい」。そう思ったという。  

夢を胸に農大に進むが、日本での大型牧場経営の難しさを知り、同時に「自分の視点で開拓する研究の面白さに取りつかれて」今日に至るまで、研究室指導は今年で14年目を迎える。河野研究室の専攻生には、そのまま大学院を経て、企業・研究機関の研究者となる人が多いことでも知られている。国や他大学など外部にまで広がる元河野研究室のネットワークは、地域を隔てて共同研究プロジェクトも行われている。  

しかし、「研究者でも独立心が大事。『自分の研究』でないと続きません。より先端的な研究をしようと思えば、資金さえも自力で交渉して獲得しなければならない。そういうとき、自分の支えになるのは、自分はなぜこれをしているかという“ハートの論拠”。理屈ではないのですね」

こんな生徒に来てほしい

たとえ幼くてもいい、自分なりの発見や、途中の過程こそが大切なのです。そういう意味では、常識でいっぱいの人ではない方が、発見の楽しみを多く味わえるかもしれませんね。

研究室では、基礎的なことでも「なるべく教えない」のをモットーにしています。自分で感じた疑問は宝なのだから、「簡単に人に聞いてしまうな」と口うるさく言いますね。

一生のうちで学生のときにだけある豊かな時間は、実体験の面白さを味わうためにあります。来てくれれば、環境は提供します。小さなことでも「自分で」発見する喜びを知ってほしい。小さい頃から気になっていたこと、好きだったこと、むしろささいなことの方が、進路を決めるのに大切なのかもしれません。情報過多ですが、自分の本当の興味は何か、もう一度考えてみることも大切です。何か新しいものを作りたいと思う人は、特にそうでしょう。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。