早稲田塾
GOOD PROFESSOR

慶應義塾大学
文学部 人文社会学科 英文専攻

唐須 教光 教授

唐須 教光(とうす・のりみつ)教授
1942年広島県生まれ。64年慶應義塾大学文学部哲学科卒。68年東京大学教養学部教養学科卒。70年米ブラウン大学修士課程修了。73年米エール大学博士課程修了。77年広島大学総合科学部専任講師。78年同助教授。80年慶應義塾大学文学部助教授。85年より現職。

主な著作に『文化の言語学』(勁草書房)、『文化記号論』(共著・講談社)、『なぜ子供に英語?――バイリンガルのすすめ』(NHK出版)などがある。

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英語を中心にした言語と文化についての総合的研究

唐須キャンパスのある慶應三田キャンパス研究室棟

JR山手線電車内の液晶モニターで流されている「英語でシャベリオーネ」という英語豆情報があるが、目にしたことのある高校生諸君も多いだろう。この情報の監修をしているのが、今回紹介する慶應義塾大学文学部教授の唐須教光先生である。

先生の研究領域はすこぶる広い。ざっと列挙してみると、言語人類学・意味論・社会言語学・日英語対照研究・異文化コミュニケーション・バイリンガリズム・現象学的言語学、さらに意味の生成、ことばの民族誌、そして認知学まで。

大学から米国での大学院時代にかけては、哲学・文化人類学・言語学などを学んできたという唐須先生だが、何がこれだけ多様な研究に向かわせているのだろうか。

私の専門は、英語を中心にした言語と文化の関係についての研究になります。いろいろな研究分野があがっていますが、私の中ではひとつにつながっていることを研究しているだけなんです」

多様な研究のなかから、高校生諸君にも関心のありそうな研究テーマについていくつか話してもらった。まず、バイリンガリズムから―。

ピタリと対応する外国語の単語などないう

新緑が美しい三田キャンパスのオオイチョウ

「ふつうバイリンガルについては、2つの言語の習得が中途半端になる、あるいはアイデンティティーがあいまいになるなどのマイナスの要因を指摘されることがあります。しかし、2ヵ国語を獲得する過程で、その相乗効果によってむしろ言語意識は高まることのほうが多いことがわかっています」

「またアイデンティティーについても、国籍的なアイデンティティーはともかく、ふだんの生活で国籍を意識することは普通ありません。それよりも自分にとって重要な要素は何であるのかなどを意識するわけで、アイデンティティー自体に2ヵ国語使用者であることは何ら影響していないのです」

帰国子女で日本の大学をめざす人や国際的バイリンガルをめざしている諸君には、心強いお墨付きになる言葉だろう。 もうひとつ意味論については――。

「2つの言語たとえば英語と日本語を比較しても、同じ意味でピタリと対応する単語はありません。たとえばdogと犬についても、dogには本来の『犬』のほかに『羊の番をする』『猫と仲が悪い』といった意味もあります。しかし、日本語の『犬』にはそうした意味はなく、『犬猿の仲』といって猿と仲が悪いことになっています」

「あるいは日本語で『がんばって』は、英語では“Take it easy”とまったく逆の表現になります。英語にかぎらず外国語を学ぶときには、つねに違う意味が内包されていることを考えておかなければなりません」

そうした言語の基本的相違に留意して学ぶことが、言語に対する感受性を豊かにするとも語る。

どんな研究テーマを立てても研究に没頭できる

図書館旧館ホール内にある「ペンは剣よりも強し」のステンドグラス

慶應義塾大学文学部に入学すると、1年間は全員が総合教育科目を学び、2年次からそれぞれの専攻に分かれて専門分野を学ぶことになる。そこで用意されている専攻は17にものぼる。唐須先生はこう語る。

「慶應といいますとマンモス大学でマスプロ教育をイメージされるでしょうが、文学部は専攻が17にも分かれていますから、どの専攻も少人数制クラスで授業が行なわれています。また履修科目の自由度が高いのも特徴です。専攻の必修科目以外は、学生の興味に応じて専攻外の科目も履修できるようになっています」

ゼミ演習をとれるのは3・4年次の学生。唐須ゼミの定員は例年10人で、ゼミは3・4年次合同で開かれる。基本的には3年次から卒論を見据えたテーマを設け、それぞれが個人研究を行なう。 指導する唐須先生が研究領域の広い先生だけに、ゼミ生の研究テーマも多種多様らしい。英語学プロパーの多義性の記述研究をはじめ、日英言語の比較や言語人類学・社会言語学・英語教育論・異文化コミュニケーション研究等々である。

なかには研究領域が広いはずの唐須先生の専門分野から外れるような研究テーマもあるそうだが、それでも原則OKだという。

「たとえばインドにおける言語政策ですとか、シンガポールにおける英語と中国語との関係などを研究テーマにする学生もいます。こうした私の研究範囲を越える研究には、それを専門にしている教員にも手助けしてもらっています。学生がどんな研究テーマを立てても、それを専門にしている教員が必ずいる。それが慶應文学部の特徴でもあります」

自由度の高い慶應文学部にあって、さらに自由度の高い唐須ゼミ。本当に自分の関心があるテーマに向かって、学生が研究に没頭できる環境がここには用意されている。

本当の自分を探し出せる環境がそこにある

唐須ゼミの伊豆合宿での1コマ

「私のゼミ生には、卒業してからまた大学に入り直すという人もいるんですね。医学部や歯学部・法学部などに入り直したり、なかには神学部に進んだ人もいました。ですから、ゼミOBには医師や歯科医師・弁護士・牧師までもがいます」

「こういうふうに、人生を焦って決めないような生き方はいいことだと思っています。文学部で学ぶ4年間で本当の自分を探し出して、また別の大学・学部で学ぶ。それで、文学部で学んだことが無駄になるわけではありませんから」

懐の広い唐須先生の教えを受けて、人生をしっかりと大きくとらえた若者たちがどんどん巣立っている。

唐須先生は2004年度から土曜日の夕方に特別講義をはじめた。高度で大部の英語文献を1年間かけて精読するという講義で、学部学生を対象にしたものだという。

「土曜日の夕方といえばアルバイトやデートなどで忙しい人も多いのでしょうが、それでも7人の学生が受講してくれています。講義は全員が納得するまでやっていますから、毎回夜の7時・8時までかかっていますが、全員ほとんど休まずに参加してくれています。いまどきの若者にもすばらしい人はじつに多いですね」

受講している学生たちもすばらしいが、教えている唐須先生の熱意もまたすごい。この特別講義のために、毎週週末の貴重な時間を先生自身も過ごしているのだ。学生指導に懸ける熱情が伝わってくる。

こんな生徒に来てほしい

正直いって、高校時代で全エネルギーを使いはたしてしまったような人には来てほしくないですね(笑)。好奇心が燃えるように旺盛で、やりたいことをいっぱい持って大学に来る人がいいですね。それに慶應の教員をしながら言うのも何ですが、大学の選択では日本国内の大学にこだわる必要はない気がします。学問に国境はありませんから、海外の大学にもどんどん出ていってほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。