早稲田塾
GOOD PROFESSOR

一橋大学
大学院 法学研究科

田中 孝彦 教授

田中 孝彦(たなか・たかひこ)教授
1958年岐阜県生まれ。82年早稲田大学政治経済学部卒。84年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。90年英ロンドン大学大学院博士課程修了。91年一橋大学法学部専任講師。93年同助教授。98年より現職。(2007年4月1日に早稲田大学に移籍されました。)

主な著作に『日ソ国交回復交渉の史的研究』(有斐閻、吉田茂賞・大平正芳記念賞受賞)、『講座世紀間の世界政治 第5巻』(共著、日本評論社)、『日英交流史 1600-2000政治外交』(共編著、東京大学出版会)などがある。

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戦争原因を分析して平和の構築方法を探る

田中研究室のある磯野研究館

一橋大学法学部はすでに半世紀以上の歴史を有し、これまでに法曹界はじめ外交官や官僚・国際関連機関・私企業などに幾多の人材を輩出してきた。同学部で教べんをとる田中孝彦教授はその特徴を次のように語る。

「一橋は大学自体が小ぶりですから、どの学部も教官と学生のあいだが非常に緊密な関係になっています。法学部も少人数制のゼミで、法律の基礎から専門までが体系的・段階的に学べるのが特徴です。さらに法学部では国際関係の講座が充実しています。その専門の教員が7人もそろっていますから、ここでの研究と教育は世界水準だといっていいですね」

田中先生はその国際関係の先生のひとり。専門は「国際政治史」と「国際政治学」である。

「世界史における国家間の政治・外交の歴史に焦点をあてて研究するのが、国際政治史であり国際政治学になります。このうち私が研究しているのは、戦争と平和の歴史的な展開についてになります。なぜ戦争は起こるのか原因を分析していくことで、逆に平和の構築の方法が導き出されるのではないかという観点から研究しています」

日本国憲法理念に現実が近づきつつある

一橋大学国立キャンパス正門

その戦争と平和の研究において、田中先生の主要テーマは3つある。

「第1は戦後日本外交の展開のなかで、核兵器がどう扱われてきたかという問題。世界で唯一の被爆国である日本が、これまで核兵器とどう向き合ってきたかを検証し、これからのあり方について考える研究です」

「第2は第2次世界大戦後に世界で展開していた冷戦構造の解明です。冷戦は終焉したといわれますが、ではいま我々はどういう秩序のなかにいるのか非常にわかりにくい。これは冷戦の構造がきちんと解明されていないからです。そもそも冷戦構造とは何であったのか、その全体像をとらえる研究をしています」

「3つ目は国際政治の秩序は17世紀に整ったとされますが、それが現在までどのように変化してきたのかを研究しています」

田中先生は、よく通る声で非常に整然とした説明をしてくれる。論理的できちんとした人柄とお見受けした。第2の研究テーマのポスト冷戦構造について、田中先生は次のように分析してくれた。

「冷戦構造というのはアメリカやソ連に代表される大きな力(軍事力)を持つ超大国が、ほかの国を縦の関係で支配した時代です。冷戦が終焉した現在は横のつながりが重視される時代になっています。EU(欧州連合)はそのいい例ですね。日本を含めた北東アジア共同体の構想もはじまっています。これからはそうした地域統合が盛んになっていくと思われます。ただアメリカだけは、まだ力による支配を信じているようですけどね」

また、昨今何かと議論されている日本国憲法改正の是非について、次のような明快な見解を語ってくれた。

「これまで国際秩序は戦争と平和の繰り返しで維持されてきました。しかしそれを幾度か経験したことで、戦争が起こる仕組みからは徐々に脱却しているのではないでしょうか。つまり、世界の現実のほうが日本国憲法の理念に近づきつつあることになります。改憲論者は憲法と現実の解離を訴えますが、軍事力の行使が実際には減っているわけですから、その訴えは意味をなしていません」

シビアに鍛え合う道場としてのゼミ演習

一橋大学のキャンパス風景

一橋大学法学部のゼミ演習は3・4年次の学生が対象となる。田中ゼミでも例年10~12人のゼミ生を受け入れているという。

「はじめの2ヵ月ほどかけて、田中ゼミのモードに慣れてもらいます。慣れたところで、英文の本格的なテキストの文献講読に入ります。ノルマは週40ぺージ。かなりハードなノルマですが、全員が何とかついてきています」

さすがに一橋の学生のポテンシャルは違うということか。ゼミは「道場」であるというのが、田中先生の考え方でもあるらしい。

「集まった全員がそれぞれシビアに鍛え合う場がゼミです。ゼミ生の発言のなかに論理的に筋道の通らないものがあれば、私も介入して容赦なく反論します。私が介入すると、本当に容赦ないですよ(笑)」

「道場」であるからは、他大学ゼミへの道場破り(対抗ゼミ)も盛んに行なう。これまでほとんど負け知らずで連戦連勝だという。 「鍛えられ方が全然ちがいます」

と田中先生。なお、田中ゼミの研究テーマはここ数年「冷戦の歴史」だそうだ。

「常に闘う」こそが田中ゼミのモットー

その田中先生の学生たちに対する指導方針については次のように語る。

「謙虚にチャレンジしていく精神を育てたいです。謙虚というのは、控えめとか卑屈ということではありません。ここでいう謙虚とは、自分でわからないこと自分の考えが及んでいないことにぶつかったとき、それを知るために前向きにチャレンジする姿勢のことです。それには常に闘うモードでいることが大切です」

この闘う姿勢こそが、いまの田中ゼミのモットーでもある。最後に、国際政治史・国際政治学を学ぶことの意味について話してもらった。

「世界の政治史や国際政治の知識をきちんと身につけるということは、現に起こっている地球規模あるいは全人類規模の問題について、その解き方を知るということになります。ほとんどの高校生諸君は、何のために世界史を学ぶのか理解しないまま丸暗記させられているのではないでしょうか。歴史の知識というのは、いま生きている自分のために使うものです。私の講義やゼミでは、そのことを教えてあげられると思います」

こんな先生に身を預けて、大学の4年間みっちり鍛えてもらうのもいいかもしれない。田中先生のほうも手ぐすねを引いて有意の学生たちを待っている――。

こんな生徒に来てほしい

自ら努力することに自信のある人ですね。つまり、いまの自分の能力に自信がある人より、自分を鍛えるのにひるまない自信のある人です。私のほうも、鍛えてほしいという学生を失望させないだけの自信と覚悟は一応あります(笑)。それから、自分を狭い殻に閉じ込めたくないと思っている人にも来てほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。