早稲田塾
GOOD PROFESSOR

一橋大学
大学院 社会学研究科 地球社会専攻

足羽 與志子 教授

足羽 與志子(あしわ・よしこ)教授
1957年静岡生まれ。社会学博士号(一橋大学)、文化人類学。80年大阪大学人間科学部卒。86年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。95年一橋大学社会学部助教授。02年同大学教授。米ハーバード大学・米コロンビア大学・厦門大学(中国福建省)・コロンボ大学(スリランカ)などで客員研究員。

主な著作に『アメリカが語る民主主義』(共著・ミネルヴァ書房)、『聖地スリランカ――生きた仏教の儀礼と実践』(共著・NHK出版)、『民族の生成と論理』(共著・岩波書店)がある。主な著作に『日ソ国交回復交渉の史的研究』(有斐閻、吉田茂賞・大平正芳記念賞受賞)、『講座世紀間の世界政治 第5巻』(共著、日本評論社)、『日英交流史 1600-2000政治外交』(共編著、東京大学出版会)などがある。

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文化人類学はとても魅力的な学問です

2004年4月スリランカ選挙監視時スナップ

一橋大学には国立大学では唯一ここだけという「社会学部」がある。ただ、ここで研究されているのは狭義の社会学だけでなく、もっと広い領域に渡る社会科学研究となる。

「この学部では社会学のほかに、社会人類学や歴史・哲学などの広い分野も網羅して、社会科学全般を扱っています。幅広い視点から社会の状況をとらえ、理論を深めながら実践的な対応ができる人材の育成を目的にしているんですね」

そう語るのは同学部教授の足羽與志子先生である。ほかの学部のように特化したひとつの分野について学ぶのではない。そのため卒業後は、行政はじめ国際機関・NGO・マスコミなど幅広い活躍ができるのも特徴だと語る。

その足羽先生の専門は「文化人類学」。2004年度の講義科目は「文化と政策」「紛争と平和」だという。

「大きな意味で申しますと、新しい価値を運ぶ社会制度や組織の生成に関心がありまして、それを文化人類学の視点から研究しています。現在、研究対象にしているのはスリランカが中心となります。それに中国や東南アジア・北米・日本などで調査を行ない、文化のシステムがどのように実践問題に関係しているかを研究しています」

民族紛争でゆれて和平構築に向かいつつあるスリランカの文化人類学的研究については、足羽先生は日本における第一人者の立場にある。

自由に社会を見て検証できる基軸を養う

足羽研究室のある「磯野研究館」

「スリランカは小さな国ですが、いま世界中で起きている諸問題が箱庭的に凝縮されています。それまでの社会主義体制から資本主義体制に代わって、国際資本が入ってくるようになり、経済体制はたいへん混乱した状況になりました。それに加えて、民族紛争やテロリスト問題・宗教対立なども抱えました。そのスリランカが、20年間の暴力の歴史を絶って、いま再生しようとしています。ここでの問題は世界各地の諸問題と通じるところもあります」

その「厳しい国」に足羽先生は繰り返し赴いては、文化人類学的なフィールドワーク調査を重ねてきた。はじめはカーストの低いとされる人々とも生活を共にしながら、ここ数年は地元の大学の協力を得ながら、暴力の記憶や平和に対する意識調査を始めている。そのなかで、現地における平和関係のラジオ番組の政策や新聞への意見公示など、和平プロセスへの参加活動も行なっているという。

「スリランカから紛争がなくなり、人々に幸福がもたらされるためにはどうすればいいのか? それがいまの基本テーマです。インフラの整備が援助のファースト・エイドであることは理解できますが、そうしたものは紛争が再発すれば瞬く間に破壊されてしまいます。紛争の再発防止と平和構築につながる援助こそが重要です。そのためには、人づくり・コミュニティーづくりの環境を整えることだと思っています」

足羽先生は、見るからに物静かな雰囲気を醸し出す方とお見受けした。その先生がたったひとりで動乱の現地に分け入り、人々と生活を共にしながら現地調査にあたるというのだ。

「文化人類学ではフィールドワークこそが基本ですから」

先生は事もなげにそう言った。そのつつましやかさの裏には、相当にタフな精神力と決断力も潜ませているに違いない。

文化人類学の楽しさは一生味わえるもの

長い伝統を誇る一橋大学の本館

一橋大学社会学部のゼミ演習は3・4年次の学生が対象である。足羽ゼミでは、例年3・4年次合わせて10人前後のメンバーになる。ときには大学院とも合同のゼミを行なう。

「ゼミでは、私が研究しているテーマの問題意識を共有してもらうことがまず基本になります。そこから、ゼミ生たちには研究テーマを立ててもらいます。その研究は3年生から始めて、卒論につながっていきます。卒論で終えてしまうのではでなくて、そのまま一生を懸けた研究テーマにする人も多いですよ」

足羽ゼミでは3年次の前期3ヵ月間は文献講読に充てられ、ここで社会科学の研究手法の基本を学ぶ。

「文献を正確に読みこなせない人は、感覚や直感だけで発言してしまいます。社会科学の研究では論理化・言語化されていないものは認められません。ですから文献を繰り返し読み、研究の基本を身に付けることからすべて始まるわけです」

「私のゼミに来てくれる学生というのは、指向性や姿勢が私と共にしてくれる仲間と思っています。私も日々学んでいるところなので、まず私のやり方を的確に見てからなにかを学んでほしいですね。もちろん私の力でできる限りのサポートをしたいと考えています」

このように、学生たちへの指導方針について語ってくれた。今後は、現役ゼミ生やNGOの若者たちを先生のフィールドワークの場に同行させることも検討中だという。

「文化人類学には学ぶ楽しさがあり、その楽しさは一生味わえるものです。フィールドワークにしても、まずは気軽に楽しみながらやれば良いと思います。けれど真摯に他者とかかわっていくうちに、必ず人間性の深い関心や社会への疑問が起きてきます。机上だけのことに終始することが多いほかの学問分野と違って、人々と深く接することで人生の滋味にふれることもできます。文化人類学は、深くつきあうほどにとても魅力的な学問ですよ」

そうサラリと言う足羽先生。ご自身も、気張らず気取らずステキな先生だ――。

こんな生徒に来てほしい

多少荒削りでも構いません。社会への疑問や問題意識をもち、自分の目と足で確認しようとし、感性と論理的思考を備える志の高い若い人に可能性を感じます。受験生のみなさんの前には受験というハードルがあり、そのための“脚力”のトレーニングは現実に必要なんでしょう。でも、視線だけは足元のハードルだけに落とさないで、もっともっと先を見ていてほしいと思いますね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。