早稲田塾
GOOD PROFESSOR

お茶の水女子大学
生活科学部

戒能 民江 教授

戒能 民江(かいのう・たみえ)教授(学部長)
1944年中国旧満州生まれ。67年早稲田大学第一法学部卒。73年同大学院法学研究科博士課程修了。東邦学園短期大学教授をへて、99年お茶の水女子大学生活科学部教授。2004年同学部長。

主な著作は『フェミニズム法学』(共著・明石書店)、『ドメスティック・バイオレンス』(不磨書房・02年山川菊栄賞受賞)、『ドメスティック・バイオレンス防止法』(編著・尚学社)など。

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当事者・被害者に耳を傾けるジェンダー法学

大学正門から続くイチョウ並木

お茶の水女子大学生活科学部長の戒能民江先生は、学部長のほかに、学内ではCOEプログラム拠点リーダーと教授も務めている。さらに学外でも、政府・自治体の委員やNGOの委員を務めるなど超多忙の日々を送っている。その多忙なスケジュールを縫って取材に応じてもらった。

まず、2004年4月に学部長に就任した生活科学部について聞いた。

「そもそもは家政学部から発展した学部です。家政というと実用のイメージが強いのですが、それを生活者の視点から総合的に科学する学部に発展させたものです。我々の生活にとって身近な食品にしても環境にしても、国家を超えたグローバルな問題になっています。こうした問題に自然科学や人文科学、それに社会科学の3つの視点からアプローチしていく学部です」

04年4月から生活科学部は「食物栄養」「人間・環境科学」「人間生活」の3学科に改組され、生活を科学する学部としての充実が期待されている。

DVや女性の人権問題の現場にこだわる

伝統を誇るお茶の水女子大学生活科学部

さて、戒能先生の専門はジェンダー法学で、女性に対する暴力であるDV(ドメスティック・バイオレンス)や女性の人権問題について研究している。

「DVというのは、夫とか恋人という親密な関係にある人が相手の女性を暴力でコントロールすることをいいます。日本では1992年に最初の調査が行なわれ、私もそのときから参加しています。DVは非常にむずかしい問題を含んでいて、加害者に暴力をふるっているという認識がなかったり、暴力をふるわれるのは被害者も悪いといった認識、あるいは特殊な個人の問題とされてきた背景などがあります」

こうしたDV問題には法律のあり方などの面から取り組むのがまず本筋だ。一方で戒能先生は、この研究には実践運動が不可分であるという信念から、支援のNGO活動の先頭に立ち、政府や自治体の委員も積極的に引き受けている。

「こうした問題は現実に敏感でないと研究できません。政策への有効な提言も、当事者やNGOの意見がとても重要になります。そうした現場の声を拾いながら、現場の人といっしょに運動し研究していく。それがわたしの学問の特徴ですね」

「ジェンダー研究のフロンティア」COEプログラム

2000年の戒能ゼミ伊豆夏合宿のひとコマ

戒能先生のもうひとつの研究テーマはジェンダー研究であるが、こちらは21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」で展開されている。21 世紀COEプログラムというのは各大学の世界的な研究プロジェクトを文部科学省が支援助成する制度で、お茶の水女子大では2つのプログラムが進行中だ。

そのひとつジェンダー研究の拠点リーダーを務めるのが戒能先生なのだ。まず、ジェンダーとは何かから説明してもらおう。

「ジェンダーとは、〝男らしく〟〝女らしく〟とか〝男の仕事〟〝女の仕事〟のように、生物学的な性差である男と女とは別に社会や文化がつくりだす性別をいいます。この問題は男女間の問題だけではなく、性同一性障害や同性愛の人たちもその規制を受けています。また、男性自身がジェンダーの縛りを受けているともいえます」

そうした刻印された貧困なジェンダーをなくし、それぞれが平等である社会の実現をめざすのがジェンダー研究になる。その研究拠点として立ち上げられたのがCOEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」になる。

「非常に学際的なプロジェクトになっていまして、社会科学をはじめ文学・芸術・経済の専門家まで集まって、科学技術論や生殖技術・経済・文化・労働問題までをジェンダーの視点から研究しています。いまジェンダーの問題は国境を越えています。日本のジェンダーはアジアの国々に深くかかわるようになり、アジアと日本を分離した視点はもはや通用しません。新しいアジア認識に立って、世界に向けた発信ができる研究成果を出したいと考えています」

なかなかに壮大な研究プロジェクトで、その成果が注目される。なお、COEプログラムには若手研究者の育成という目的もある。大学院博士課程履修者とポストドクターの人をプログラムスタッフに採用して給与を支払い、また研究に対して奨学金を支給するなどの経済的支援を行なっている。

もっと自分のやりたいことを

生活科学部のゼミは3・4年次の学生が対象で、戒能ゼミでも例年5~10人ほどのゼミ生を受け入れている。ゼミは通年のテーマが戒能先生から出され、それに沿って研究が進められる。ちなみに、2004年度は先生の新著「『フェミニズム法学』を読む」をもとにゼミ演習が進められている。

とはいえ、もともと実践派の戒能先生である。ゼミではなるべく大学施設を飛び出して、外で実地に学ぶのを方針にしたいと話す。これまでに国会の議員会館や家庭裁判所・DV支援団体・NGOなどに出向いている。

「本当はもっと出かけて外の世界にふれさせてあげたいんですが、学部はほかの講義の時間割とぶつかりますから、思うように出かけられないのが残念です。出かけられない代わりに、ゲストを招いて話を聞いたりする機会を増やすようにしているんですが……」

おしまいに、その学生たちへの指導方針を語ってもらった。

「学生には常々『自分のやりたいことをやったほうがいい』と言っています。研究の方法などベーシックなところはこちらで教えてあげられますが、何をやりたいのか自分でわからないのでは困ります。自分の関心のあることがいちばん一所懸命になれるわけです。」

「最近の学生を見ていますと、ものの見方が狭い人が多いように思われます。物事ににはいろんな見方があることを知ってほしいです。とくにジェンダーやDVでは、どの視点から見るのかが重要になります。そうしたものの見方や自分で調べ考える力をつけてほしいと思っています」

こんな生徒に来てほしい

まぁ、だれが来てくれてもいいですよ(笑)。学ぶ意欲があって、学ぶことが楽しいと思える人。自由に自分らしく生きたいという人。夢をもっている人……。人間はどんどん変わっていく可能性をもっていますから、どういう方が来てくれてもいいと思います。ただ、10代後半の17歳・18歳は自分の内側に向かう時期だとは思いますが、少しは社会のことにも関心を向けてほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。