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GOOD PROFESSOR

お茶の水女子大学
子ども発達教育研究センター

酒井 朗 教授

酒井 朗(さかい・あきら)教授(センター長)
1961年神奈川県生まれ。84年東京大学教育学部教育学科卒。91年同大学院教育学研究科教育学専攻博士課程単位取得退学。92年南山大学文学部講師。 95年同助教授。97年お茶の水女子大学文教育学部助教授。03年同大学子ども発達教育研究センター助教授。03年同教授。04年より現職。

主な著作に『教育の社会学』(有斐閣)、『電子メディアのある「日常」』(学事出版)、『LEARNING TO TEACH IN TWO CULTURES』(米国出版社より刊行)などがある。 ※子ども発達教育研究センターのWebサイトのURLアドレス:http://www.kodomo.ocha.ac.jp

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いまこそ「教育臨床の社会学」の出番

お茶の水女子大学の前身は東京女子高等師範学校で、創設は1874年(明治7年)。以来、多くの女性教育者の輩出とともに、教育研究の分野でも中心的な役割を果たしてきた。学内にはいくつかの研究機関が設けられているが、そのひとつに「子ども発達教育研究センター」がある。2004年4月から2代目センター長に就任した酒井朗教授はまずこう話してくれた。

「研究センターが設立されたのは02年4月で、現在は、<幼児教育・子育て支援>、<学校教育支援>、<教育みらい開発>、<子ども幸せ>の4部門で運営されています。具体的な活動としては、教育政策への提言、現職保育士や教師を対象としたワークショップ、それに学校教育に関する実践的調査や地域の学校への支援活動などがあります」

子ども発達教育研究センターの活動でユニークなのは、大学が立地している地域への貢献をうたっていることだ。たとえば地域に向けたワークショップの開催、不登校児童や生徒のサポート支援、インターネットを使った子育て相談や子育て情報の提供など。さらに酒井先生が直接かかわっている地域貢献にはこんな活動もある。

「都内の商業高校などに学生ボランティアを送って、大学進学をめざしている生徒の進路相談にのったり、進路情報の提供、学習指導をするなどの支援をしています。こうした高校は偏差値的に低い学校が多く、ともすれば希望を見失いがちになりますが、少しでも希望を与えられたらという思いでやっています。こういう学校ではひとりでも大学進学の実績ができますと、翌年からは多くの生徒さんが『先輩が行けたのだから』と参加してくれたりするんですよ」

まさに生徒たちに希望の灯をともし続けているわけだ。いい話である。

教育現場でいっしょに解決への道を探る

酒井先生の話はよどみがなくて、次から次へと繰り出されてくる。それだけ教育への熱き思いをたぎらせているからだ。その意味でも、同研究センター長就任はまさにうってつけだったといえよう。その酒井先生の専門は「教育臨床の社会学」である。

「臨床を英語でいうとclinicalですが、これには冷静にという意味も含まれています。さまざまな教育的事象について問題解決を図りながら、その一方で冷静に問題を見つめ吟味する。それが教育臨床の社会学なのです」

いまの日本の教育現場には問題が山積みしている。その解決を図るためには、教育臨床の社会学こそが重要だと酒井先生は唱える。

「これまでの教育学は『教育とは?』『子どもとは?』など哲学的あるいは思索的な議論の展開が中心でした。教育の現場で起こっている問題についてあまり顧みられない傾向がありました。いま教育をめぐる問題が多発しているなかで、教育学者があまり有効にアプローチできないでいるのはそうした背景も考えられます」

「もうひとつ。教育社会学についても批判を述べますと、この分野は実証的データから教育問題の背景を説き明かしてきました。しかし往々にして問題の所在の指摘にとどまり、解決への道を示せないケースが多い。研究者が現場に参加していっしょに解決への道を探るということもあまりありません」

「いま教育の場が求めているのは、研究者も現場に入って、現場の人たちとともに考えていくスタンスです。それができるのが教育臨床の社会学ということになります」

先に紹介した商業高校での支援活動などは、その好個の例だという。酒井先生は教育について熱っぽく語りつづけた。

単に教育を分析するだけでは不十分

さて、子ども発達教育研究センターのセンター長を務める酒井先生だが、その傍ら学部でも2つの講義をもって教えている。

「学部では『生徒指導の研究』と『青少年指導文化論特殊講義』という授業を担当しています。前者の生徒指導の研究は、教職に就く人に生徒指導について教えるものです。ただ、この分野には体系づけられたものがないので、ビデオ教材などを活用しながら、それぞれのケースにおける対応を学生自身に考えてもらうようにしています」

「後者の青少年指導文化論特殊講義はインターンシップの試みです。本学の特徴は、保育所と幼稚園・小学校・中学校・高校までの附属学校が同じキャンパス内にあることです。これらと学生を結びつけられないかと考えて2004年度から始めたものです。インターンシップは年間30時間で、それぞれの学校に学生が手伝いに行きます。ほかに演習形式の授業もとり入れて、児童や生徒についてあるいは教員の仕事内容を理解してもらう試みにしています」

附属の学校だけでは学生の受け入れに限度があり、実際には近くの公立中学や高校などにも協力してもらっているそうだ。このインターンシップで学生たちは、中学校ではクラブ活動や補習授業・教員業務などを手伝い、高校では海外からの留学生の補習授業の手伝いなどを行なう。そして教育実習とは違った面からの学校体験をすることになる。 「2004年度から始められた試みで、毎年15名程度の学生が参加しています。 教職をめざしている学生には、こうした機会を何らかのかたちで提供していきたいですね」

この教育研究に熱心な酒井先生は最後にこう結んでくれた。

「教育というのは子どもを育てるという営みです。ですから、育てる側に強い希望や理念がないとなりません。いまは希望や理念を持ちにくい時代だともいわれます。しかしこうした時代状況のときこそ、教職をめざす人こそ、長短期の目標や希望、理念や理想を持ちつづける必要があります。人を教育するのに必要なのは、一方ではクールかつ冷静でありながら、一方では教え学ぶという営みへの熱い思いをもつこと。それが一番大切だろうと思います。そうでないと、単に教育を分析するだけになってしまいますからね」

こんな生徒に来てほしい

■教職をめざしている人に
この世界をめざすためには、いまの高校生活でいろいろな体験してきてほしいですね。豊かな体験をすることが、人に教えていくうえでの大きな糧になります。それは学校に適応した体験ばかりでなく、いろいろ悩んだり真剣に考えたりした体験のほうが大きな土台になります。単純な受験勉強だけではない経験の広がりが、その後の大学生活でどこまで深く学べるかを規定すると思います。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。