{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

お茶の水女子大学
大学院 人間文化研究科 発達臨床心理学コース

青木 紀久代 助教授

青木紀久代(あおききくよ)助教授 1963年山口県生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士課程修了。1999年より現職。

主な著作に『拒食と過食』(サイエンス社)、『調律行動から見た母子の情緒的交流と乳幼児の人格形成』(風間書房)、『子どもを持たないこころ』〈共著〉(北大路書房)など多数。

  • mixiチェック

よりよく生きるためのカウンセリングを追求する

青木先生の研究室の学生。話し合いを中断してみんな笑顔で撮影に応じてくれました。

かつて拒食症や過食症などの摂食障害の患者を診療内科でカウンセリングしていた青木紀久代先生は、これを学校教育の場で予防的にアプローチしようとしたとき、従来の心理学や医学のアプローチに限界を感じたことがあったという。

「なぜ摂食障害になったのかを、多くの心理学や医学の研究では患者さんの中に答えを求めようとします。健康な人と不健康な人を比べて異なった部分を問題としますから。でも社会的な問題を個人が背負っていると考えたとき、そうした方法論が必要十分ではないように感じたのです」

そもそも心理学は科学性を第一とする学問である。価値判断や政治的判断を挟むわけにはいかない。だからこそ学問としても実践としても大きな功績を残してきた。その一方で社会的問題に対処できない場合も少なくない。

例えば親元から自立しないパラサイトシングルを取り上げた場合、親離れできない青年の気持ちを問題にしても、フリーターを余儀なくされる社会状況にはさほど注目しない。しかし社会のひずみが個人に表れていると考えると、個人の心理だけではなく、もっと幅広い視野が必要になるといえないだろうか。

青木先生は女性の生涯発達の中に生じるさまざまな心の問題に、心理臨床的な視点でアプローチしている。その研究の大きな柱は3つ。妊娠前日から母子の関わりを観察し、インタビュー調査を続ける乳幼児期の心理臨床研究、乳幼児期の母子に対する子育て支援、そして学校のメンタルヘルスである。この3分野のすべてにおいて、先生は社会的な問題の改善にまで対応できる心理臨床を追求している。
例えば子育て支援は、フィリピンのスラム街にまで活動場所が広がっている。 「これまで地道な活動を続けている日本のNGO団体と協力して、どうすれば母子の心の支援をできるか研究しています。研究費用のある間だけアプローチして、支援した子どもたちが20年後にも同じ状況でスラムにいるしかないとしたらどうでしょうか。やはり地域の知的財産となる永続的な援助システムをつくりたいと思うのです」

スラム街や難民キャンプなど恵まれない環境では多くのNGO団体が活躍しているが、住民の精神面までは援助できていない。しかし劣悪な環境を変えていくためには、そこの住民の精神的な充足も必要だろう。未来に希望を抱けない状況で、自らの環境を変えることは難しいからだ。

「研究者の海外交流は大学人同士が集まる場合が多くて、なかなか『現場』に届いていないと感じることも多いんです。でも、このプログラムは、現地で活動を続ける支援者のところへ直接合流します。私もTシャツ1枚で現地を歩き回っています。やりがいを感じますよね。このフィールドワークによって、現地の住民だけでなく私も学生も成長していきます。『育ちあい』です」。

新しいスクールカウンセラー像を提示したツール

歴史を感じさせる生活科学部の校舎に青木先生の研究室がある。

学校のメンタルヘルスの研究では、選択肢を選んで回答していくことで心の健康状態がわかる生徒用のアセスメントツールを開発している。

「本当に病気の子どもたちは学校には来られませんよね。つまり先生やスクールカウンセラーは、病気ではないけれどまったく健康といえない子どもたちの様子を見守りながら、そばにいる必要があるのです。アセスメントツールは、先生が生徒の状態を把握できるのと同時に、自分の心の状態を生徒自身が知ることになるので、心の病気の予防につながります」

小学生から高校生まで使えるそのツールは、これまでのスクールカウンセラー像を進化させるという。現在のカウンセリングは1人の患者に1人のカウンセラーがつき、長い時間をかけて治療しているイメージが強い。しかしアセスメントツールを使ってスクールカウンセラーが教師をフォローアップしていくことで、生徒の相談を1度も受けることなく心の危機を回避できる可能性も出てきた。また、生徒自身が自分の心に危機を認識することで、カウンセリングを自主的に受けられるようにもなるという。

子どもは成長によって心の危機を乗り越えることも少なくない。だからこそ「病気だ」という余計なレッテルを貼らずに、静かに見守り、しっかりとフォローしていくことが重要になる。そうしたスクールカウンセラーを生み出すために、このアセスメントツールは大きな役割を担うことだろう。

学問と生きることを行ったり来たりする学問

お茶の水女子大学の正門には、付属の高校や小学校の生徒の姿を見かける。さまざまな年代が集う環境は、発達臨床心理学を学ぶ上でも最適の環境だという。

「『学問していること』と『生きること』は違います。臨床はその2つを行ったり来たりしているんですよ」と、先生は語る。本当に人がよりよく生きるために臨床心理は何ができるのか。そうした問いを発し続けながら研究を続けている。そして学生にも幅広い思考を持つように指導しているという。ゼミでもオーソドックスに心理を勉強する期間と、近接領域(例えば社会学など)の理論や哲学を取り込んで心理学を勉強する期間を交互に設けているという。

「他の学問を学ぶことで、自分の中の学問的な思いこみが一気に崩れることがあるんです。それがたまらなく面白いんですよ(笑)

お茶の水女子大学は専攻とは別にジェンダーについて広く学べるシステムになっていますので、そうした刺激も受けやすいと思います」

先生の研究の道筋はおそらく平たんではない。パイオニアとしての苦しみも多いだろう。ただ、もし自分が心の病気にかかったとしたらどうだろう。きっと多くの人が、青木先生のようなカウンセラーにみてもらいたいと願うはずだ。

こんな生徒に来てほしい

タフな学生ですね。この分野は、実践研究が主になります。つまり大学院では、臨床技量を身につける訓練と研究を両方しますから、単純考えても、やることは2倍になります。訓練と言っても、実際にカウンセリングを行うわけですから真剣勝負です。カウンセラーになるために必要な話し合いスーパーバイズの場合は、個別指導になります。案外、クライエントさんの前では、頑張って面接を進めてくるのですが、あらためて自分の面接記録を読み返すと、不甲斐なくて情けなくて……涙となる。だから机の上にティッシュが常備してあります(笑)

でも、みなさん、逞しく成長されていきますよ。クライエントさんにとって最善の支援とは何か、みんな本気で考え抜きます。あとは、やはり、現場で様々な人とやりとりが必要になるので、人付き合いが苦手な人は向かないかもしれません。

このゼミは学部の4年生から所属できますが、社会人経験のある人も多いので、現役で合格した学生は人生勉強もできると思います

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。