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GOOD PROFESSOR

日本女子大学
人間社会学部 社会福祉学科

小山 聡子 助教授

小山 聡子(おやま・さとこ)助教授

日本女子大学文学部社会福祉学科卒。2年間の肢体不自由児施設勤務(児童指導員)をへて、ミシガン州立大学教育学部大学院リハビリテーションカウンセリング学科を卒業(Master of Arts)。知的障害者更生施設の指導員(現支援員)をへて、総合リハビリテーションセンター更生訓練所の生活指導専門職(現生活支援専門職)在任中に、日本女子大学大学院文学研究科社会福祉学専攻博士課程後期に入学し、同課程単位取得満期退学。

主な著書に『社会福祉概論Ⅰ―社会福祉の理論と体系』(全国社会福祉協議会)『新版障害者福祉論』(建帛社、いずれも共編著)など。

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やさしいだけでは障害者も健常者も分かり合えない

日本女子大前の通学路。春は桜、秋は楓に色づく

「大学の社会福祉学科にみなさんが進学しようというなら、いわゆる“弱者”をメインにとらえた社会福祉をイメージしないほうがいいと思います。あまり小さく固まらないで、社会福祉について広い視野をもつことのほうが大事です」

この小山先生のことばを聞いてちょっと驚く高校生諸君も多いことだろう。つい社会福祉と聞くと「弱者のための……」といった耳障りのよいイメージを持ってしまうものだ。

「社会福祉と聞いて、一般の高校生が想像するのは特定の人、典型的には障害者や高齢者の方々に向けたサービスでしょう。あとは生活困窮者や路上生活者(ホームレス)などいわゆる“弱者”に対して何らかのサービスをすることだと思っている人も多いでしょう。しかし、それは社会福祉の社会的役割のあくまで一部にすぎません。実際は、地域の生活者全般に対して、地域福祉計画を立案したり国の政策を考えたりもする非常に広い概念なのです」

そして、「対弱者」としてだけ社会福祉をイメージしないほうがいい理由についてはこうも説明する。

「『弱者をお世話する』という社会福祉の一般的イメージで場合によっては人を傷付けてしまうことがあり、またそういった自分がどういう立場にいるのかに気づかされるからです。『お世話をする』というやさしい気持ちは非常に大切ですが、それだけでは上下関係ができてしまいます。やさしいだけではやっていけない――それが福祉の世界でもあるのです」

それだけではなく、小山先生はもっと驚く話もしてくれた。

「障害のある方と最初接するときに『とまどい』を感じる場合もあるかもしれません。しかし、そもそも人はふだん接していない他人との出会いには『とまどい』を感じるものなのです。だから『とまどい』をただ振り払うのではなく、わかり合えない人同士が出会ったときの『とまどい』を大切にして、よりお互いを理解しようとすること自体が大切なのではないでしょう。

“とまどい”から逃げていては福祉も何もない

成瀬記念館。隣接する西生田記念室とともに様々な展示が

先生の話をお聞きしていて、福祉に対する筆者の考え方がずいぶん変わってくる気もしてきた。このような考え方に至るまでの小山先生がこれまで辿ってきた道について伺うと……

「高校時代に、社会問題というか『世の中の矛盾によって起こること』一般について興味をもち、社会科学系の専攻がある大学を受けて縁があったのが日本女子大でした。先に述べたような広い意味の社会福祉には元来興味をもっていましたが、障害者問題に進んだのは恩師の専門によって導かれた部分が大きいでしょうね。大学3年のときに研究・勉強の面白さに気づいて研究・教育という進路について担当の教授に相談したところ、『まずは留学して勉強したら』とアドバイスをもらいました。その留学にあたって求められたのが現場実践の経験で、そのときの肢体不自由施設での勤務経験が強く印象に残っています」

「わたしが留学したのは、ソーシャルワーク学部ではなく教育学部大学院のひとつのコースにあるリハビリテーションカウンセリング学科でした。アメリカでは同じ社会福祉分野でも、障害領域は教育学部で大学院レベルから学び、ほかの対象領域はソーシャルワーク学部・大学院で貧困の問題なども含めて学ぶシステムとなっています。わたしは大学院でカウンセリング理論や援助プロセスにおける各種の技法を学び、個別援助の面白さに目覚めて方向性が変わりました」

この留学・実務経験によって、一般的な常識から脱却した福祉観が小山先生のなかで確立されたのかもしれない。障害をもった方々との付き合い方についても先生は新たな考え方を示す。

「ある幼稚園での話ですが、アトピー症の子どもを見て『そのブツブツどうしたの?』と言った子どもがいたそうです。アトピーの子のお母さんはとても傷ついて、その後『今後そのようなことは言わないでください』というお達しが幼稚園内で出ました。しかし、生まれつき身体が不自由なレーナ・マリア・ヨハンソンさん(ソウルパラリンピック水泳3種目で入賞したゴスペルシンガー)も言われるように、『どうして、お手手がないの?』といった素朴・単純な疑問を封じ込めることでは何も解決しません」

「聞かれたりジロジロ見られたりしたら嫌な気持ちになることはよくわかります。しかし単に『気遣い』を強要するだけでは、むしろ健常者と障害者との壁を高くしていることも多いのではないでしょうか? 現場では、『とまどい』は『とまどい』で何とかやりこなしていく妙案を工夫し続けなくてはいけません」

狭い意味での援助に止まらない社会福祉

日本女子大学西生田キャンパスの校門

小山先生の講義が受けられる日本女子大学人間社会学部は、現代社会学科 社会福祉学科 教育学科 心理学科 文化学科の5学科から構成されている。そして、それぞれの学問分野を総合的に研究していってほしいという配慮から、各学科間でかなり自由な科目選択が認められている。そのなかでも先生が担当されている社会福祉学科の特色についてうかがった。

「いわゆる狭い意味での援助に止まらない社会福祉について学べる学科をめざしています。ただ、現状では社会福祉士など国家資格を取得するために行なう実習先についていえば、たとえば保育所や一般病院などは許可されておらず、福祉事務所や法律に定められた施設だけにどうしても限定されてしまいます。本来の社会福祉の専門家という視点からするとNGO・NPOや司法福祉領域などでの経験も生かされるべきなのですが、資格取得にこだわるとある程度限定された路線に乗らざるを得なくなります。そこで本学では、資格対策だけを大事にするのではなく、社会福祉全般を学べるような学科をめざしているわけです」

もちろん厚生労働省が定める社会福祉士などの資格を取得するための科目はすべて取得できる。また実習は必修ではなく、資格を取りたい人や卒業後すぐ社会福祉の専門領域で働きたい人が主に選択できるということになる。

「卒業生の進路としては、社会福祉の専門家になる人が9割以上の学校もあれば、ほとんどの学生が一般の職場に就職する学校もあります。本学科はその中間に属しているといえます。地方公務員を含めて約4割の学生が社会福祉の専門家になります。あとは一般就職をする人や大学院に進学する人もいます。社会福祉の専門家として働く場合、公務員のほか福祉施設の支援専門職・ケアマネージャー・医療ソーシャルワーカーなどが挙げられます」

小山先生のゼミでは毎年15人程度の学生を受け入れている。具体的には基本文献を輪読し、プレゼンテーションをしていくスタイルが基本となる。また小山ゼミの特徴として、ほかのゼミ演習とは少々違った勉強方法も取り入れている。

「ゼミナールでは対人援助の技術論(ソーシャルワーク)との関連でカウンセリング理論の勉強に力を入れています。また、社会福祉技術演習としてロールプレイやグループエンカウンターを重視していることも大きな特徴でしょう。環境調整を含めた援助技術体系のなかで、1対1の対人援助技術をどんどん研き上げていってほしいと思います」

こんな生徒に来てほしい

基本的には「いいセルフイメージをもった人」(自己肯定感の強い人=私ってまぁイケていると思っている人)に来ていただきたいですね。ただし10代後半から20代にかけては様々に揺れる時期でもあり、入学してからぐんぐんセルフイメージが良くなるということもあり得ます。

また、いわゆる「お勉強」ができるできないにかかわらず、自身になかなか自信がもてない方はいるでしょうし、そうした辛さが実は他者を支援するときの大きな糧になる場合もあります。そういう意味では、いろいろな人に来ていただきたいともいえます。本学科は、直接援助に興味のある方から制度政策や哲学・思想に興味のある方まで、さまざまな人がそれぞれのハマりどころを見つけられる場所でありたいと考えています。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。