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GOOD PROFESSOR

早稲田大学
大学院 生命理工学専攻 理工学術院 機械工学科

梅津 光生 教授

梅津 光生(うめづ・みつお)教授
1951年神奈川県生まれ。74年早稲田大学理工学部卒。79年同大学大学院理工学研究科博士課程単位取得退学。79年国立循環器病センター研究員。88年シドニー・セントビンセント病院部長。92年早稲田大学理工学部教授。93年豪ニューサウスウェールズ大学客員教授併任。01年早稲田大学大学院生命理工学専攻主任。

編著『人工臓器で幸せですか』(コロナ社)

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人工臓器研究の世界的パイオニア

梅津研究室のある早稲田大学58号館

2005年5月、東京女子医科大学の医療チームが次世代型人工心臓「エバハート」を心不全患者の体内に埋め込む手術に成功して話題になった。この国産の人工心臓は、従来の海外製のものにくらべて容積で4分の1(こぶし大)、重さは420グラム(従来品の半分)と大幅に小型軽量化された。従来品では体重70キロ以上の大人の患者への応用に限られていたが、体重40キロ程度の子どもの患者への応用も可能になり、画期的な開発として評価されている。

この「エバハート」の開発製作に預かって大きかったのが、早稲田大学理工学部の研究チームで、その中心になったのが機械工学科教授の梅津光生先生だ。人工臓器の世界的パイオニアと目される先生なのだ。

「人工臓器の開発というと医学の分野と思われがちですが、工学の基礎技術と医学の経験と知識を連携させて実現されるものです。とくに、人工臓器開発の要素である材料の開発 設計 製作技術は工学のもっとも得意とするところですからね」

そう語る梅津先生は、工学博士であると同時に医学博士の肩書きも持つ。プロフィール欄の来歴でもわかるように、医学の現場に出て人工心臓の臨床応用も多数も経験している。機械工学と医療に精通したエキスパートは世界でも数人といわれ、その貴重なひとりが梅津先生になる。今回の開発でも、世界最小の小型軽量化の実現のほか、血液の凝固を防ぐシール機構の開発などバイオエンジニアならではの工夫が凝らされている。

「エバハートの開発には15年ほどかかりました。苦心した点といえば、問題が多すぎて、それをひとつずつツブしていくのが大変でした。わたしがいつも思っているのは、自分の家族にもためらいなく使える人工臓器をつくりたい――そのために妥協することなく技術を磨いて高めておきたいということです」

エバハートの治験患者についていえば、手術前は絶対安静でベッドから起き上がるのも苦しかったが、術後1ヵ月で自力歩行するまでに回復しているという。心臓移植医療に新たな道を開くものとして、エバハートはいま世界中から注目の的だ。

実験動物の生命を気遣う「シミュレーター研究」

梅津研究室の実験室において学生たちと

さらに梅津先生には、もうひとつの研究テーマ「シミュレーターの研究」がある。

「『これからの工学は医学と結びつく時代が来る』と恩師にすすめられて大学院生で女子医大との共同研究に参加しました。その研究実験のために年間100頭もの犬が殺されましてね。そのとき、動物実験で犠牲になる動物を1頭でも少なくできないものか、動物の代わりにシミュレーターで実験できるようにして犠牲を少なくしたい――そう思いましてね」

その「命にやさしい」研究方法がエバハートの開発でも生かされたことはいうまでもない。世界の最先端を走る先生はまた実にハートウォーミングな先生でもある。

ところで、梅津先生は非常に忌憚のない話し好きな性格とお見受けした。この日も予定の時間を押してさまざまなお話を聞かせてくれた。

いわく――。
梅津家が「雨ニモマケズ」の詩の宮澤賢治の宮澤家と訴訟で争った話
機械工学の基礎を学んでいた先生が恩師のすすめで人工臓器の研究を始める話
遅れている日本の臓器移植医療
合理的なオーストラリアの教育システムなど。

いずれも興味深く面白い話ばかりだったのだが、スペースの都合で紹介できないのが残念だ。

本当の意味での「医工連携」はこれからだ

初夏のある日の早大大久保キャンパス

早稲田大学理工学部の機械工学科では、3年次の学生からゼミ演習が始まる。そのゼミの指導方針については、梅津先生は次のように語る。

「わたしのゼミで学ぶのはWhatではなくHowである――このことを学生たちには常に強調しています。つまり何を学ぶのかではなく、どう学ぶのかが重要になるということです。我々のように生体を扱う分野では、いろんなアプローチの方法があり得ます。最善のアプローチを選択できるようにするためには、学生時代にこのHowをしっかり身につけておくことが必要になります。そうすることで広い視野をもったエンジニアが育つと信じています」

ちなみに梅津研究室のゼミ生の卒業後の進路は、医療機器メーカーをはじめ電機・自動車・精密などのメーカーが中心になるが、マスコミや商社などに進む人もいて多彩だ。200名の梅津研OB・OGからは4人のパイロットも輩出しているのだそうだ。

さらに梅津先生の指導で特筆すべきは、学生の親との面談も必要とあれば行なっていることだ。

「学生の将来について、学生当人の意向だけで決めてしまっていいものか。とくにユニークな道を将来歩もうとしている学生に対しては本人の意向をわたしが理解するとともに現状の正確な情報をご両親に説明する――それが本来のあり方ではないかと思いますね」

超過密のスケジュールで東奔西走している梅津先生だが、自らの研究室に集う学生たちに対してこんなキメ細かな配慮までしているのである。頭の下がる思いだ。最後に、機械工学を学ぶことの意義についてはこう話してくれた。

「機械工学のカバーする分野はますます大きく広く変わってきています。ボルトやナットを油まみれなって扱っているようなイメージはもう以前のものです。いまやロボットづくりなどに代表される夢のある世界になっています。これからの高齢社会に向かって、医療・福祉の分野でも機械工学の果たす役割は本当に大きい」

「わたしたちの研究室では、機械工学と遺伝子や分子を結びつけた研究も始めています。これは世界でほとんど手がつけられていない分野です。これまで細胞生物学者しか扱えなかった領域に我々の技術を導入することで、新しい常識が生み出されていくことでしょう。本当の意味での『医工連携』の世界が開かれることになるんでしょうね」

ますます意気軒高な梅津先生。その疾駆はまだまだ続く。

こんな生徒に来てほしい

人工臓器の研究をするためには、物理・化学・生物のうち何を学べばいいですか?――といった質問を高校生諸君からよく受けることがあります。わたしは「どれでもいいから興味のもてる科目をひとつか2つ一所懸命に学ぶこと」と答えるようにしています。1科目が完璧に理解でき、考えるくせをつければ、あとの知識は大学・大学院に入ってから学んでもなんとか間に合います。人工臓器領域にはまだ未知の分野が多いですから、やる気のある人にはチャンスも多いですよ。ぜひチャレンジしてほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。