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GOOD PROFESSOR

聖路加看護大学
大学院 看護学研究科 看護学専攻

小松 浩子 教授

小松 浩子(こまつ・ひろこ)教授 1993年、聖路加看護大学大学院博士課程修了。看護援助を専門とし、がん看護・尿失禁ケアや実践・研究・教育の場で活躍。福島県いわき市のクリニックで尿失禁外来に携わったことでも知られる。

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最新医療に取り残される患者の心と身体をケアしたい

東京メトロ築地駅から徒歩3分。美しい校舎が学生を迎える。

想像してみてほしい。遺伝性の疾患と深い関係がある遺伝子をあなたが持つ可能性が出てきたとして 、その時あなたは遺伝子検査をどういう気持ちで受けるだろう?

自分が検査をすることで親族にも影響が及ぶかもしれない。あるいは子どもを持つかどうかなど将来の人生設計も変わってしまうかもしれない。事実を知るべきか、あるいは知らずに生きるべきか――この決断はとても重く悩むのは当然だ。では、そのような深刻な悩みをだれに相談すればいいのか。医師? 家族?友人? それとも恋人?

ただでさえ忙しい医師が個人の相談に何時間も割くことは事実上むずかしい。家族や恋人は問題の当事者になる可能性もあり、冷静な意見が聞けないかもしれない。そう、人生観まで問われるような最新医療技術が次々と開発される一方で、当事者の心のケアを巡るこの国の環境は意外なほど整っていない。

これは最新の治療の場面だけではない。何年にもわたる治療が必要な難病患者、性暴力被害者など衝撃的な体験によって医療の門を自らたたけない人――など医療の周辺には相談場所を必死で探している人が少なくない。そうした状況に対応すべく小松浩子先生は「新しい看護のあり方」を研究している。

「現在、乳がんの患者さんが集まれる場所をつくり研究しています。近年がんの治療も進んできており、乳がんは手術だけでは治療が終わりません。その後に化学療法や放射線療法あるいはホルモン治療などが行なわれます。ケースによっては5年や10年という期間も必要になります」

「がんを発症したというだけで患者さんはショックなのに、長期の治療を受けながら実生活との折り合いも付けていかなければならない。さまざまな治療の副作用をやり過ごす身体の手当ても必要です。再発に対する恐怖がフッと心をよぎることもあるでしょう。家族に心配をかけたくないという気持ちも募ります。そういうときに同じ病気を持つ人たちが集まれる場があって、そして看護師がサポートできれば、ずいぶん違うと考えました」

実際、この研究で多くの人々が生きる活力を取り戻しているという。「元気なお母さん」の姿を子どもに見せつづけるため、弱音を吐かず不安を心の奥にしまいこんできた――そんな患者さんたちが同じ境遇の仲間に心を許し合う。そして、そっと力を抜く。

「力を抜くことができれば、もう一度力を入れることもできるんですよ」

そうした患者さんの様子を思い出すように先生は語ってくれた。

患者が参加し研究デザインするCOEプロジェクト

キャンパスの目の前にある聖路加国際病院の創設者・トイスラーの記念館

いま「治療行為の補助」が仕事という看護師の旧来のイメージは大きく変わろうとしている。長期治療中における患者さんの日常生活の工夫や心のケア、あるいはさまざまな専門医が集う医療チームと患者さんの調整役――。看護師に期待される仕事の分野は意外なほどに幅広い。

こうした活動により患者さんの不安を軽減できれば病状の改善も早まる。また患者さん自身が治療法をきちんと把握して選択できるようになれば、救急病院などに駆け込む頻度が少なくなるとも予想される。

この新しい看護像の研究は文部科学省の21世紀COEプログラムに選ばれ、小松先生はその拠点リーダーを務める。しかもこのプロジェクトの研究方法が画期的なのだ。研究の初期段階から患者さんに研究協力者として参加してもらい、いっしょに研究方法をデザインするという。こうなると患者はもはや「研究対象」ではなくなってくる。

「患者自身にとって本当に深刻な問題は何か? 何をめざし何を明らかにすることが必要なのか? これらを市民の視点から明らかにしていきたいと考えています」

研究効率だけを考えれば、専門家だけで集まり方向性を決めて研究すればおそらく成果は出やすいことだろう。ただし、その研究の主役は専門家になってしまいがちだ。小松先生をはじめとする聖路加看護大学の21世紀COEメンバーはそれを潔しとはしない。

患者の経験を大事にして体を良くしていければ

景観がよいため、校舎前の芝生では写生している人がチラホラ。この芝生は昼になると学生に開放される

「わたしたちは市民主導型の健康生成をめざして、この21世紀COEプログラムに取り組んでいます。それは患者さんの生きてきた経験を大事にし、患者さんが主体的に体を良くしていく取り組みです。自分にとってより良い健康状態をつくり出していく考え方なのです」

「遺伝子疾患などの情報を知ることで自身や親族の生活にどんな影響が及ぶのかを理解し、そのうえで遺伝子検査を受けるかを自らの意志で決める。長期の治療に際しても、自分の生き方を考えて治療法を選ぶ。あるいは、自分が納得して死を迎えられるように治療法を選択する。具体的にいえば、このような取り組みですね」

市民主導型の健康生成をめざすため研究段階から市民主導で進めていく――こうした誠実な研究方針を聞けば、聖路加大学の附属病院で治療を受けたいと思う人も少なくないだろう。自らの生死にかかわる決定だからこそ自分が選択の主役でありたい。そうした考え方は先進諸国ではもはや当然ともなりつつある。

小松先生は、患者さんのことを第一に考え、この国の看護の世界をさらに進化させたいとしている。あなたが看護系の職種をめざすなら、心からお勧めしたい。

なお21世紀COEプロジェクト「市民主導型の健康生成をめざす看護形成拠点」の詳しい内容を知りたい人や、医療情報が必要な人がいるなら聖路加看護大学の看護ネットをのぞいてほしい。とくに「いい看護を受けるための豆知識」は本当に面白い。必見だ。

こんな生徒に来てほしい

こうありたいと初めから考える必要などありません。看護に関心があればいいと思います。あと自分の身体や心に関心のある方、突き詰めていくと人間の健康そして人間そのものに関心のある方、そんな人に向いていると思いますよ。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。